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2011-02-26 理学は、実業の諸問題を解決出来るか−再び

[]拓海広志理学は、実業の諸問題を解決出来るか−再び」

 昨年の3月13日に書いた「理学は、実業の諸問題を解決出来るか(2)」で紹介させていただいた、ESRIシンポジウム2010「サービス・イノベーションへの期待−理学は、実業の諸問題を解決出来るか−」の続編が開催されました。題して、ESRIシンポジウム2011「サービス・イノベーションへの期待−理学は、実業の諸問題を解決出来るか−」です。


 前回は僕を含む4名のパネラーがビジネスの現場における様々な問題を提示し、それに対して座長の西成活裕さん(東京大学先端科学技術センター教授)をはじめとする理学者の方々(高安秀樹さん(ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー)、時弘哲治さん(東京大学大学院数理科学研究科教授)、増田直紀さん(東京大学大学院情報理工学系研究科准教授)、菅原研さん(東北学院大学教養学部情報科学科准教授))が即興で問題解決への道筋を示すという、かなりユニークで刺激的なパネル・ディスカッションでした。僕が提起したのは、互いにトレードオフとなる様々な要求が重なり合うことでトリレンマ的状況に陥りやすいSCM(Supply Chain Management)の全体最適化を進める際に、理学がどのような解を示せるのかということでした。


 西成活裕さんをはじめとする理学者の方々は、「理学の効きどころは『最適化』だ」としながらも、「短期的にピッタリの最適化を目指すことが、必ずしも長期的な適応・生存につながるとは言えない(=生物モデルからのアナロジー)」、「変化の激しい時代に、短期的な視点に立った最適化を繰り返すのは、そのコストが高くつきすぎるし、モデルも壊れやすい。従い、変動に耐えうる『ゆるいモデル』(=準最適解)の方がよい」、あるいは「短期的な利益追求よりも、長期的な顧客満足追求の方が重要」といった考え方を示され、僕は非常に共感を覚えました。しかし、その準最適化がどうあるべきなのかということについてはクリアにならぬまま、前回のシンポジウムは終わったのでした。


 今回のシンポジウムは、基調講演・招待講演と、「数学が流通問題を解決する〜現場事例を踏まえて〜」、「生物学が流通問題を解決する〜創発的アプローチ〜」という二つのパネル・ディスカッションから構成されており、僕が参加したのは生物学についてのパネルです。司会は今年も西成活裕さんで、パネラー小林亮さん(広島大学大学院理学研究科教授)、佐竹暁子さん(北海道大学大学院地球環境科学研究院准教授)、竹内秀明さん(東京大学大学院理学研究科助教授)、栗原聡さん(大阪大学産業科学研究所准教授)、宮田啓友さん(楽天物流株式会社代表取締役社長)、石澤直孝さん(日本郵船株式会社技術グループR&D事業開発室室長代理)、樋口宣人さん(ケンコーコム株式会社取締役)に僕という顔ぶれでした。


 このパネルでは、生物が環境に適応しながら、自律分散的な行動を取ることで自己組織化していく様々な事象や、そこで起こる創発的な現象と、人間が試行錯誤して作り上げる流通モデル、マネジメントモデルとの比較検討を行ったのですが、小林亮さんをはじめとする生物学専門家の方々からは、非常に示唆的な話をたくさん聞かせていただきました。例えば、粘菌俯瞰的にモノを見ることができないにもかかわらず、数学シュタイナー問題を解くことができて、複数拠点間の最短距離を結ぶネットワークを作れるという話。あるいは、自律分散システムによって信号を運用すれば、実際の交通状況を認識した個々の信号が近隣の信号と連携することによって渋滞を緩和させる行動をすることができ、うまくいけば中央制御システムよりも効率よく、ロバスト性も高めていける可能性もあるといった話など、正に話題が尽きなくて時間が足りないといった感じでした。


 僕は、「自律分散」、「自己組織化」、「創発」といった事柄には、学生の頃から関心を持っていました。量子の世界から生物の世界に至る自然界で見られるこれらの現象を、自然界を貫く重要な性質だとした上で、人間や、人間が作る集団・組織、また、その社会や経済をも量子〜生物の世界と連続性を持つものと捉え、それらを包含するものとして地球生態系を見るのはとても重要な視点です。そして、その延長線上に地球太陽系〜宇宙を捉えていくのも、非常に刺激的な思考だと思います。僕は当時から「自然とは何か?」、「<個>と<個>の<関係>、また、<個>と<全体>の<関係>とは何か?」といったことに非常に関心がありましたし、まだインターネットがなかった時代にネットワーク型&サロン型のNPO組織「アルバトロス・クラブ」を運営していましたので、こうした思考から組織マネジメント創発の<場>形成のヒントをも得ていたのです。


 そんなことを思い出しながら、僕はこのパネル・ディスカッションを楽しませていただいたのですが、理学者の方々のわかりやすい説明のお陰で、数学が流通の最適化やサービス・イノベーションに大きな貢献をなしうることはよくわかりました。また、トリレンマを伴うような複雑な問題については、生物モデルをうまく用いることで準最適解を導き出せる可能性があることについても、前回のシンポジウムの時よりも具体的なイメージを伴って理解できました。そして、理学者の方々には是非実業の現場において具体的な問題を題材とした研究に取り組んでいただきたいし、政府と企業も積極的にそうした<場>を創出していく必要があるように思った次第です。今回集まったメンバーと会場に来てくださった方々が、シンポジウムという<場>の力によって、何らかの創発を起こせるのかどうか、今後が実に楽しみです!


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