ヒューイ&デューイの日記(私見運用版) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-09-24

[]新紀元社「自動車模型の楽しみ方 エンジニアリングとエモーション」

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モデルアート、モデルカーズ誌などに連載記事をもたれるベテランのカーモデラー、北澤志朗氏による模型製作ガイドブックです。プラモデル作りのための参考書籍はあらゆるジャンルに存在しますが、他に例を見ないような切り口で非常に興味深い内容。


いささか反則かな…と思いつつ、まずは著者ご本人による解説にリンクしてみます。そちらには目次が掲載されているので大まかな内容を知ることが出来るかと。そして、

模型の本でこれだけ字を読ませる本ってのはかなり珍しいでしょうねえ。

と言われるように、文字すなわち言葉を主にして作られた模型の本です。読み応えのある内容であり、読んでいて実に考えさせられるものでした。「考えるな、感じるんだ」とは不世出の名優ブルース・リーの名言ですが、時には「感じるな、考えるんだ」が重要な場面もあります。そういう感じで模型作りの「理」を解いた本と言えば良いかな…?では「理屈っぽい本」なのかといえばそんな事はないのですけれど。


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副題には「エンジニアリングとエモーション」とあります。実物の自動車に見られる「技術」を再現するのか、あるいは実物の自動車から受ける「感情」を形にするのか、どちらも模型の在り方としては同じぐらいに重要なことで、ではどちらを重視するべきなのか。読者に対する二者択一的な問いかけは本書のさまざまなページに於いて発せられます。そして提示される答えは常に「どちらでもよい」、大事なのは作り手である読者自身がどうあるべきかを自分で決めること、そのためのバランスであると。二択がすなわち○×ではないのですね。両方狙ったって良いし、なんなら真ん中を進んでもよいのだろうなあ。そういうことを考えながら読み進めるのは実に楽しいことで、まさしくマクガイバー的な読書であります(何)


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趣味として仕事として、長く業界に携わって来た方ならではの視点でカーモデルの歴史や現状、製品の種類とそれぞれの特性などが幅広く解説されています。公正な視点と落ち着いた筆致は成熟した大人の趣味としての模型の在りかたを示すものでしょう。むろん具体的な製作と技法についても述べられておりますが、そこでもやはり読者に示されるのは、多くの選択肢とそれを好きに選ぶ自由度の高さです。ひとつひとつの技法、制作プロセスについて「何故それをやるのか」「何のために行うのか」が丁寧に言葉で語られるからこそ、読者自らが考えて選ぶことが出来るわけでして、それぞれの「理由」を述べるタイプの指南書と言えましょうか。


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稀に模型製作本の中には「せねばならない」「これが正解」を提示するものもありますが(それが悪いとも言えませんが)、常に正解は読者の側に渡されます。素組みから自作による改造、フルスクラッチまでの様々な階梯で、何をするかを選ぶのは読者次第。そのためにはどんな技法があり、どうすれば作品に反映できるのか、それを説明するのが著者の立場。大事なのはいつもバランス。流れとしてはそういうかたちです。


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そういう意味では極めて「作る人」に向けた本ではあります。美しく仕上げられた自動車模型は時としてただ鑑賞するだけでも十分に楽しめるものですが、本書に関しては実際に手を動かす立場でないとその内容を存分に受け取ることは出来ないかも知れません。その代わり模型を作る人ならば、カーモデラーならずともあらゆるジャンルのモデラー諸氏に響く内容や言葉が並んでいるように思われます。


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例えばメタリック塗装の技法などはカーモデルの分野がいちばん進んでいるものでしょう。美しく丁寧に仕上げるコツはガンプラなどのSFモデルに反映できるものですし、あるいは美少女フィギュアでもコスチュームの一部をメタリックにすればいろいろバンザイなものもあります。模型を美しく仕上げることはさりげなくリビングに置いて家族の理解を得るためにも大事なのですと、そのようなことも説かれています。しかし美しいメタリック塗装で仕上げられたビキニ水着の美少女フィギュアリビングに置いても、家族の理解を得ることは難しいだろうなァ……


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その上で作品の保管や「仲間」を作ること、長く模型を趣味として続けることの、製作技術よりももっと重要なことについてもページが設けられています。模型製作は時に孤独な作業に陥りがちでもありますけれど、それを「楽しむ」ためには人との繋がりを大切にし、物を大事に扱う態度がが欠かせません。趣味の世界には義務も責任もないので人それぞれの個性、ひととなりというものが如実に顕れる場でもあります。だからこそ、楽しいことはそれが長続き出来るように接していくべきなのでしょう。タイトルにもある通りこの本は「楽しみ方」についての本なのですね。


※実は先週扱った「松本州平のヒコーキ模型道楽」と対照的な内容を示そうとこの本を選んだのですが、記述内容は対照的でも結論としてはほぼ同じことを提示しているかのようです。ジャンルの違いに関わらず、それこそガンプラであっても「模型の国の住人」って同じ地面に暮らしているんでしょうねえ。


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「リアル」という概念についてもいろいろと考えさせられます。写実主義表現主義のふたつの観点から、これはスミ入れに関する手法を解説している項目。敢えて「主義」に立つのは考え方としてはこれまた重要なことでありまして、模型に於ける「リアル」は「リアリティ」と形容詞で語られることが多いのですが、実際のところは「リアリズム」の問題、作った本人がどう捉えているかという主義の範疇に属する事柄だったりするもので、さらに言ってしまえばスタイルの問題だったりもします。常に大事なのは自分がどうしたいか、どうすれば楽しいか、そういうことですね。


写実主義表現主義」という言葉をキーにして本書の記述から離れてやや脱線してしまいますと、美術館に足を運び、特に絵画を鑑賞することはモデラーにとって貴重な経験を得られるだろうと思われます。写実主義とは現実を正確に写しとったものではありませんし、表現主義というのはむしろ人間の身体感覚に忠実だったりもします。極論すればどれほど模型を「リアル」に近づけても模型は現実にはなりませんから、非現実的な美術品に溢れた美術館って「模型のリアル」を考えるには良い場所なのです。うっかり現代美術館に出かけてシュールレアリズムに目覚めたとしても、それはそれでひとつの正解なのでしょう。


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ことスケールモデルの分野では「ディフォルメ」を忌避する向きもあるでしょう。しかし外観が実物と正確に相似していればそれだけで「リアル」だと言えるものなんだろうか?そんなことを考えたりもします。あんまり小難しいこと考えるより手を動かしたほうが良いには決まっているのですが、人間時には立ち止まって考えることも必要だって荒巻部長もゆってる。


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とまあ、実に考えさせられ納得する記述の多い本でした。模型の本を読んで哲学的(なんてことを軽々しく書くと哲学やってるひとに怒られるんですが)なことを考えるのはなかなかに楽しく、趣味と自分の在り方についても思いを馳せる、そんな内容でもある。ただひとつ、この点だけは納得出来かねることが本書の冒頭部分にはありました。自動車モデラーは他のジャンルと比べて実際に実物を手に入れられる、所有できるという妄想を楽しめると、おおむねそのようなことが書いてある。


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ちょっとまってください


なるほどね、確かに戦車モデラーガンプラモデラーが戦車やモビルスーツを所有できるかと言ったらそう簡単ではない、そんな妄想はすててしまへ。そんなもんよりランボルギーニ・イオタを手に入れるほうがずっと簡単でしょう。

でもね、

美少女フィギュアはいつか現実のヨメになると、わたしはそういう妄想を抱いて生きている。大事なのは個人のバランスだ。

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2014-09-16

[]大日本絵画「松本州平のヒコーキ模型道楽」

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スケールアヴィエーション誌に連載記事「改造しちゃアカン リターンズ!」に発表された作例を中心に再構成された、ベテランモデラー松本州平氏の個人作品集です。非常に長く業界に関わってこられた方ですが、一冊の本に作品をまとめるのはこれが初めてとのことでいささか意外。

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ページを開いて感じるのはとても「綺麗な」本だということです。スケールアヴィエーション誌の記事は屋外撮影もスタジオでの撮影もどちらも非常に美しいフォトを掲載していますが、より大判の版型と見開きを多用して再配置されたこれらのヒコーキ模型作例は目に優しく、制作途中の解説も読み易いレイアウトとなっています。冒頭から数多く収録された第一次世界大戦の機体もまた、現代の機体を見慣れた我々の目からすれば、ひとつの美しい工芸品のようにも思えます。


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再録だけでなく新規作例も有り、ウイングナットウイングスのフォッカーD.VIIは1/32スケールというラージサイズの情景のなかに様々な要素が盛り込まれていて、エアモデラーのみならず様々なジャンルの模型好きに訴求するものでしょう。実際、普段は飛行機作らない人でも十分楽しめる書籍ではないかと、そんなふうに感じるのはどの作例も非常に「楽しそう」にみえるからでしょうか。


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レベルの1/72B-17Fは機体全体にびっしりと入った凸モールドのリベットをはっきり見せる、キットの素性を存分に活かしたモデルとなっています。実機と比べた縮尺表現としてはオーバースケールなのかも知れませんが、この大きさの「ひとつの模型」としては存在感に溢れたこれもまた工芸品的なディティールなのかも知れませんね。さすがに古いキットなので相当手を入れてる――というよりほとんどの作品にかなり手が加わってます――ので、改造しちゃアカンすなわち素組みということではないのですな。「ディティールアップ」と「改造」の差はどこにあるのか、ご本人も「ほんとうはもうけっこうどっちでもええ」と仰られていますが、この辺の空気は松本州平氏がライターデビューされた頃の、特にAFVモデルにあった、箱開けたらまずダメ出しから入るような時代を知っていると理解しやすいかな?いや知らなくてもいいと思うのですけれど。


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粗探しのためにプラモデルを作るのではなく、キットの良さとそれをより引き立たせるための細部工作と塗装やフィギュアを絡めて情景と感情すなわち情感を想像させる作風、そういう力の入れどころが、例え門外漢が見ている分でも楽しそうに映る理由なのでしょう。


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機体選定がどういった基準に拠るのかはわかりませんが(そもそも基準があるのかもわかりませんが)、カタチの面白さは大きいように思います。機体スペックであるとか戦史上に占める活躍の度合いなのではなく、これもやはり「ひとつの模型」としての面白さを重視しているのではないか・・・と、そんな風にも感じます。九四式と九五式、二種の水上偵察機は1/72スケールで利根の艦上クレーン(!)を製作して面白い模型になってます。見た目の面白さでアピールするのは大切で、例えば模型にも軍事にも理解の無いような家族に共感を求めるときにすごく大事。むろん自分自身が一般人と同じ目線の「面白さ」を保持しているのは前提で……


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斯界の第一人者が長年培ってきた技術やセンスで作り上げた作品群を目にしていると、この趣味を続けるのに楽しさは大事なのだろうとそんなことも思います。修行を苦行にしないこと、かな。そんな理屈は放っておいてとにかくシュペール・エタンダールの美しさ、カタチの面白さを存分に愛でるページだけでも十分元は取れる内容でああ他人に理解なんかされなくても自分だけが面白ければそれでいいやという気分である。これから毎日コンテナ船を沈めようぜ!


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このブログのスタンスとしては門戸を広げること、ハードルの低いところを見せて新しい人にプラモデルを作ってもらおうと試みることがひとつあるのですが(実はあるんですよそーゆーコンセプトが)、いかに末永く老後を楽しむかという視点も大事だな……などと。巻末にはおまけ的に古いモデルグラフィックス誌に載った松本州平氏の記事やコーナーも一部収録されていますが、いつの時代も楽しそうでエエなぁと思わされるのです。


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2014-09-10

[]一迅社「ガールズ & パンツァー エンサイクロペディア」

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「ガールズ&パンツァー」の世界をより深く理解するための大事典、収録項目は1150超の堂々たるボリュームで徹底解説する一冊です。


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書影には可愛らしいイラストが写っていますが実はこれ(最近流行の?)太い帯で、それを外せばこのようにシックな装丁のブックカバーで覆われた、いかにも事典といった雰囲気。これならばJR常磐線の車内でも周囲の目を気にせず落ち着いてページを開くことが出来そうですが、さりとて直ちに特定されることは間違いないでしょう(笑)


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B6サイズフルカラーで167ページ、本文は三段組で各項目は[人物]「世界][軍事][台詞][一般]の五つのカテゴリーに分類されています。キャラクターに対しては設定画の立ち絵を収録、適時スクリーンショットを挿入。収録範囲は映像本編はもちろんのことOVA「これが本当のアンツィオ戦です!」ならびに各映像ソフト収録の特典映像とブックレット、ドラマCD(Vol.2まで)に加えて各種コミックとノベライズまでを含んだメディアミック全般+αと非常に幅の広いものとなっています。ガルパン関連製品はすべてコンプリートしている猛者はもちろん、テレビ放送だけを見た方にも一層深く作品世界に接することが出来る内容です。


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あんこうチームのメンバー5名に関しては見開きを使って大きく取り上げられています。「用語集」というのもアニメーション作品の関連書籍ではよく見られるコンテンツではありますが、しばしばページの穴埋め的に設けられたそれらよりも有志がWEB上で作成した個別の作品wikiのほうが優れた内容であるのに対し、本書の内容は非常に充実したものとなっています。もともとは一迅社発行の情報誌「Febri」のガルパン特集で生まれた記事が好評を受けて単行本化、その際にひとつの書籍として十分な内容となるべく収録範囲、解説記述を大幅に増加した経緯を受けての一冊です。(ちなみに原点となった「Febri」誌Vol.16号の表紙イラストが本書の帯に使われているそれです)


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大洗女子学園の使用戦車も見開き収録。「戦車」というマニアックな道具立てを用いたアニメでありましたからもとより事典や解説とは相性の良い作品だったとは言えるかもしれません。しかしながらそれぞれの項目は例えマニアックな事柄であっても解り易く読み易く、ユーモアやウイットにも富んだ楽しい記述になっています。普通に巻頭からページをめくって十分に読み進められるこの雰囲気、ある種の世代にはこれはもう不治の病みたいなものなのですが思わず


「アミバ」


の項目を探したくなりますがそんなものあるわけないだろう。まその、それほど楽しかったということです。身の回りにやかましいガルパンおじさんがいたら、この本を渡しておけばしばらく黙ると思います(笑)


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ページの要所には地元大洗の観光土産品が広告掲載されているのもいかにもガルパンらしくて楽しいもの。本編に登場した市街や実際の商店についても記述がありますので、いわゆる聖地巡礼のお供にもぴったりですね。実際、各項目を読んでいると新しい発見やそれまで気づかなかったことも多く在ります。なんとなく見過ごしていた描写にも情報は満ちていて、最近の関連書籍ラッシュの中でもこれはちょっと見過ごせないもの。もちろん製作スタッフ監修済みの公認された内容で、たしか杉山プロデューサーがひとりで1150以上の項目を全部チェックしたのでしたか大変にご尽力されたと聞いています。


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ですから1カットテレビ放送当時の未修整スクリーンショットが載っていても、それも楽しいツッコミどころというやつである。気づいたのはここだけだけれど、他にもあるかもしれないからみんなで探そう!


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直接の関連性は薄い、けれどもキャラクター的には非常に似通っているこのふたりが同じ開きで収録されているのも編集の妙というものでしょうか。奥付をみると執筆は複数のライター陣で行われたようですが、どうも記述のそこかしこに「カチューシャ推し」が見られるような気がするのはたぶん気のせいではなくて細胞はどこにでも居るということだろうか。そういうノリは嫌いじゃないですむしろ好物です(笑)


という感じで個人的にも非常に満足できる一冊でした。オススメですよこれ。


……ところで、ガルパンで軍事オタクなキャラと言えばもちろんみんな大好き秋山優香里ちゃんですが、彼女の繰り出す多彩な軍事ネタに少しも臆すことなく全部打ち返してる濃ゆいキャラが一人いるってことはあんまり指摘されていないような気がするがそれはいいんだろうか。


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この人の場合は「軍事オタク」というより「軍事が本職」とゆー感じですけれど。

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2014-09-03

[]伊太利堂「写真集 続・日本の豆戦車」

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伊太利堂主人、吉川和範氏による日本陸軍のタンケッティ写真集。昨夏刊行され好評のうちに完売した物の増補改訂・お値段据え置き版となっております。

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「日本の」という枠組みでタンケッティを捉え、国産のみならずイギリスから輸入されたカーデンロイド装甲車についても収録されています。「写真集 上海海軍特別陸戦隊」に掲載されていた機銃マウント形状の異なる車体も別のフォトがあり、「改修型加式機銃車」の名称が記載。上海事変の戦訓を受けての、日本軍の独自改修であることが示唆されています。


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本書の特徴としては(吉川氏の著作の常ではありますが)個人アルバムや生写真、部隊内の写真帖などプライベートな一次資料を主な資料とし、既存の一般書籍には見られない写真、このシリーズが初公開となる貴重な写真が殆どを占めています。結果的にではありますが演習風景やパレードのフォトの割合が多く、戦地における撮影もどこかのどかなもの、あるいは戦闘を終えて一段落といった雰囲気のものが見受けられます。


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日本の豆戦車(重・軽装甲車)はしばしば日本軍の貧弱な機構装備の象徴のように捉えられ、太平洋戦争後期に米軍によって撮影された写真にはそういう印象を受けることがあります。幸いにして本書では収録内容が日本側の撮影、対米開戦前の時期に絞られていて、痛々しい敗北の記録はありません。小さな車体は人間と対比された撮影でそのサイズを実感させるもので、フィギュアと組み合わせた情景のためのアイデアソースみたいな一面をも持ち合わせる写真集です。実際九二式重装甲車も九七式軽装甲車もどちらもインジェクションキット化されていますから、本書をお題に製作するのもまたよし。


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九四式軽装甲車「TK」のページは本書でもいちばんのボリュームを占めています。中国大陸における実戦運用での写真が多く、軽装甲車部隊の実態が伺えるページとなっています。TKは前期型、後期改修型ともファインモールドからキットが発売中、小さいながらもたいへん組み立てやすくてオススメなのでありますが、被牽引車(トレーラー)が海外メーカーのレジンキットしかないのはいささか残念……。これがあると表現の幅は実に広がるハズである。


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TKの写真が多いのは独立軽装甲車第七中隊通称「矢口部隊」の部隊誌や隊内で編纂された部隊員留守家族のための「家庭通信」を大きな情報源としているためでもあります。この内容が実に貴重な写真の満載で、南京攻略戦で国民党軍が使用したドイツ製I号戦車A型の捕獲状況や、あまつさえ員数外装備として臨時編成した部隊での運用状況まで撮影されている(!)驚きの内容は皆様是非ご購入の上直接その目でお確かめください(菩薩のような笑顔)


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この矢口部隊を含む戦車第十三連隊編成式の一連の大判写真も非常に興味深いものです。日本の機甲部隊が観閲を受けている状況としては昭和20年埼玉県加須における戦車第五連隊のものや栃木県佐野の戦車第一連隊の撮影が有名ですが、ぶっちゃけあれらは負けたところの写真なので、昭和13年11月30日中支戦線漢口に於けるこの記録(独立軽装甲車第七中隊は戦車第十三連隊第三中隊として再編成されました)は陸軍機甲部隊の往時の興隆をしのばせるものです。


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秋のホビーショーではタミヤから久し振りに日本軍アイテムが発売されることもありますし、もっと豆装甲車関連に興味が向けられても良いかな……と、思います。以前「将軍と参謀と兵」だったか、戦時中の映画を見る機会を得たときに、クライマックスで救援に訪れる「戦車部隊」がこの軽装甲車部隊だったことにいささか失笑してしまったものですが、しかし大陸の戦線にあっては十分な防御能力をもつ装甲をまとい持続射撃可能な機関銃を装備した軽装甲車は、歩兵にとっての強い味方、頼もしい仲間であったことに疑いはありません。突撃砲というか挺身機銃座みたいなものですか。


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本書には乗組員の個人写真も収録されています。どの顔もみな若く、明るい表情で映っているのは何か象徴的で強く印象に残ります。この写真集は日本軍の機甲部隊がまだ若く明るい立場であった時代を今に伝えるものでもあるだなと、そういう読後感を得ました。

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2014-08-27

[]KKベストセラーズ「語れ!ウルトラ怪獣」

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さまざまなジャンルに幅広くコミットするKKベストセラーズのベストムックシリーズNo.44。同シリーズでは特撮関連本も既に幾冊か刊行されていますが、本書は特に「ウルトラ怪獣」について心行くまで語る内容です。

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ひとくちに「ウルトラ怪獣」といってもそれはそれは大勢居るもので、総数がどれほどのものか数えた人はいるのでしょうか。ガンダム関連のモビルスーツですら見当がつかない有様なのに、基本的に毎回の話数ごとに出現する怪獣総数や如何に。殊によると仮面ライダーシリーズの怪人たちの方が数は多いかもしれませんが、番組や年代の枠を越えて活躍し、系統立てや系譜を考えることができるのはウルトラ怪獣ならではの魅力でしょう。そんなウルトラ怪獣の魅力を様々な切り口で紹介するこのムック、とてもじゃないが限られたスペースで全部の記事に言及するのはとてもムリだと先に泣き言のようなことを書いておきますが、自分の琴線に触れる角度で紹介していきます。要するに今回はおっさんホイホイです(笑)


しかし「ウルトラQ」関係のスチールのいくつかは総天然色版の物が使用されているのですな。これも時代というものか……


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ウルトラ関連本、ウルトラ怪獣関連本というのもこれまた世の類書に果てを見ないほど多数が刊行されていますが、本書は「帰ってきたウルトラマン」からはじまるいわゆる第二次怪獣ブーム以降のコンテンツにチカラを入れた構成のように思えます。「帰ってきたウルトラマン」や「ウルトラマンA」で怪獣・超獣をデザインした井口昭彦氏や「ウルトラマン80」の怪獣や美術全般を手がけた山口修氏のインタビューはどちらも撮影当時の現場の実相を伝える貴重な証言内容。嗚路地なるのデザイン画も数多く掲載され、あらためてそれぞれの時代の怪獣デザインが持つ魅力についていろいろ考えさせられます。インタビューでは特に触れられていないけれど、珊瑚をモチーフにしたベロクロンのデザイン画は乳房からウエスト、股間に向けて絞られていく赤いラインが女性の水着のようで実に興味深いものですね。洋画SFXの影響が直撃していた「80」のころは製作側のリアリズム志向とメーカー側の玩具展開とがしっくり行かなかったというのはまあ、何時の世も変わらないことですけれど、UGMの飛行機がバンダイから持ち込まれたデザインではなく山口氏オリジナルが採用されていたら、本編の方も違った空気になっていたのかも知れないなあ。途中で変更されたUGM基地のデザインとかね。


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現場を知る人がどんどん高齢化していくのも現実なので、生の証言を記録するのは実際大事なことでしょう。新マン最終話に登場した「あの」二代目ゼットンの着ぐるみは軽くて動きやすい素材を用い、中に入っている役者のことを考えて造形されたという話にはなるほどはたと膝を打つ。この時期はソフビの怪獣がまだディフォルメ優先な形をしていましたから、ただ一回の撮影だけに使われる(番組制作自体は毎週ある)着ぐるみ製作で何を第一に考えるのかは、現場の作り手と後になってから怪獣図鑑やビデオ映像で喧々諤々するファン層とは相当隔たっているのだろうな。「作り手の立場」というのも役職ごとに相当隔たっているだろうとは容易に推測できるものですけれど。


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ワンフェスなどのイベントにもよく招かれる桜井浩子さんをインタビューして、たずねる内容が主に「ウルトラマンレオ」のローランについてだなんて実にロックな記事もあるのだ。「鶴の恩返し」だと言われて出演したら出て来たのは「どっちかというとワニよ、ワニ」ってこの点では作り手側とファン層の思いがひとつになりそうです。いやローラン以外にも「ミラーマン」でのゲスト出演や悪役を演じることなどフジ隊員とはひと味もふた味も違う演技論を語っていて実際面白い。でもやっぱりローランはどう見たってワニ。


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「ウルトラマンパワード」20周年を記念して一連のパワード怪獣についても大きくページを使っているのも特色です。デザイン画や現地ハリウッド(ハリウッドのどのへんだったんでしょうねえ)での着ぐるみ製作の様子など、どちらかと言えば継子扱いなパワードにも光を当てるもの。本作についても怪獣デザイン担当前田昌弘氏インタビューは面白いもので、成田享画伯に怒られたとか実相寺昭雄監督に怒られたとかそういうエピソードそのものよりも「所詮はファンの二次創作的なものに落ちてしまっている」映像を作る、そういう作品でしかウルトラが作れなかった時代があると、怪獣の造形やデザイン一つにしてもそれぞれ時代性が反映されているものですね。


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バルタン星人は言うに及ばずレッドキングやゴモラ、キングジョーなど人気のある怪獣は時代を超えてなんどもリメイクされています。そこには決して「ファンの二次創作的なもの」に止まらない魅力、怪獣という存在を社会がどのように受容してきたかの変遷が記録されているはずで、懐古趣味だけでは片づけられない発展性もあるでしょう。「大怪獣バトル」をきっかけとして現在では「大怪獣ラッシュ」が、ウルトラ怪獣や宇宙人にゲームキャラとしてのバリエーション展開とキャラクター性を付加し、それがまた新しい映像作品へとつながっていくと、そういうわけです。


……そういうわけですから、そろそろ誰か「ジラース」を再デザインしてくれまいか。あれも非常に魅力的なデザインに関わらず日の当たらない怪獣で、いまこそ「84年版ジラース」や「ミレニアムジラース」「レジェンダリージラース」とか考えただけでも訴訟が危ない。


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平成シリーズや最近の劇場版に登場する怪獣たちについても多くのページが割かれているのに本稿では古めの話ばかり取り上げてしまったことをお詫びします。古い特撮の怪獣と撮影風景は現代のそれとは相当隔絶したものですが、それでも電飾による異形さの演出などは「パシフック・リム」やレジェンダリーゴジラのムートーなど、CGの怪獣にも受け継がれるなにか精髄のようなものがあると感じます。


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ほんでこの本何がいいって最後のページに「サイゴ」が載ってるのよ。これだけでオジサンもう涙、ナミダなのよ……


(意味のわからぬ者は駄菓子屋に行って「ワールドスタンプブック 怪獣の世界」を買ってくるべし)

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