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2007-11-27 強敵登場

女神はどっちに微笑む?


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先月から新しいバイトの女性が入った。

年齢は22歳。

学生かな?と思っていたら

2歳の子供のいるシングルマザーで

子供を保育園に預けている間だけ働くのだという。





顔が可愛くニコニコしていて、

その上あっけらかんと

「遊んでたら出来ちゃった子で

 誰の子かもわからないんで

 認知もしてもらってないんです。

 でも自分の子供には間違いないから可愛いですよ。」などと言い、

聞けばなんでも隠すことなく明るく答え、

思わず応援したくなる私なのだが、

オフィスの女性にはまだまだ古い考えが浸透していて

未婚で子供なんて!と噂の種になった。

そんな事は慣れっこなのか、

はたまた気にしないのか、

「私って男運がないんですよ、

 エッチするとすぐ捨てられちゃう。」などと言うから、

事実オフィスの中では浮いた存在になっていた。





そんなある金曜日の夜、

彼女の歓迎会が行われた。

私は用事があり出席出来なかったのだが

月曜日の朝イチにメールで女子トイレに集合がかかる。

「何事?」と思い、

仕事もそっちのけで駆けつけると

飲み会での彼女の行動の報告会だった。

「もうね、すごいの!

 Sさん(彼女のこと)のまわりに男性が競うように集まって、

 料理を取り分けてもらったり

 ちょっとお酒が減れば誰かが注文して

 蟹の中身まで出してもらっていたのよっ!」

出席者がすごい剣幕で捲くし立てる。

私は思わず吹き出してしまった。

いーじゃん、そのぐらい。

皆も笑っているかと思いきや、

真剣な表情で聞いている。

あわてて笑いをかみ殺して取り繕う。



飲み会は全員で50人ほどだったという。

その中で出席した女子は5人、その中の一人がSさん。

それはかなりの争奪戦だったに違いない。

勉強ばかりしてきて大人になったような男が多い部署なため、

アルコールが入ったときにしか

大胆なアプローチが出来ないと予想。





「あの人、プロなんだもの。」と誰かが言う。

「プロ?」私が聞き返すと、

「そう、キャバクラで働いているって自分で言ってたよ。」

えぇ〜!!と声を上げる一同。

「だからバイト採用なんだって。夜も働いているから。」

「なんか触られていても平気だったみたいだし慣れてるのよね。」

「え?胸でも触られていたの?」

私が驚いて聞くと

「ううん、背中とか腕とか。ベタベタ触られてたわよ。」と返ってきて

再び吹き出す私。

いーいじゃん、腕や背中ぐらい。

好意の印なんだからさー。

ドサクサ紛れに触りたいのよぉ。

そんなとこなら許してやってよぉ。

と、、口に出せずに心の中で反論した。

そんな人と同じ職場にいるなんて信じられないわ、と誰かが言った。





「でも」、とさすがに私が遮ぎる。

「一人で子供を育てていこうと思ったら

お金も必要だし、あれだけ可愛い顔だから

てっとり早くお金になるキャバクラに

勤めていてもおかしくないんじゃない?」

同意を求めてまわりを見回すが

「でもIRMAさん、

ひとりならいいけどSさんには小さい子供がいるのよ。

お金は入るかもしれないけど

子供の教育のためには良くないでしょう?」

とあえなく却下。

でも私は思う、仕方ないんじゃないかと。





その会議から2週間ほど経った日、

同じフロアで働くPさん(女性)から

帰りに少し時間をくれない?とメールがきた。

「IRMAさんはSさんのことはどう思う?」と

向かい合ったカフェのテーブル越しにPさんが聞く。





以前にも少し書いたのだが

私と同じフロアの女性は美人揃い。

特にこのPさんは中でも一番綺麗だと私は思っていて

松雪泰子に似た顔の華奢で仕事も出来る正統派な美人だ。

おまけに性格も良くて

私が男性だったらきっとプロポーズしている。





「Sさん?あんなに若いのに子供を一人で育てているし

 がんばってると思う。

 皆が思っているほど悪い子じゃないかも。」

率直に言うとPさんは少し黙ってしまった。

「実は私、Uさんとつきあってるのね。」

へぇぇ!!

飛び上がるほどビックリした。

Uさんは同じ部署の男性で欧州方面の担当をしているため

海外出張ばかりであまり社内にいない人。

小柄で恰幅がよくそれほど顔も良くないし、

30代なのに30代にみえないオヤジの風格。

ただ4ヶ国語を操る国際派らしく

電話でフランス語で話しをしているのは聞いたことがある。

だけど、、決して華があるわけでもないし・・

黙っていたらウダツの上がらない男って感じなのに。

それがPさん、あなたと!?

Uさんの良さが分からないだけに、もったいない。





私があまりにも驚いたため

先を続けることができないPさん。

「あ、ごめんね」

私が謝ると、うううんと首を振って

「つきあっていることは誰にも内緒ね」と言った。





話はこうだ。

二人はつきあいだして1年。

喧嘩もなくお互いにお互いを満足してきた。

しかし、あの歓迎会を機に不穏な影がチラつき始めることになる。

歓迎会にPさんは出席せずにUさんが出席したのだが、

その夜、UさんはPさんの待つ自宅マンションには帰らなかった。

次の日の昼、

二日酔い状態で帰ってきたUさんはそのまま眠ってしまい

予定があったPさんはUさんを残しマンションを出る。

次の日、気になったPさんは再びUさんのマンションへ。

Uさんは特に変わりなくいつもの様子にもどっていて

日曜日は二人で仲良く過ごした。

Uさんが席を外したときに

ソファの上でふいに鳴ったUさんの携帯に目がいく。

あまり鳴らないその電話を手に取ってみると

Sさんの名前が点滅していた。

凍りつくPさん。

なぜSさんから電話が?





「月曜日に会社に来て、トイレで話を聞いて

 もしかして金曜日に帰って来なかった理由が

 Sさんにあるんじゃないかと思って、

 飲み会に出席した人に何気なく聞いたの。

 そうしたら、やっぱり飲み会の間UさんはずっとSさんの

 横にいてべッタリだったみたい。

 ベタベタ触っていたのもUさんだって。

 飲み会でそんな感じだったら

 その後も一緒にいたと思うのが自然じゃない?」

んんんん−・・・・

唸ることしかできない。

「それに」とPさんは続ける。

「Sさんは私たちのことを知らないでしょう?

 彼のところに電話とメールがバンバンきてるみたい。

 あの日曜日の私が気づいた電話の後にも

 何度も電話が鳴っていたみたいだし

 こそこそメールもやってたし・・」

「でも違う人からかもしれないじゃない」と私が言うと

「うううん、彼は友達がいなくて携帯の着信とメールは私限定だから。」

んんんん−・・Uさんに友達がいないっていうのは納得だ・・・

「Sさんはプロだって聞いたし、

 本気になったら盗られちゃう気がするの。

 率直に彼に聞いてみようかと思っているんだけど、どう思う?」

んんんん−・・・

私は唸りっぱなし。





その時の私の推理はこうだ。

あの飲み会の後、

SさんとUさんは一緒にいたとしても

UさんはSさんに本気になることは決してないと思う。

なぜならUさんは子供の頃からの純粋培養で優秀な大学へ入り

社会に出た今は将来を期待された会社の数少ないエース。

それは本人も十分承知しているだろう。

そういう男は往々にして恋愛ごっこでヘマをしたりはしない。

どんなビッチと遊んだとしても

最終的には自分の釣合いのとれた

賢く美しい女性を選ぶもの、

つまりPさんを捨てたりはしないと私は自信があった。

おまけに相手はあんなにあっけらかんとしたSさん、

若いし可愛いから相手はいくらでもいる。

お互い遊びなんだと確信していた。





「私がPさんだったら彼には何も聞かない。

 何もなかったことにする。」

へ?という顔をするPさん。

「だって聞いて何になるの?

 万が一何かあったとしても 

 Pさんを失いたくなかったら嘘をつくし、

 本当のことを話されたらUさんを失うことになる。

 何もなかったとしても

 疑ったことで亀裂が入る。

 何もいいことないでしょう?」

うん、と頷くPさん。

はかなげで美しい。

こんな綺麗な彼女がいても男は浮気をするんだよね、、

その神経が全く分からない。





そうは言ったものの私がPさんの立場だったら、

きっぱり別れると思う。

同じフロアに彼女が(それも美人)いるのに

別の女性に手を出すなどとはもってのほか、

おまけに彼女にバレてるし。

遊び方を知らない男の典型のよう。

こういう男性はだいたいセンスがない。





その後、

特にPさんからUさんとの話は出なかったため

上手く乗り越えたと思っていた。

ある日のランチタイム、

Sさんの横を通りかかると

めずらしく料理の本を広げて熱心に読んでいた。

「あら?新しいメニューに挑戦するの?」と

私が声をかけると

「私と子供だけだったら簡単に済ませちゃうんだけど

 今日はお客さんが来るから頑張らなくちゃ。」と笑う。

「へぇ〜そうなの。何作るの?」と聞くと

「お客さんてUさんなんですよ」と明るく言うSさん。

へ?

言っている意味が理解できずに頭の中が混乱する。

まわりの人のお喋りの声も急に途切れ

部屋がしーん・・・とした。

「Uさん何が好きなのかな?知ってる人いますか?

和食がいい、って言ってたけど色々あるから分からなくて。」

Sさんの大きな声が響く。

誰も返事をしない。

私の背後にPさんがいる。

どんな気持ちでいるのかと思うと胸がつぶれそうになり

ぼんやりSさんのキラキラした顔を見ていた。





「Uさんとつきあってるの?」

誰かがSさんに聞く。

「いいえ。つきあってるわけじゃないです。

 彼女もいるみたいだし。

 でも私はUさんが好きなのでガンガンいくつもり。

 私、男の人の取り合いで負けたことが無いんです。

 だから今度も彼女さんには負けません。」

Sさんの視線の先を目で追うと

そこには青い顔をしたPさんがいた。





Sさんは知ってる。

知っているのに知らない顔をして話している。

若さと可愛さとあっけらかんとしたその仮面の下は

したたかな女の顔がある。

Pさん、負けるかもしれない。

咄嗟にそう思うと

全身に鳥肌が立った。