days of cinema, music and food

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Unknown


リーアム・ニーソン主演のスリラー『アンノウン』を観に出掛けました。
公開初日の土曜12時55分からの回、174席の劇場は5割の入り。
面白い映画だったのでもっと入ってもらいたかったところです。
ニーソン主演の欧州が舞台のアクション・スリラーという事で、2年近く前に見て面白かった『96時間』を連想しました。
あちら同様にリュック・ベッソン率いる安かろう悪かろうのヨーロッパ・コープ製作かと思いきや、ジョエル・シルヴァー製作のホラー専門会社ダーク・キャッスル作品だったのですね。
もっともダーク・キャッスルはケイト・ベッキンセイル主演のスリラー『ホワイトアウト』も作っているから、ちょっと路線変更しつつあるのかも(未見ですが)。


学会出席の為にベルリンを訪れたハリス博士(リーアム・ニーソン)は、妻(ジャニュアリー・ジョーンズ)と別れて空港に忘れた鞄を取りに戻ろうとします。
しかし乗り合わせたタクシーが事故に遭い、博士は昏睡状態に陥ります。
4日後、覚醒した博士は急いでホテルに戻りますが、妻からは「あなたは知らない人だ。」と言われてしまいます。
さらに夫であるハリス博士を名乗る見知らぬ男(エイダン・クイン)まで現れてしまいます。
一体自分に何が起きたのか。
ハリス博士は手掛かりを求めてベルリンを彷徨いますが。


と、こんな設定の内容は、ほら、興味惹かれるでしょう?
この手の「自分だけが知っている」パターンの小説や映画は今までもあり、特に珍しいものではありません。
古くは『バニー・レークは行方不明』、最近だと『フライトプラン』等がありました。
自分にだけ見え、周囲から狂人扱いされるという意味では、『トワイライトゾーン/超次元の体験』でのジョージ・ミラー監督作品『2万フィートの悪夢』もありましたね。
まぁ『フライトプラン』を例に取ると、中盤での種明かしが肩透かしだったのにもある通り、この手の作品は出だしこそ興味で引っ張るとは言え、真相が明らかになると「何だぁ」となる場合が多いように思えます。
しかしこの『アンノウン』は、幸いにも違いました。
不安と緊張を織り交ぜながら、仄かな希望を見いだせたと思いきや落胆させ、という調子で前半を引っ張ります。
外国での異邦人の孤独と不安、という意味では、ロマン・ポランスキー監督、ハリソン・フォード主演の『フランティック』を想起させました。
しかしこちらはより娯楽色豊かな作風なので、あちらほどの寂寥感はありません。
それでも後半に種明かしがされても、これが予想していたものと違っていたので面白く、また映画のパワーが落ちません。
実はそこまでのあちこちに違和感こそあったのですが、それもきちんと伏線になっていたのです。
オリヴァー・ブッチャーとスティーヴン・コーンウェルの脚本は必ずしも緻密ではなく、細かい箇所には疑問もあります。
が、前作『エスター』を見逃していた監督ジャウマ・コレット=セラの腕力もあいまって、映画はひたすら前進します。
しかも最後まで先が読めない話なのに、終わってみるときちんと王道になっている娯楽作品に仕上がっており、不特定多数の観客に喜ばれそうな映画でした。


大柄なのにどこか脆さを感じさせる肉体の持ち主とい点で、リーアム・ニーソンチョウ・ユンファに通じるものがあると思います。
本作でのニーソンは、不安と混乱に陥る主人公を熱演しており、映画の緊張感に大きな貢献をしていました。
事故タクシーの運転手役ダイアン・クルーガーは、ドイツ人だから出演かと思いきや、クロアチア人役でした。
妻役ジャニュアリー・ジョーンズは、TVシリーズMAD MEN マッドメン』に出ていますが、大画面でも色気のある女優ですね。
注目株です。
善き人のためのソナタ』にも登場した旧東ドイツのシュタージュ。
その経歴を誇りに思っているという探偵役ブルーノ・ガンツは、さすがに味わい深い演技。
ちょっと残念だったのが、ドイツの学者役セバスチャン・コッホと、主人公の十数年来の友人役というフランク・ランジェラ
良い役者なのに出番も見せ場も少なく、勿体無く思えました。


とまぁ、割と豪華な配役にも関わらずキャストを生かし切れていないという瑕疵もありつつも、『アンノウン』はラストまで突っ走ります。
お勧め出来る佳作です。