Frank De Vol フランク・デ・ヴォル/More Radio’s Great Old Themes

Hi-Fi-Record2006-11-29

 レコード屋さんの店頭で学んだことは数多い。ぼくが中学、高校生だった1960年代の日本盤洋楽レコードのライナー・ノーツには、ジャケットの裏に印刷してあるものも多く、それを片っ端から読むことで随分と勉強をさせてもらった。レコードを手にとって眺めているうちに、自然に名前が目に入って、ふと覚えてしまって、気が付くと随分と昔から、そのアーチストのことを知っているつもりになってしまうこともたびたびだった。
 レコード屋さんでの立ち読み。
 シャンソンフォルクローレのレコードはそんな風にして買った。容易に入手できるその種のジャンルのガイドブックなんて、見あたらなかったからでもある。



 アメリカのレコード店で日がなレコードを眺めていると、その頃とまったく同じような気分になる。ふと高校時代にタイムスリップしているようだ。なにしろ優に半世紀を超えるレコードのストックの前にいる、それも実物を前にしているのだから。備え付けの試聴機で聴くべきレコードを見出すことが、まるで図書館の壁から次に読む本を抜き出す時のあの感じと重なってくる。




 このレコードとの出会いも、楽しかった。ラジオ番組のテーマ音楽集である。MBCCBSなどの名物番組のテーマ集を、司会者の顔写真や番組紹介コメントと共に楽しむことが出来る。演奏しているのは、フランク・デ・ヴォルのオーケストラだし、中身も薫り高い一級品だ。
 思わずハッとしたのが、そこに「エストレリータ」が収められていたからだ。「小さな星」と言う意味のこの美しく可憐なメロディの曲が昔からとても好きで、長く愛してきた。作曲者は1882年生まれのマヌエル・マリア・ポンセ。メキシコ人の彼はドイツでクラシック音楽を学び、この歌を作詞作曲した1913年頃には母国で教壇に立っていたらしい。1914年出版の「メキシコ歌曲集」に収録された。



 この曲の演奏には、ラテン系のアーチストもあれば、アメリカのポップス・オーケストラのものもある。隣国メキシコの曲ってアメリカでもポピュラーなのかな、くらいの軽い気持ちで楽しんでいた。なぜこれほどに多くのアメリカ人演奏家によってカバーされることになったのか、その謎がこのこの「More Radio's Great Old Themes」のコメントを読んでいて解けた。かつてのラジオ番組の主題歌だったのだった。
 帽子デザイナーのジョーン・ツルマンと科学者である彼女の夫、ドクター・スコットによる「生活の諸問題を解決する番組」のテーマソングだったという。
 なるほど、そうしたきっかけでもなければ、これほどに知られる曲となることはなかったのかもしれない。
 
 
 
 ポンセがこの曲を書いた1913年には、まだアメリカのラジオ放送は始まっていない。とすると、彼はラジオ局の要請で作曲したのではないはずだ。そうなると、こんどはどんな経緯をたどって、エストレリータが、ラジオ局のテーマにたどり着いたのだろうと思い始める。
 想像をふくらませながら、繰り返しレコードに針を置いている。
 ほかにもこのアルバムにはラジオの時代のポピュラー音楽を垣間見せる興味深い曲目が並んでいる。
(大江田信)


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