徹底した報復か、目を背けた堕落か。

 アルシネテランさんのご招待で、「殺人の告白」試写へ。直截に見える邦題も原題の意味と「殺人の追憶」への含みを交え考え抜かれてる。だから、詳細こそないが、本作における未解決連続殺人も、「〜追憶」における“華城連続殺人事件”がモデルだ。さらに自称・犯人像のビジュアルも「〜追憶」の最有力容疑者をより洗練したような…、あえてさらに、穏当かつ的確な表現をすれば、「GANTZ」の“西”(いわゆる酒鬼薔薇)や、“光市母子殺害事件”の犯人等の、情性欠如型少年事件犯をモデルにした、完全な冷血動物的風貌。それにしても、「悪魔を見た」が頂点かと思ったが、やはり現実韓国社会の性犯罪や快楽殺人の蔓延を反映し、女が標的の連続殺人ネタは尽きないね。いかに韓国で警察や法がまともに機能していないか、作中でも「親切なクムジャさん」よろしく、遺族が結託し私刑を計画するなど、その機能に一般人が信を置いてないかも良く分かる作りだ。まあ、そもそも韓国自体が、成功例としての日本を手本に、アメリカ主導で劣化コピーされた防共の盾でしかないので、この歪みはいつまで経っても免れないんだろう。政治的には北朝鮮よりはマシ、程度に考えて放置するしかないが、それでも、この歪みのお蔭で我々は、良質の復讐バイオレンスの豊作に浴することができるんだから感謝しないと。ちなみに犯人が名乗り出る設定は、「セブン」辺りに着想を得たと推測されるが、中盤の「身代金」や「プレッジ」を意識したような展開に、作品はジャンル分け不能な幅を見せ、やがて私怨の激突として復讐ジャンルに収斂していく構成は、久々に韓国映画を観てる充実感をもたらしてくれる。また、顔面の片側をジョーカーばりに裂かれた刑事が、周囲から盛んに傷跡消去を勧められることから、韓国が整形大国である事実を暗に認めてまで、作品の完成度を上げようという心意気にも乾杯!これで、本国ではぶつけて公開されたと思しき、「ある会社員」を観る準備も整ったってもんだ。


 一観客として、「世界にひとつのプレイブック」へ。人間のやることのうちでダンスは最も間抜けな部類に入る。だから元来素材も最高なジェニファー・ローレンスが本作ではカーラ・グギノ似で欲情できて、かつ不意打ちだったジュリア・スタイルズとの姉妹が完璧でも、物語の題材は充分に辛かった。さらに主人公周辺がみな気違いという設定。これはデヴィッド・O・ラッセル的には、「ザ・ファイター」より作家性は継続し、家族の内紛もより深化してるとは言え、前作と違い実話ではないし、妻の裏切りの正当化を意図的に描かないから、嫌でも主人公に寄り添った狂人側の視点になってしまい、見終えると復讐のひとつもしたくなる納得の行かなさ。まあ仮に復讐をしおおせたとしてもこんな妻の本質は変わらないから無駄だけどね。当然、実際に怒りの制御ができない人間はとことんまで行って、現実には妻も間男も殺すから、こんな結末は絶対に訪れない。従って、サインを読むように人間性が変化するはずもないし、そう仕向けるような女も親父もそれ自体が病気だ。気違いに伝えたいことがあれば、言っても分からない恐れがある位なんだから、てめえで言え、この野郎!(一瞬「竜二」が憑依)と、ローレンスには言いたくないけどこの際言ってしまおう。それに、通常あらゆるゲームのルールを知らない人間にも娯楽として見せなければ映画として失格で、前作であれだけボクシングを面白く見せていたのに、スポーツ賭博の実態も詳細は明かさず、ダンスも間抜けなままだったのだ。ただし、抑制的であることになぜか説得力があったデ・ニーロと、時々上沼恵美子に見えたジャッキー・ウィーバー夫妻は収穫だったし、あと、こんな華のない役ができるまで成熟したか…とクリス・タッカーの自然な存在感には唸ったがね。


 一観客として、「フライト」へ。一般的に最も多そうな“宗教的”アメリカ人への迎合だけかも知れんが、ゼメキスは(清教徒的)潔癖症なんだろうな。酒、麻薬、乱交(マン毛)、ポルノ撮影現場まで露骨に描くことからの反転が逆説的にそれを意味している。さらに暗示される成就しない異人種間恋愛。過去にロックを白人の発明に歴史を改変、ブラック・パンサーと交流したヒロインをエイズで殺した前科のある、どこを切ってもゼメキス印なのは素晴らしい。また、黒いトム・ハンクスとも言うべき、汚れ役も嫌味ないデンゼル・ワシントンが劇中に突っ立ってることで、「フォレスト・ガンプ」、「キャスト・アウェイ」、ダメ押しに(無神論が排除され、カルトが幅を効かす)「コンタクト」等の、“巻き込まれ型寓話シリーズ”の系譜も見事に継承。極めつけに断酒会、キリスト教原理主義の副機長、(神への)宣誓後に嘘がつけない縛りなど、あくまで濃口ピューリタン風味。だから教徒じゃない酒好きは単にガブ飲みしたくなるだけだけど、各種麻薬のカクテルで麻痺させても、まず胃が酒に耐えられないから、そんな飲み続けられないだろ?ってのがまさに漫画(寓話)で、現実に鑑賞後痛飲した俺は、吐いた上に酷い下痢になったね。主人公を悪の道へ誘う、売人ジョン・グッドマンストーンズ好きの悪魔)も、見ようによっちゃ「ビューティフル・マインド」のポール・ベタニーの如く、イマジナリー・フレンドに見える所も笑える。そんな地獄巡りを経たからこそ、病人姿で現れた神に彼は感謝したかったはずなのも納得の説教臭さはやや快感かも。でも俺は“モデル美香”みたいに、極めて特殊顔なのに美人に見えるケリー・ライリーが、「シャーロック・ホームズ」で変に見えただけに、こっちでは最大の収穫だった。殺人の追憶 [DVD]GANTZ 3 (ヤングジャンプコミックス)悪魔を見た スペシャル・エディション [DVD]親切なクムジャさん プレミアム・エディション [DVD]セブン [DVD]身代金 特別版 [DVD]プレッジ ― スペシャル・エディション [DVD]ダークナイト [DVD]世界にひとつのプレイブック(監督:デビッド・O・ラッセル 主演:ブラッドリー・クーパー、 ジェニファー・ローレンス) [DVD]ザ・ファイター コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]竜二 [DVD]フライト [DVD]バック・トゥ・ザ・フューチャー [DVD]フォレスト・ガンプ [DVD]キャスト・アウェイ [DVD]コンタクト 特別版 [DVD]ビューティフル・マインド [DVD]シャーロック・ホームズ [DVD]シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム [DVD]

2013年04月10日のツイート