音楽図鑑:近況報告

2012-02-09

[]クロード・ドビュッシーの挑発的ナゾナゾの巻(その12)

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ドビュッシーの練習曲集第12番の冒頭にして最大の難関。というかこの曲は半分以上この調子ですが(汗)。
「これひどいわよね!あっちとこっちをこんな感じで ⊂(← ^ →)つ ヤブ睨み*1になって同時に見ないと弾けないわよ!」「右手のこのオクターブの音程差を掴むのがたいへん」(といいながらピアノの鍵盤をオクターブでポン、いったん手を縮めてもう1回広げてオクターブ上げた位置でまたポン、と押さえる)⇒左手のほうが大変じゃないの?と最初は思ったが実際に弾いてみたら右手が地獄。理由は後述。ドビュッシーの練習曲はどれもこんな感じで絶対に弾けなさそうなパッセージが必ずあるの」「でもギリギリのところで弾けるようになってるの。弾けるか弾けないか本当にギリギリ」「そう、たぶんね、ドビュッシーはピアノが上手かったのよ。とても。だからこれはピアニストに対する挑戦状よ!」「しかもこれはね、知的遊戯なの。たとえばシューベルトだとね・・・(いきなり未完成の冒頭を弾き始める。ダークな波動が一気に周囲を覆うw)・・・は〜ぁ、おそろしい。これはもう地上の人間の音楽じゃないわ。黄泉の世界に踏み込んでいる。でもドビュッシーは違うの。人間なの。」「この知的遊戯のおもしろさ、たのしさ。これこそ20世紀の文化なの。」
こんな具合にまくしたてるのは、例によってわれらが内田光子先生でございます。これはドビエチュに関するインタビューという名目の独演会&ツギハギなし演奏スゴスギを収録したフィリップス特製ビデオにおける機関銃掃射の様子です。ちなみに私はLDで持ってますが、初めてコレをみたときは(  ゜ д ゜)ポカーン でした。いまはあの人の機関銃への耐性がつきましたが初体験でこれはきつい。まさに蜂の巣状態。
わたしももう10年間この楽譜とニラメッコ状態です(嘘)。内田さんが弾いてる4分の1くらいのテンポなら弾けるんですが半分のテンポでもミスります。というかほとんど当たりません。どうしたらいいのかわかんないので10年間放棄してました。ところが。

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とか・・・

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とか。
こんな練習法を昨日電車の中で思いついてしまい、いそいそと家に帰って実行すると・・・ほとんどミスなく弾けるようになった!!

えーと、ここに至る道筋を書くと。
ショパンエチュード練習法をまとめている中でコルトー爺が同一鍵盤上での1−5交代を練習しろってやかましいので「うぜえなあ」とか思っていたわけ。「そんなことやらなくたってop.10-1も25-12も弾けるだろ」とか「バラード3番の展開部のアレもふつうに楽勝だろ」とか「リストみたいに3オクターブを単音でポンポンポンポン往復するパッセージに比べたらヌルすぎるわ」とか。でも1−5交代のポジション移動を身に付けるとオクターブ上や下の音をひょいと掴めるのは確かだよな、と思った次の瞬間、「あっ!!!」

ドビュッシー練習曲集の第12番は両手同時逆方向跳躍まるで次元波動超弦励起縮退半経跳躍重力波超光速航法略してワープって考えてたからぜんぜん弾けなかったんだヴォケがそうゆう固定観念に縛られるから弾けるはずのパッセージが一生弾けないまま死ぬハメになるんじゃおまえこのまま死んでいいのかよっていうか死んでたまるかfromイデオン発動篇じゃなくてどのみち左手はオクターブ以上飛ぶから左手からは絶対に視線を外せない内田光子も左手のことに言及しないで右手の音程差がどうのこうの言ってたからみっちゃんも右手を見ないで弾いてること確定となれば右手側をほとんど見なくて弾けるようになにか工夫するしかないんだけどメクラ状態で跳躍して当たるわけがないじゃんメクラといえば(ピーーーーーー)だよなあいつ明らかに手探りで弾いてたなみっともねーのもっと頭のいい効率的な手探りの方法できれば瞬時に把握できるくらいのやつがないかなたとえば大洋のエチュードと同じように5−1置換しながら手を開くと同時にポジション移動で弾けばいいんじゃね?オクターブの手の開き具合なんかもー身体にしみこんでいい塩梅のお味になってるおでんの大根と同じだから右手の鍵盤なんか見なくてもいけそうっていうか絶対にいけるはず練習方法は2つの音符をタイにして弾くのがいいかもでも打鍵状態を保ったまま指を置換するのはしんどいよなだったら5−1−1で連打するやりかたでもいいはずっていうか5−1−1の入れ替え連打は跳躍より絶対的にミスしにくいし弾きやすいこれで勝つるっていうかおでんの大根だいすき!!!

以上を量子力学的トンネル効果で思いつき(⇒超えられない障壁を瞬時に通過する、ということを科学的に述べてみました)、電車の中でシャドウ打鍵しまくる怪しい人と化しました。前に立っていたお兄さんの怪訝そうな視線がw。そして家に帰っておでんを食べたらピアノに向かったら、いきなりできちゃったw鍵盤上で置き換える練習をする必要すらなかった。なにこれw5−1−1を意識すると置き換えと同時にポジション移動を開始できるので高速かつ確実です。

みっちゃんは解説ビデオでドビエチュの弾きにくい部分を「アテクシはこうやって弾くことにしてるの。これが万人に通用するとは思わないしベストであるとも言わないけど」とネタばらしをやりまくっていて、特に半音階のメチャクチャなパッセージの弾き方を運指を含めて詳しく解説してくれたのね。でも12番のこの部分は「ひどいパッセージ」の連発で弾き方を教えてくれなかったのでケチくさいババア(当時はおねえさまくらい)だなあと思ってたの。きのう弾けるようになったあとでビデオ見返したら上の赤字で示したようにみっちゃん伝授してくれてるじゃんw「1と5の指をいかにして近づけるかを考える」⇒俺の練習法で正解w「でも演奏会では無駄よ。3割は失敗w」という発言をしていました。まあいいや自己解決できたから。

この練習曲集はピアノ弾きへの挑戦というより厳選された12問のクイズ集だな。だからあいつは前書きで運指を書かない理由をグダグダ述べたあげく「自分の運指を探そう!」という極めて常識的な結論を押し付けてきたんだ。さらにあいつが子供の頃から弾いてきたショパンエチュードの技術を応用しないと弾けないから、フレデリック・ショパンに献呈したんだ。最大のヒントを書いてるんだ。そしてこの曲集が「せいぜい謎解きを楽しみやがれ。これが俺からお前たちへの冥土の土産だよ。」っていうあいつのラストメッセージなわけだ。粋だな。これぞエスプリだ。そして泣ける。これはピアノ弾きへありったけの愛情をこめた遺言状だ。なんて泣ける練習曲集なんだ。最高だぜクロード・ドビュッシー!!

そのうちうpされるであろうドビエチュの解説まで取っておくべきだったかもしれないけど、その前に氏んじゃったら悔しいので今日公開。

あとはもう適当に。

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バラード3番展開部。発表会で全員が苦労しているパッセージ。ここをスムーズに弾けた人を見たことがない。この運指はすごく良い。Gisをわざわざ4⇒5に置き換えてるのがポイント。黒鍵だから4、と頭ごなしに考えていると失敗する。上がるときは4⇒1で連打するより5⇒1連打のほうがショパン的にやりやすい(オクターブ上へのポジション移動が)というのがその理由。逆に下がったときは1⇒5連打より1⇒4のほうが自然に次のオクターブ下の音を取りやすいフィギュレーションになる。

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ドビエチュ7番「半音階のための練習曲」から阿鼻叫喚の地獄絵図(部分)。
バラードと並べるとオクターブと半音階の違いはあるけど同じことやってるのがわかるでしょ。ショパンop.10-8とも似てるけど。そういうことなのよこの練習曲集は。
「ここはね、左手の親指が旋律なの。ピアニッシモだけどちょっと歌っている。そして低音でボン、ボン、って鐘が鳴るの。だけど技術的な問題はもっぱら右手なのよねw」左手は跳躍する瞬間だけ見ればいいが、右手は見ていようといまいと地獄なことにかわりない。この部分の運指が問題で、すなおに5432−1321と取るとスムーズに流れない。ショパンエチュードop.10-2のアンダーラッピング・メソッドを適用して5435−1432と取ることでスムーズに流れるようになる。以上、ドヤ顔の内田光子談(「どう?すごいでしょ?」みたいなカメラ目線で話してたw)。なおショパンエチュード云々は私の付け加えw
このパッセージも10年前は全然弾けなくてへこんだけど、なぜかいま弾けるのよね。なにを練習したのが良かったのかわかんない。ちなみにop.10-2は1週間前から本気で練習始めたばかりですw
この部分を勝手に改変して、右手のパッセージをオクターブ上下しないで同じ音域でタラリラタラリラ繰り返したクソピアニストがいて目玉が (  Д  ) ゚  ゚ ポーン な気分になったことがあるw誰だったかな忘れちゃった。ムカついたんでCD捨てちゃったかもw

今回の気づきのおかげで懸案だったショパン葬送ソナタ第二楽章もスムーズに弾けそうだし、勝手に難しいと思って敬遠していた他の作曲家の曲も弾けるようになりそう。やっぱりショパンエチュードは真面目に勉強しないとだめね。それとコルトー爺のいうことはちゃんと聞くことにしようwコルトー版ショパンエチュードの楽譜はおじいちゃんの知恵袋です。ありがたや〜。

*1:字幕はこう出ていたが正しくはロンパリw

asaumiasaumi 2012/02/09 22:37 こんばんは。
このLD持ってますが、だいぶ昔にプレーヤーが壊れてしまったため、現在は残念ながら見ることができません。
それでも、内田光子さんの印象に残る場面が結構ありまして、今でも良く覚えています。本当にあそこで弾きだしたシューベルトはただならぬ暗さでした(小さい子が聴いたらシューベルトへのトラウマになるのではないかと思ったくらいw)。上で仰っている「半音階」での5-4-3-5の運指なども「へぇ〜」とか感心しながら見ました。

あと同じ20世紀音楽ということで、シェーンベルクと対比してのコメントもあったと記憶しているのですが(確か「同じ知的ではあっても、シェーンベルクは従来の機能和声法とは独立した音楽システムを構築することを目指したが、ドビュッシーは調性に依拠しつつも、その使い方や組み合わせ方を変えてしまうことで、新しい音楽を作った」という趣旨だったような?)、いかがでしょうか。

HarnoncourtHarnoncourt 2012/02/09 23:07 asaumiさん、こんにちは。同じ映像を見ていたんですね。
あのビデオはいきなり弾きだす未完成、いきなり弾き出すツェルニーやショパンのエチュードなど見所満載ですよねw
シェーンベルクについては、機能和声を捨てて新しいルールを作ろうとした、ということを言っていました。機能和声は行き詰ってどうにもならないと考えたのではないかと。シェーンベルクについて内田さんはあちこちで話していて、要はドイツ人はなにか法則や掟を作ってそこを拠り所にしないとなにもできない、ということだそうです。さらにシェーンベルクに関しては掟を作っただけでそれを聴衆に説明する努力をしなかったので、おかげで現代音楽の演奏会やっても全然客が入らない、という批判もしています。
ドビュッシーは従来のV→Iといった決まりごとから和声を開放して彼が欲しい響きを組み合わせて音楽を作り上げて行った、という主旨のことを話していました。つまり和声の機能性を捨てるのではなく拡大することで自由度を獲得したと。ここが明らかにシェーンベルクとは違うところだといっていました。また練習曲集には明らかに調性に依存した曲もあればほとんど無調に近い曲もあって、その中間のような曲もあると。つまり彼の中ではこれは調性音楽、これは無調音楽といった区別はなく、どちらも同じ彼自身の語法で書かれた音楽であって、その個性自体が魅力である、と語っています。

asaumiasaumi 2012/02/10 00:21 Harnoncourt様、なるほどそうでしたか。詳しくご説明くださってありがとうございます。個人的にはシェーンベルクの音楽も、室内交響曲第1番から「ピエロ」「期待」のあたりまでの作品が妖しい雰囲気に充ち満ちていて、結構好きだったりします。
そういえば段々思い出してきました。ツェルニーの40番もいきなり弾いてましたね。確かにそういう意味でも見所満載でしたw

今年12月のツィメルマンの来日プログラムではドビュッシーの練習曲があるみたいですね。ツィメルマンのドビュッシーは、20年ぐらい前の前奏曲集の録音きりのはずなので、どうなるかと思っています。

HarnoncourtHarnoncourt 2012/02/10 08:43 ツィメルマンのピアニズムというか彼の性格は、本質的にドビュッシーと合わないように思うんですけどね。実はショパンにも合ってないのではないかとひそかに思っていまして(笑)。特にショパンがフランスに出て以降の作品はソナタを除いて合わないように思ってます。となるとあとは協奏曲とグランドポロネーズくらいしかないわけで、実際ツィメルマンの弾くショパンのピアノ協奏曲はとても素晴らしいと思います。ピアノソナタは録音するといったきり音沙汰がありませんけど(笑)。
ドビュッシー(のピアノ曲)は本質的にショパンの同一線上にあります。ツィメルマンのドビュッシー前奏曲集もたいへん見事な演奏ではあるのですが、どこか息苦しさを覚えてしまいます。ツィメルマン氏は若い時期にかなり不遇な状況にあったようで、それが彼の音楽に色濃い影を落としているように思います。こういう言い方はどうかと思うのですが、夜遊びができなかった人は一般的なフランス音楽はいまひとつ理解できないような気がします。

それでここからが本論ですが、ドビュッシーの練習曲集は遺言書も同然、つまり夜遊びとは無縁の真剣勝負なので、これはツィメルマンに合わないはずがないと思ってます。内田光子さんが練習曲集しか弾いていないのは、彼女の自己分析力と選曲に対する見識の高さを証明しているように思えてなりません。ツィメルマンは内田さんと同じタイプの演奏家だと思いますし、いつかドビュッシーの練習曲を弾いて欲しかったので、今年の演奏会はとても期待しています。
ツィメルマンは内田さんと同じくらい軽やかに音楽と付き合って欲しいですね。まじめすぎて(笑)。

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