days of cinema, music and food

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万引き家族

”万引き家族”
是枝裕和の話題作『万引き家族』を鑑賞しました。
是枝作品を何と大画面・大劇場で観られるとは!
大作でない邦画がそのような状況とは、めでたいものです。


東京の下町で暮らす、貧しくも笑いが絶えない3世代の5人家族。
日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)、クリーニング工場で働く母・信代(安藤サクラ)、息子・祥太(城桧吏)、風俗店で働く信代の妹・亜紀(松岡茉優)、家主である祖母・初枝(樹木希林)。
そこに親から虐待を受けているらしい、幼い少女ゆり(佐々木みゆ)を治が見かねて拾って来たところから物語は始まる。
両親の安い賃金だけでは暮らしていけないので、治と翔太の万引きが貴重な食料調達の手段となっている。
季節は流れ、ゆりも家族に心を開いて行くようになる。


この映画で描かれている貧困は、ぎりぎり食べて行けるけれども働けど働けど貧しいというものです。
世間に露わにならず、ひっそりと静かに、だが確実に数多く存在する貧しさです。
ここに夢や希望は無い、という向きもありましょう。
しかし笑いがあって思いやりや愛情がいっぱいの家族は、ある意味で夢の家族ではないのでしょうか。
たとえ夢はいつか終わるものであっても。
これまでも家族の在り方を描いて来た是枝は、いつものようにある家族の形を淡々と描き、犯罪を犯す彼らを断罪することはしません。
安易な感情移入を排し、だが冷徹にはならず、劇中の家族とは一定の距離を置いて描きます。
そして観客の前に押しつけがましいことなく、ただ差し出すのです。
観客は自分ならどうするか、自分がどう思うか、常に意識せざるを得なくなります。


先日、チャイルディッシュ・ガンビーノのPV「This is America」が物凄く話題になりました。
現実のアメリカを抽象的に表現した衝撃的なPVでした。
私はこの映画こそ「This is Japan」だと思います。
日本の現実を見つめたくない向きには嫌われているようですが、一方でこのような映画が大ヒットしているのは痛快ですらあります。
これは今の日本を描いた必見の作品です。


役者では安藤サクラの貫禄が凄い。
そして是枝作品らしく、女優たちが艶っぽく描かれているのも特徴です。
細野晴臣の空間を活かした音楽も効果的でした。