2005年3月17日(木)快晴

Villafranca del Bierzo--- Trabadelo--- La Portela de Valcarce--- Vega de Valcarce--- Ruitelan 19km


朝から快晴。このアルベルゲは本当に親切だ。  次の目的地まで、各人のリュックサックを車で別送するサービスを提供している。  というのも通常ルートではこの日、O’Cebreiroという山を登ることになる。  高度600mから一気に1,300mまで登る心臓破りのルートだからだ。  だが私達は、その手前のRuitelanで今晩宿泊する予定。

左:サンティアゴの像(Villafranca)   右:1日、身軽な巡礼者のマリエラ
パスポート、お財布、ティッシュと杖だけが、今日の私の荷物だ。  背中に羽が生えたように身軽。  INAHO・マリエラ組は、ベルギー人グループと一緒に山道ルートを進むが、私は足首が痛いので、国道一直線の近道ルートを進む。  ブラジルのAlbertoは、今日がお誕生日だ。  朝から皆に祝福のキスをされて、満面の笑み。  まさにサンタクロースのよう。  そして彼は荷物と一緒に、車でO’Cebreiroまで行くという。  「あの山を登るのは、タイヘンだからね!」とにっこり。
  
左: 山側の巡礼道   右:木の幹に書かれた黄色い矢印、見逃すと迷う。

上:マリエラとベルギー人とフランス人の巡礼者。
Federicoは話がしたいと言うので、一緒に出発した。  ジェノバ出身の彼は、大学で法律を学んでから、2年間海軍でアフリカ沿岸を航海した。  そして今は銀行員という、至ってまじめな27歳の青年だ。  英語が流暢なので、話ができる。  この巡礼路が大好きで、何度も来ているそうだ。  去年は「自転車巡礼」を一人でしたのだという。  「一人で歩くのも良いけど、たまには彼女と一緒に歩くのも楽しいんじゃないの?」と言うと、何故か沈黙。  「実を言うと、フランシスコ会にとても惹かれている。  でももちろん、彼女も大好きだよ。  どっちをどうやって選べばいいか、わからない。  君はどうやって決めたの?」 思わず日本語で「マジですか?」(実はこの時、私は修道の道を考えていた。  後に挫折。)
その後もランチをはさみ、なんだかんだと話しながら歩き続ける。  Federicoの悩みは深い。  途中の村で、小さなおばあちゃんに呼び止められる。  お年寄りのスペイン語で、よくわからない。  フェデリコの通訳によると、私の持っている「杖・・拾った木の枝」が良くないので、もっと持ちやすい枝と換えてくれるということだった。  真っ直ぐで、ちょうど握りやすい太さの枝をくれた。  「彼女はシスターか?って言ってる。」とフェデリコが笑うので、「あなたの姉ってこと?」  「違う、違う。  Religiousのシスターかって。」  十字架も下げてない「謎の東洋人」が、なぜ修道女に思えるのか?  この黒砂糖飴のような瞳をした、黒ずくめの小さなおばあちゃんの想像力はケタ外れだ。
歩き続けて今日の宿泊地、Ruitelanに到着。  特筆すべきは、ここの自然の、独特な美しさだ。  村に入る一本道の片側に、美しい緑の草原が続いている。  その緑の草原全体を、泉から湧き出た水が、キラキラサラサラとすべらかに流れている。  こんな景色はいまだかつて、どこでも見たことがない。  草と水と空気が、太陽の光の下に嬉しそうに遊んでいるようだ。  言葉もない。  
今日は国道ルートの近道をしたので、INAHO・マリエラ組よりも先にアルベルゲに到着。
村の小さなアルベルゲは、とてもセンスが良い音楽とインテリアだ。玄関にはダライ・ラマの写真。世界中からここを訪れた、巡礼者達の写真が飾ってある。  オーナーは「おすぎとぴーこ」の、「おすぎ」のような小柄なおじさん。  おしゃれで、目つきが鋭くて、会話が楽しい。  まだ今日は誰も巡礼者が来ていないとのことで、ラウンジで3人でしばしお茶をする。  清潔な空気が流れている。  他のアルベルゲとは、何かが違うように感じる。  ペンギン・カフェ・オーケストラの音楽がゆったり流れ、今日の疲労も既に癒され始めている。
フェデリーコは、今日中にO’Cebreiroに到着予定だ。  日が傾く前に、山を登らなければならない。  お互いの無事を祈った後、笑顔で出発した。  「人生を決心したら、連絡をくれる」と言っていたが、連絡はまだない。(注:クリスマス・カードを交換する良い友人となった彼だが、2008年現在、「彼女」を選び神父にはならなかった。)
シャワーに入り洗濯をする。  とても快適だ。  今までになく、気持ちが落ち着いている。  後から到着したマリエラは、ここで「マッサージ」を受けると言っている。  どうもここでは「指圧」のような、東洋的なマッサージの施術をしてくれるらしい。  良い「気」が流れているのかもしれない。
「でも、「おすぎおじさん」も一人じゃさびしいわ〜」と思っていたら、キッチンからエプロンをした「ぴーこ」のおじさんも登場した!  この2人のおじさんは、背格好も雰囲気もそっくりで、ナイス・ペアだ。  そして、ディナーでは思わず私達3人が「ワーォ!」と声を上げた。  ぴーこおじさんの作ったディナーの、何と芸術的なこと!!  素晴らしかった。  この夜の宿泊は、我ら3人のみのため大いにワインを飲んで楽しんだ。  その後、ご機嫌の私はINAHOさんのベッドルームで延々と1時間一人で歌い続け、大いに迷惑を掛けた挙句、9時半就寝。  恵まれすぎた、巡礼の一日だった。感謝。

上:アルベルゲでの夕食、盛り付けも美しい。


アルベルゲ:6ユーロ