現実と想像力のいたちごっこ。

 ワーナー・ブラザース映画さんのご招待で「龍三と七人の子分たち」試写へ。オレオレ詐欺を働く半グレ集団と元やくざのジジイ軍団の抗争…と事前に聞いていた活劇的な印象とは裏腹に、想像以上にコメディ色が強く、「みんな〜やってるか!」程までは行かないが、「菊次郎の夏」を少しコメディ/活劇寄りにした感のポジションに位置付けられそうだ。というのも豪華キャストで所々で屁のネタがあることで、「菊次郎〜」のビートきよしばりの満足感が個人的に味わえたからでもある。しかも半グレの“京浜連合”ってネーミングセンスは“グバナン共和国”に匹敵するツボだったし、今回はまた“ラーメン屋ネタ”という監督独自の刻印も復活。しかも設定からすればネタの大半は、ツービートの“やくざネタ”や“老人ネタ”を想起させるようなネタでもあるわけだが、それが現在はテレビの自主規制でどうせ放送不可能であることを考えると、ビートたけしの映画監督進出の必然性にも改めて思い当たった次第でもある。なおかつ今回は、監督のよく言う「振り子理論」で言えば、「アウトレイジ」の反対側であるにも拘わらず、豪華キャストの存在感がネタのラッシュと相俟ってハイテンポに感じられる展開も北野作品としては新機軸だろう。そのつるべ打ちに笑いながら、今や映画界自体も、何かとやくざを題材にした作品が撮れなくなってる現状に対するアンチテーゼを提示しようという苦心も窺えたのだ。また、頭がいい奴ほどスーツ姿で悪事を働く方が目立たずいいということに気づくはずで、スーツ姿の奴の中にこそ凶悪犯は逃げ込み、見当違いな所にいる奴はバカか無実の人間ばかりという、半グレや一向に被害が減らない騙される側や警察に対しての先入観に対する批判も監督の意図として汲み取りたい作品であった。


 一観客として「アメリカン・スナイパー」へ。最終的にボディ・カウントのレコードが更新されたということなのだが、俺は最初、本作製作開始の報を聞き期待したのはカルロス・ハスコックの伝記なのかと思ったが違っていた。もしそうだったならアメリカ帝国主義に追従した単なる愛国ヒーロー映画になってた筈なので結果的には良かったかもしれない。本作について一般には、「アメリカ世論を二分する反響〜」云々が言われているが、これが少なくとも愛国映画でないのは明白である。或いは同時多発テロイラクによるものとミスリードさせられたままの頑迷な番犬タイプの愛国者が陥った然るべき末路の物語であり、アメリカ的マチズモに同調を努めた人間の悲劇だ。もちろん主人公が「ワールド・トレード・センター」に登場したマイケル・シャノンに相当するタイプの人物でもあり、国内的には必要なことも分かる。だがそういう人間は戦争に関し、脊椎反射で大義など考えず、主人に敵と示されれば食らいつくだけの憐れな存在だ。自分でした気でいる価値判断など、イラク人を「同時多発テロの犯人/野蛮人」と見なし、錯誤に基づき差別してる程度で、その事にすら気づかないから己を番犬と盲信できる知的レベルが醸成されるというのも、デマの鵜呑みしかできないネトウヨどもと同じなので呆れながらも納得の行く人間像ではある。だから往々にして権力に利用され、しかもあらゆる我慢を我慢としない訓育までされているため、単に不利益を負わされその自覚すらもないという消耗品のイタさが個人レベルで描かれているのだ。これは一連の知性ある側から描かれた同時多発テロ関連映画(「ユナイテッド93」、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」、「グリーン・ゾーン」、「フェア・ゲーム」、「ゼロ・ダーク・サーティ」等)とはまた別に、「硫黄島二部作」でそうしたように、テロ後のアメリカを負の側面からも描こうというイーストウッドの意志を感じるし、それゆえのディテールとして、「パニッシャーMAX」を愛読し、コミックのロゴを至るところに貼り付ける海兵隊員(フランク・キャッスルも元海兵隊員)が自らを同一視し大義なき戦争に無理矢理のめり込もうという姿勢にも妙な説得力がある。そう、「ハート・ロッカー」の延長にいるこいつらも“カイザー・ソゼ”のような存在に騙されてるのは薄々分かってるのだ。結果、「許されざる者」となり、生命は生命で購わされることになるとも知らずに。


 一観客として「イントゥ・ザ・ウッズ」へ。俺はそのジャンルを意識的に脱構築しようとしてエッセンスを導入したもの以外、ミュージカルという芝居の形式がたまらなく苦手で、だから恐らく不自然に歌などが入る伝統芸能全般が著しくリアリティを欠いてるという意味で嫌いなんだと思う。だから元々ブロードウェイミュージカルとして既成の話だってことも知らなかったし、もしそれを知ってたならこの作品に足を運ぶ危険性も察知したはずだったが、それには予告の引っ掛かりが大きかった。バラバラに映る各有名童話とおぼしきシーンの中で「I wish」と代わる代わる呟くそれぞれの主人公たち。俺は相互に干渉し合ってやがて現実のおとぎ話を信じる力が問われてくるような作品と思って期待していたのだが、そうはならなかった。おとぎ話が総掛かりで「魔法にかけられて」をもっと深刻にしたように現実世界を侵食しに掛かってくる(つまり「ワンス・アポン・ア・タイム」的な)までには至らず、「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」の如く、各物語が有機的に溶け合うこともなく、単に同一地平上で事態が紛糾するだけのドタバタが不要な歌と共に無駄に豪華なキャストで語られていくだけで非常に肩透かしだったのが辛い。途中で大きく話を乱す巨人の話は「ジャックと天空の巨人」には及ばないし、赤ずきんは「狼の血族」のように性的変質者のメタファーとしては機能しておらず、赤ずきんもただのがっついた子供に過ぎなくて落胆させられる中で、立場に反して突出した美形性と儚さを発揮するエミリー・ブラントと、美化され過ぎているピンでの映画化は大いに危惧しているが、「エバー・アフター」同様に美人過ぎない所にリアリティと好感が持てるアナ・ケンドリックの存在と歌唱力だけには救いを感じた。みんな~やってるか! [DVD]菊次郎の夏 [DVD]アウトレイジ [DVD]ワールド・トレード・センター スペシャル・エディション [DVD]ユナイテッド93 [DVD]チャーリー・ウィルソンズ・ウォー [DVD]グリーン・ゾーン [DVD]フェア・ゲーム [DVD]ゼロ・ダーク・サーティ スペシャル・プライス [DVD]父親たちの星条旗 [DVD]硫黄島からの手紙 [DVD]パニッシャー [VHS]パニッシャー コレクターズ・エディション [DVD]パニッシャー:ウォー・ゾーン [DVD]ハート・ロッカー [DVD]ユージュアル・サスペクツ [DVD]許されざる者 [DVD]魔法にかけられて [DVD]ワンス・アポン・ア・タイム シーズン1 コレクターズ BOX Part1 [DVD]ワンス・アポン・ア・タイム シーズン1 コレクターズ BOX Part2 [DVD]ワンス・アポン・ア・タイム シーズン2 コレクターズ BOX Part1 [DVD]ワンス・アポン・ア・タイム シーズン2 コレクターズ BOX Part2 [DVD]ジャックと天空の巨人 [DVD]リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメンエバー・アフター [DVD]

2015年04月13日のツイート