days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Hobbit: An Unexpected Journey


ピーター・ジャクソンの話題作『ホビット 思いがけない冒険』を妻と鑑賞しました。
3連休中日の日曜朝8時55分からの回、デジタル3D上映は20人程度の入りとは寂しい。
今冬の正月映画は『007/スカイフォール』、『レ・ミゼラブル』と他に話題作もあり、そちらに観客を食われたのかも…と思わなくもありません。
私は『ロード・オブ・ザ・リング』(以下、『LotR』)の大ファンで、各作品のレヴューも我ながら力が入っています。


しかし本作に関して言えば、正直に言ってあんまり期待とか盛り上がらなかったのです。
これが不思議な事に。
それにしても、いわゆる『旅の仲間』映画版から10年余、ですか…
世界的に大ヒット&高評価だった3部作から、間が空き過ぎたというのもあるのかも知れません。


ホビット庄に住むホビットビルボ・バギンズマーティン・フリーマン)は、ある日思いも寄らぬ客人たちを迎える事になります。
毛むくじゃらでずんぐりむっくりした、見知らぬドワーフ達13人が、どやどやと押しかけ、勝手に宴会を始めてしまったのです。
彼らは恐るべきドラゴンのスマウグによって王国を破壊、占領された流浪の民であり、リーダーのトーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミティッジ)はその王子だったのでした。
彼らの目的はスマウグを倒し、故郷に再び戻る事。
ビルボの旧知の仲である魔法使いガンダルフイアン・マッケラン)の推薦によってビルボを旅の仲間にすべくやって来たのでした。
こうしていきなり危険極まりない冒険の旅に出たビルボらでしたが、行く手には危機また危機が待ち構えていたのでした。


映画はとても楽しく、面白く観られました。
以前にも書いたように、J・R・R・トールキンの原作『ホビットの冒険』は小学生の時の愛読書で、幾度も読み返したもの。
ユーモラスで牧歌的な雰囲気が楽しかったです。
しかし本作にはそんな雰囲気は皆無で、『ホビットの冒険』の続編である大人向けの書『指輪物語』の映画版『LotR』に雰囲気は同じでした。
つまり悪のパワーが物凄く強い、激しいアクション満載の壮大なアクション・ファンタジーなのです。
実質、『LotR』の続編的前日談と言って差し支えないでしょう。
監督が当初予定されていたギレルモ・デル・トロでは無く、『LotR』と同じピーター・ジャクソン再登板で結果的には良かったです。
何故ならシリーズとしての統一感が出ていたからです。
迫力満点でやたら壮大でやたら大袈裟なキャメラワークも含めて、ピージャクの個性は炸裂。
ユーモアは『LotR』より多く、そこは原作準拠なのが微笑ましい。
幼少時は原作のトロルのエピソードと、岩巨人同士の大喧嘩がとても印象的で好きでした。
映画版は、前者は笑えるトロルの描写も含めて印象が近いのに対し、後者は超シリアスになっていて印象激変。
でも大迷惑なのは同じなのが可笑しかったです。


映画版は原作よりも精悍で若い人物造形となったトーリンを主人公にしていると言っても良く、明らかに『LotR』のアラゴルンヴィゴ・モーテンセン)と重ね合わせています。
オーケンシールドの名前由来場面等も用意していて、とにかく壮観。
とにかく全てが大袈裟過ぎる迫力。
このしつこさもピージャクらしい。


ドワーフ達はヒゲ面ずんぐりむっくりなだけで、トーリン以外は左程個性が与えられている訳ではありません。
見分けの付かない者も多く、これは原作からしてそうだったのでやむを得ないのでしょうか。
LotR』がホビット、人間、ドワーフ、エルフと多種多様な個性を与えていたのに対し、何とも華が無いのは事実。
日本での興業的苦戦は、案外こんな所にもあるのかも知れません。


気になったのは映画のテンポです。
LotR』は劇場版は3時間あってもすっきり、同スペシャル・エクステンデッド・エディション(以下、「SEE」)はファン向けといった作りでテンポ無視でした。
本作は観ていて後者のように思えたのです。
ちょっと一般客には長過ぎるのではないでしょうか。
例えばゴラムとのなぞなぞ問答場面も、劇場版ではあんなに長くなくて良いのではないでしょうか。
ファン向けのSEEを劇場公開で一般客対象にして良いのか、とさえ思えました。
ですからこれは、『LotR』を観て大いに楽しんだ観客向けの、贅沢極まりないファンサーヴィスといった映画なのです。
その点においては、もう相当なものです。
原作には出て来ないビルボの甥であり、『LotR』の主人公フロド(イライジャ・ウイッド)も、エルフの女王ガラドリエルケイト・ブランシェット)も登場するのですから。
嬉しかったのはホビット庄全体が見渡せるロングショットが結構ある事。
そうか、あすこはああなっているのか。
観られただけで幸せでした。
映画の影のMVPは作曲家ハワード・ショアです。
ホビットのテーマ、エルフのテーマ等、懐かしいテーマが流れるだけで、中つ国に戻れます。
今回の新しいモチーフであるドワーフのメロディも素晴らしい。
サントラCDが欲しくなりました。


こうして書くと、やはりファン向けの映画なのでしょう。
逆に言えばそれ以外の一般客には敷居が高い可能性があるのです。
無論、私は中つ国に戻れて幸せな客の1人ですけれどもね。


原作を3部作として映画化するプロジェクトなので、第2部『ホビット スマウグの荒らし場』は来年12月公開。
本作には目玉と尻尾、圧倒的攻撃力くらしか分からなかったスマウグの登場も期待しましょう。
そして完結編にして『LotR』への橋渡し的存在となり得る第3部『ホビット ゆきて帰りし物語』は再来年夏休み公開予定。
原作では映画版第2部、第3部に来るであろう展開が、壮大且つ迫力満点に描写されているであろうという事で、まだまだ死ねないのです。


さて本作の3D効果ですが、これは結構なものでした。
今作の売りは毎秒64コマで撮影された映像を、毎秒64コマで再生するというもの。
このハイ・フレーム・レート(HFR)上映は日本全国で33館のみなのが残念です。
今回、そのHFR上映をしている筈の劇場に行ったのですが、何だか24コマ上映だったような…。
夜の回は和製IMAXことウルティラ対応の小屋で上映するので、ひょっとするとそちらのみ対応だったのかも知れません。
効果を確認しに、もう1度観に行こうかなぁ。