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緑陰ソナー

2011-10-26 水曜日

[]ゆるやかな死を死ぬ

リンドウは陽にあててやらないと花がひらかない。

朝、白い一輪挿しに活けた枝を窓ぎわの日なたに出してやり、錐状のつぼみが藍色にほころぶのを待って食卓に飾りなおす。閉じては開き、開いては閉じるのを幾日か繰りかえすうち、深緑の葉の縁が赤茶けて、いくら待ってもひらかないつぼみが増えていき、それでも咲く数輪のために捨て時がわからないでいる。

2011-04-04 月曜日

[]可動ハンガー

白壁と天井の化粧板の境目近く、あんな所に額を掛けるハンガービスがあったかなと眺めていると、それは陽気に誘われて出てきたシジミ蝶なのだった。

2011-01-31 月曜日

[]渓流オセロ

谷間を南へ流れくだる川にかかる橋から、下流をみやると、きのう降った雪がかわらの石の輪郭で溶け残っている。

視線を川上に転じれば、見わたすかぎりの雪は溶け、黒々とかわいた石がいつものように続いていた。

ドウダンツツジの一株ごと北側に丸く溶け残った雪を、屋根の輪郭に切り取られた斜面の雪を、目にするたびに、ああ、いつもは黒い影の部分が雪で白く反転しているのだと思う。

2011-01-23 日曜日

[]自由の価格

車がなくても当面の日常生活に支障はないけれど、何かをしようと思ったときにそれを成し遂げるための手数や時間が格段に増えるので、何かを思いたってはそのたびにガラスの天井に頭をぶつけているような日々が続く。

何百万というお金を払って買っているのは、実は実質的な利便性よりは、この「何でもやろうと思えばすぐ出来る」という感覚なのではないかと、車で通りすぎれば一瞬ですむ坂道をとぼとぼと登りながら延々と考えていた。人は自由にはすぐ慣れてしまうけれど不自由には敏感だ。

2011-01-09 日曜日

[]甘い情景

しばらくは抜け道のない谷間の道で自然渋滞につかまってしまった。あきらめの息を吐いて、シートにもたれ、ワイパーを止める。

十分にあたたまったフロントガラスに、おりからの淡雪が降りかかってはほろりと砕け、砕けては溶ける。舌先にほどける綿あめを思えば、にじむ車窓は祭り提灯の色で、テールライトがはるか彼方まで連なっている。

2011-01-01 土曜日

[]君子は豹変す

近所の花屋の店先で笑顔を振りまいていた恰幅のよいサンタクロースが、福々しいシルエットはそのままに、大福餅のような白うさぎに変身していた。

2010-12-23 木曜日

[]インプリンティング

年末の休みを数日後にひかえ、朝から車を走らせていると、小雪舞う路肩を、郵便局員の赤いバイクに遅れまいと、全力で立ちこぎをしている高校生に出会う。

一週間の後にはこの子たちの手によって、懐かしい人の近況を知ることになる。二時間あまりのあいだにそんな光景を三度ほど見た。

2008-08-31 日曜日

[]残照

道にそって咲く白い百合はレトロなランプに似て、毎日すこしずつ日暮れが早くなる帰路を照らす。昨日より今日、今日より明日としだいに数を減らし、灯りがすべて落ちるころ、秋の闇が残る。

2008-07-16 水曜日

[]Quo Vadis

窓ぎわの棚にならんだ本で裾をおさえられたカーテンが、乾いた風をはらんで帆布のようにふくらんでいる。部屋の奥深くさしこむ朝の陽ざしに白く輝くさまにみとれながら、足もとの板張り一枚へだてて、静止している建物がそのまま海上へ滑りだすのをまなうらにえがいている。

2008-06-11 水曜日

[]減反

夏至が近い。田ごとに映りこむ風景は稲の生長につれて紗がかかり、おぼろになっていく。そんななか時々半分ほど苗を植えずに残された水面には、いまだに雪を残した山並みがくっきりと稜線を浮かび上がらせていて、その澄明さが痛々しい。

幼いころから見慣れたこのねじれた水鏡も、今年を最後に姿を消すかも知れないという。

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