日ごろ何気なく使うエンジン(engine)の語源は、なかなか探すのに苦労した。
それに対して、エンジニア(engineer)の語源を『科学史技術史事典』(弘文堂)に発見するのは容易だった。
なんでも「天才」が本来的な意味だったようだ。ルネサンス期に生まれたのだそうで、レオナルド・ダ・ヴィンチやアルベルティがその対象であるという。なるほど、首肯できる説ではある。
それも軍事技術者を指していたというから、穏やかではない。
もともと、ギリシア語ではデミウルゴス(demiurgos)=「民衆のために働くもの」と言われ、ラテン語ではアルキテクトゥス(architectus)=「棟梁」だというのが、その始まりの呼び名であった。
技術者の社会的な位置づけがよくわかる。人々の社会的事業(治水や築城、道路や橋梁構築など)に際して、人々を効率よく働かせ指導する。天災や強敵に立ち向かうには、その才幹には神的な閃きが必要であったのだ。
エンジンはいまや動力装置だけではなく、情報検索にもつけられる。つまり、検索エンジンと呼ばれる。
これもプログラム可能な計算機のアイデアの源に「差動機関=ディファレンシャル・エンジン」があったと考えれば、それほど違和感がない。蒸気で動く計算機が思考するというサイバーパンクSFのタイトルにもなったが、イギリス人科学者のチャールズ・バベッジの設計書にもとづき最近、稼動させることに成功したとニュースにあった。
では、その語源であるけれど、平田寛の「失われた動力文化」や富塚清の『動力物語』には発見できなかった。そういえば、技術史の本って手元にあまりない。科学史に比べるとかなり、手薄な分野ではないだろうか?
もちろんブルーバックス『エンジンのABC』や山海堂の『自動車エンジン工学』には期待できない。
結局、英語史の啓発書の名著であるバーフィールドで近いものを見出すことができた。
これは元来ラテン語gigno(生み出す)より派生したゲニウスgeniusから来ている。その語幹はingenius(利口な)、engine(エンジン)等にも見られる
つまりは、エンジニアが生み出した製作物がエンジンなのだが、やはり特異な才能がなければ生み出せない人工物という観念がその語感には働いているようだ。
【追加】
その後、三輪修三の『工学の歴史』にて妥当な語源説明を見出すことができたので、補填します。
発生時期は15世紀のルネサンス期であるという。ラテン語で新技術をingeniumといい、ここからengineは生じた。ここまでは語源に関する説明ですが、この後が
興味深い。その担い手たちをingeniator(インゲニアトール)と呼び、その意味は要塞建築家でやがて、engineerになったと三輪氏は補足している。
つまり、エンジニアとは軍事技術者たちがその源にあったということだ。
【参考資料】
最近のIT中心の技術論は半分しか真実を言い当ていないと思う。なんと言っても「ものづくり」の歴史知識が足りないと思うのだ。その意味でこの本は貴重。
- 作者: 三輪修三
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/01/01
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バーフィールドはこれまた異なる意味で貴重な思想家だ。言語の変遷と文明の進歩がコンカレントだったというのは結果論なのかもしれないが、忘却してはならない
事実だろう。
- 作者: オウエン・バーフィールド,渡部昇一,土家典生
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1980/08
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