マグダラで眠れ

支倉凍砂の新シリーズ。騎士団付きの錬金術師・クースラが主人公。冶金技術に魅入られいるクースラが、その道を突き進むが故に教会の教義に反した咎で左遷先に選ばれたのは戦場の前線にある工房。かつての馴染みである錬金術師・ウェランドと共に贈られたがその工房は、前任者が不審な死を遂げていた。そして、その工房で監視役を名乗る小さな修道女と出会い...と言う感じに話が始まります。

とても面白かったです。錬金術師と聞くと、どこか胡散臭い印象を受けるのですが...確か胡散臭い事には変わらないのですが、やっている事はとても真面目。鉛から金を作る事を目指している訳では無く、あらたな技術の開発を主目的に置く集団、と言う意味での錬金術師。主人公は特に冶金技術に関心が強く、どうすればより良い鉄が精錬出来るのか? を常日頃から考えているキャラクタ。科学技術そのものが発達過程にある世界観なので、技術の進歩は試行錯誤と実験と言う基礎に忠実な進め方です。しかしその実験方法に行き過ぎな部分があって、時には教会や世間から睨まれる...と言う展開です。
話は、前任者の残した冶金技術をなぞる形で進んでいきます。前任者が死んだ理由はその冶金技術にある事が濃厚な中、しかしその素晴らしい成果を、仕事として、そしてなにより錬金術師として追わずにはいられない。己の身の危険よりも、技術が埋もれてしまう事を恐怖する心境がとても良かったです。ある意味狂気の域なのかも知れませんが、このぐらいの方が好感が持てる。
監視役の修道女・フェネシスも良かったです。明らかに捨て駒として教会から派遣されてきて、怯えながらも任務に忠実であらんとする姿。時折見せる、歳相応の好奇心。徐々に主人公との距離が縮まり、打ち解けていく感じが良かったです。しかし、終盤で明らかになる真実にはビックリ。そういやこの作者、『狼と香辛料』の人だよね...と、妙な納得の仕方をしてしまいました。

まだまだ話は始まったばかりですが、まだ見ぬ領域を目指して進む錬金術師達の行く末がとても楽しみです。続きに期待。