days of cinema, music and food

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"Full Metal Jacket" on Blu-ray Disc


金曜になって風邪もようやく小康状態になってきました。
そこで昨日で調子付いて、2日連続でスタンリー・クーブリックスタンリー・キューブリック)上映会となりました。
今度は彼の映画にしては上映時間が2時間弱と短めな、『フルメタル・ジャケット』です。


例によってこれもDVD-VIDEO版で2枚持っています。
最初に出たコレクターズ・ボックス。
これは余り画質の評判は良くありませんでした。
次に出たリマスター版コレクターズ・ボックス。
こちらはデジパックもカッコ良かった。
それまでは公開当時のポスターと同じ絵柄のパッケージ・デザインでした。
こちらは劇場で買ったパンフレットと、公開当時に朝日新聞に掲載された批評切り抜き。

批評文を書いている(登)氏、前半の展開と結末、後半クライマクスの結末と、ネタバレのオンパレード。
これはいけませんね。


やはり『フルメタル〜』の象徴と言えば、ピースマークと「Born to Kill」があしらわれた迷彩ヘルメットの絵柄でしょう。
今回のリマスター版Blu-ray Discのジャケット・デザインは、思い切って変えて来ました。
少々ショックでしたが、これはこれで出来が良いので許してしまいましょう。


劇場公開当時、話題になったのはリー・アーメイ演ずるハートマン教官の口汚さでした。
これは当時だけではなく、今観ても相当にインパクトがありますね。
余りに行き過ぎるとギャグになってしまうという点で、サム・ライミピーター・ジャクソンのホラー映画に通じるものさえ感じてしまいます。
こういった悪口雑言文化が余り無い日本との文化の違いを感じてしまいました。


それに比べると後半、ヴェトナムに舞台を変えての展開は余り評判になりませんでした。
終盤の対スナイパー戦での緊張感は評価もまずまずだったとは思いますが。
今回見直してみると、前半の衝撃は未だに凄いと思うものの、瑕疵も気になりました。
リー・アーメイのしごきと、仲間達からのリンチに耐えかねて発狂する新兵パイル(ヴィンセント・ドノフリオ)の「如何にもな」顔のクロースアップの挿入が2-3箇所あります。
それまで大人しかった人間が突如暴力を振るう際、事前にあんな狂ったような顔をするのでしょうか。
いや、するのかも知れませんが、映画としての効果としても疑問です。
凶暴そうな表情の人間が凶悪犯罪をしても、インパクトに欠ける。
顔のアップの挿入をするのであれば、凶暴そうな顔よりも、呆けている顔の挿入で通すべきだったのでは、と個人的には思いました。
しかし、それ以外は素晴らしい出来の45分だと再確認出来ました。


後半、ややドラマツルギーの点でもキビキビした前半に対して弱さは認めざるを得ません。
特に凡庸に感じられたのが、ドキュメンタリ・クルーの取材場面。
キャメラに向かって台詞を吐く兵士の描写は極在り来たりに感じられたのです。
しかし戦闘場面のキャメラワークなど、クーブリックらしさは随所に見られます。


被写体である兵士の後ろから捉えた視点。
現地にいるかの如き臨場感と興奮を伝えようとします。
特にクライマクスのスナイパーのエピソードは、これぞクーブリックという描写の連続です。
突撃する兵士の後ろからキャメラは追い駆けるタテ移動。


上記兵士の元に駆け付ける援軍を、横から捉える横移動。

タテと横のキャメラの動きが紡ぎ出すダイナミズムは、若き日のクーブリックが秀作『突撃』で試みた戦闘場面の再来と言えましょう。
そんな再発見もあり、過去数度の鑑賞も含めて今回の鑑賞が1番楽しめました。


映画とは技術によって支えられている。
クーブリックはその事をよく知っていたからこそ、最後の最後までああでもない、こうでもないと延々製作期間が延びて行ってしまったのではないでしょうか。
そして技術の申し子であるスティーヴン・スピルバーグと仲が良かったというのも、技術屋同士だったからではないか、とも思います。


さてBDとしての本編ですが、これ以上の品質は望めないのでしょう。
しかし冷たい質感(これがヴェトナムに見えない、という批判を浴びたのだと思いますが)を捉えた映像は良く再現されていると思います。
時折解像度が甘く感じられますが、まるで全編自然光で撮られたかのような映像は一見の価値があります。
音響は元々モノーラル。
ドルビー社とはドルビーステレオでの契約をしていたので、クーブリック初のドルビーサラウンド映画になったかも知れませんが、どうやら映像をいじくり回している間に時間切れになってしまい、モノーラルになった模様です。
兵士達の装具がカチャカチャ鳴る様など、地味であっても臨場感のあるサウンド・デザインになっているし、作品の鑑賞を妨げることもありません。
現状ではこれが望むべき最高の『フルメタル・ジャケット』なのではないでしょうか。
私自身、映画そのものが楽しめたのは、画質・音質のお陰もあったと思います。

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カーク・ダグラス主演のこちらもお忘れなく。

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