人工処女膜「イスラム法に基づけば販売業者を死刑に処すべき」

「輸入業者を死刑にしろ!」処女に戻れる驚きの中国製品に批判殺到―エジプト

2009年9月29日、台湾・中央社は、エジプトに輸出された中国製「人工処女膜」が議論を呼んでいると報じた。30日、環球時報が伝えた。

問題となっている「人工処女膜」は血液に似た赤い液体が含まれており、女性の体内に入れて使用する。エジプトでは婚前性交渉は最大の恥辱とされており、初夜を迎えた新婦が処女と装うために使用されるのだとか。

エジプトではこの「人工処女膜」について批判が高まっている。あるイスラム学者は「社会に罪悪をまき散らすもの。イスラム法に基づけば販売業者を死刑に処すべき」と主張した。国会でも一部議員が輸入禁止を主張しているという。エジプト以外でも中東各国に広がっており、シリアでは15ドル(約1350円)で販売されているという。(翻訳・編集/KT)
2009-10-01 12:55:05 配信
レコードチャイナより引用)


 こういう記事を見ると、「流石はイスラムだな」「レイプ被害者に石を投げる世界だもんな」などと思われる方も多いと思いますが、しかし、僕にはどーにも良く分からなかったのです。というのも僕が知る限り、イスラム教には「処女じゃないと結婚しちゃダメ」という教えはなかった気がするんですよね。そもそもムハンマドの奥さんたちも再婚(とか再々婚)ですし、イスラム教の一夫多妻制は未亡人救済のためでもあるわけです。ですが、イスラム学者(※)が「イスラム法に基づけば死刑」と言ってるからには、これは何かの法源に依拠したきちんとした判断なのかなあ、とも思われるわけです。


イスラム学者(ここで言われているのはおそらくイスラム法学者)っていうのは、コーラン聖典)とかスンナ(ムハンマドの言行録)などの法源を基に、「実際のこういうケースはどうなんだろう??」と判断するお仕事のことです。例えば、味の素を作る際に触媒として豚の酵素を使っていることが昔インドネシアで問題になりましたが、これもイスラム圏で商売をする時はホントはイスラム法学者にお伺いを立てて、問題あるかないかを事前に判断してもらわなければならないわけです。ですので、記事で「イスラム法に基づけば」とイスラム法学者が言ってるからには、これは何らかの法源に基づいた発言と考えられるわけです。


 ということで、この点をハラルニートイスラム担当者であるravenさんに聞いてみました。「イスラム学者たちはこの場合、何を法源にして『死刑だ!』って言ってるの? 少なくともコーランには『非処女は結婚できない』って書いてないよね??」と。

 これに対してravenさんいわく、「うさんくせえ」とのこと。何がうさんくさいって、「本当にイスラム法学者が公式にそうコメントしたのかは疑わしい」とのことです。ちょろっと口走ったのを書かれただけなんじゃないか、と。ちなみにravenさんはJOJOコーラン事件の際の

>>  イスラムスンニ派教学の最高権威機関アズハルの宗教見解委員長アトラシュ師は「イスラム教に対する侮辱で受け入れられない」と非難した。

 に関しても、「アトラシュ師がJOJOの問題の箇所を見て、正式にコメントしたとは考えにくい」「こんなけしからんアニメがありますよって言われて、それはけしからんなあ、くらいで答えただけじゃないか」とも言ってましたが、彼いわく、「この手のニュースの、イスラム法学者がこういっています、はあまり信用しない方がいいかも」とのことです。また、ハラルニートイスラム方面顧問の西田女史によれば、どうも向こうには「自称イスラム学者」というのも沢山いるみたいで、今回のように学者の名前も出ていない場合はどこまで記事を信用していいのやら……。


 なお、西田女史に聞いてみたところ、コーランにおいて女性ムスリムが遵守すべき箇所は以下が該当するようです。

『おお、預言者よ、もし女の信者が汝のところに来て、神にどんなものも併置せず、盗まず、姦淫せず、おのが子らを殺さず、手と足のあいだで捏造した嘘をつかず、正しいことで汝にそむかないと誓えば、汝もこの誓約を容れ、彼女たちのために神にお赦しを乞うがよい。まことに神はよく赦したもうたお方、慈愛あつきお方である。』中公クラシック『コーラン』60章より引用)

 ここで「姦淫」となっているのが元々「ズィナー」という言葉らしいのですが、これが「婚外交渉」とか「不倫」といったニュアンスとされています。が、実際のところは良く分からないらしいです(現代とは「結婚」の概念が違うから)。実際にズィナーに当てはまる行為としては、婚前交渉というよりはむしろ、政略結婚、強姦、不倫などではないか、と女史は言っています。

 そして、女史いわく、この箇所に照らして人工処女膜を問題とするならば、「処女でなかった」ことよりも、むしろ「嘘をつかず」の方ではないか、と。人工処女膜は「処女ですよー」と嘘をついている点において、イスラム法としては問題とすべきであり、ズィナーの点で処女喪失を責めるとしても、それは二義的な問題ではないだろうか、とのことです。


【まとめ】

イスラム法学者法源に基づいて、公式発言として「イスラム法に基づけば死刑」と言ったかどうかは怪しい。
・人工処女膜を「イスラム法的に」問題とするなら、それはむしろ「嘘をついている」ことの方ではないか?
・処女性を重んじるのはイスラムの本筋とは関係なく、単にイスラム圏での習俗の話ではないか?(※)


イスラムにおいて、「宗教的に許されないこと」をハラームと言いますが、信号無視とかに対しても「ハラーム!」というらしいです。信号無視はもちろんコーランで禁じられてませんし、ムハンマドがダメだと言ったわけでもありません。「常識的に考えてそりゃダメだろ」くらいのニュアンスでもハラームということもあるようです。婚前交渉がタブー視されるエジプトにおいて、人工処女膜はそういった意味でハラーム(宗教的に問題アリ)とされたのかもしれません。