音楽と人 2002年8月号
インタビュー=金光祐史
●今度のは、前作の『COPY』以上に、ひとりぼっちな印象を強く受けますけど?
「ひとりぼっちだったからひとりの歌が出てきた…それだけなんですけどね(笑)。でも…『COPY』の時のほうがひとりぼっちでした。だから求めていたんでしょうね。言葉の中にさみしさがにじみ出て、そこに第三者が入ってきた。実際にその人はいなかったとしても。でも今回の『coup d'Etat』は、誰も助けてくれない世界に足を踏み込んで、ひとりで戦わなきゃいけないんだなって気持ちがあって。突き詰めていくと、孤独に戻っていくのが僕の歌の傾向というか。最終的に、そこに何か救いがあると思ってるから」
●うん。
「別にどうでもいいやと思ってれば、適当な言葉で〈君も誰かとつながれるかもね〉みたいに言えると思うんですけど、そこにもっと切実な、誰かとつながりたいっていう、他者に対する不信感と裏返しのものを求めてるから、逆に嘘を付かないでいたい、ごまかしたくない気持ちが出てるんじゃないですかね。嘘くさいコミュニケーションが嫌いなんです。僕も言葉を紡いで、歌にして投げかけてるわけだから。伝わることはわかってて。ただ、曲という名のもとにいろんなのが氾濫してて、そういうものに対しての不快感がすごいあって。そういうのを変えたいっていうか、俺は違うんだってことは言いたい」
●それは逆に、人とのつながり、を何よりも大事にしてるってことだと思うんですよ。
「はい」
●でも今回ベースの方がバンドを抜けましたよね。7年近くやってきたメンバーが、そうやって離れることをどう思いますか?
「うん…自分が嫌な人間だったなっていうのを感じました。人のことガーガー言ってるくせに、やっぱり人間関係でバンドをやってた。何かしらの精神的なつながりとか、関係性を含めてバンドと言うなら今はバンドじゃなくなってるのかもしれない。けど、真剣に正面向いて音楽に向き合ってるなら、バンド幻想はどうでもよくなってくるっていうか。それに夢を見て、聴いた人の頭の中でその曲を何倍かの美しさにしてもらわなくても、充分素晴らしいものを作ればいいと思うんですよね。僕はそういう意味で甘えていたっていうか…ひとりぼっちが怖かったんです」
●葛藤もあったでしょう?
「葛藤ばかりでしたね。正解がどっちかもいまだにわからない。でも仲良しが商品価値として、音楽とセットで流通するのはいいことではないと思ってるし、ステージの上でさえ嘘がなければいいんです。もう普段なんか大嘘つきですから、僕。だけどステージの上では、変な嘘こいたら、自己嫌悪になるだけなんで。丸裸で。ステージとスピーカーの前のお客さん、リスナーの人に対してだけは誠実に。誠実、うん、なかなか言えない言葉だよね(笑)」
●人が信じられなかったり怖かったりするほうですか?
「基本的に他人は怖いものだという認識が強いです。自分のことをそんなに信じてないから、人のことを信じられるわけもないし。ただそこに歌が必要だっていうか。本当に純粋にいい音楽を作りたいだけなら、別にメジャー・レーベルからリリースする必要もないし。自分の納得できる音楽だけを作り続けることっていうのは可能じゃないですか、今は。でもやっぱり、そこに喜びはないんですよね」
●それは人とつながりを持つことを必要としてるからじゃないですか?
「そうねぇ…うん。だと思うけど、でもそこにあまり盲目的になりたくないというか、通じ合う通じ合わないのところを絶対化したくないんですね。(自分を)突き動かしてるもんは、ただの性欲みたいなもんかもしれんし」
●でもそれが通じる人の存在は大切なことですよね。
「そうですね。でもそこにいろいろ媚びがないと言えば絶対嘘だし。感動って言葉はちょっと手あかまみれで、難しいけど。何だろ…心を動かしたいっていうか」
●僕、10曲目の「ハピネス」がすごい好きで。あの曲の〈ねえ/そんな普通を/みんな耐えてるんだ〉ってフレーズがあるじゃないですか。あれは辿り着いて、何かに気がついた歌詞だなぁと思うんですけど。
「そうですねぇ…答えかどうか、書いてる時はわかんなかった。答えっていうか、全然違うことを考えてるような人間達を目の前にした時に、そうであってほしいっていうか…じゃなきゃちょっとキツイなって思うんですよ。楽しいって言ってる時の顔が怖かったり、その笑顔に狂気を感じたり。幸せっていう定義がなんか気持ち悪いっていうか。こう、昆虫とかを入れとく箱あるじゃないですか。みんなあん中で、蜜かなんか塗られた木の枝に、しがみついてるだけの気がして」
●ああ、与えられてはいるけど、これ幸せかなぁって。
「うん。ほんとはその、上のプラスチックの箱開けて外に出れば、もっといろんなものがあって。リスキーだけど楽しいのに」
●逆に幸せは、箱の外には何でもあるってことですよね。
「そうですね。どこにその人が幸せになる場所があるかと言ったらないけど、どこでも幸せになれる。自分の中にある、というか。だからいかに自分が自分を壊せるかってことかな?俺も含めて。要するに、生きてりゃいいじゃんっていうことに対する拒絶感っていうかなぁ。エサだけもらってればいいってのはまっぴらだなぁ、と」
●生きてるだけじゃしょうがない。それなら動物でもなんでもできるじゃん、っていう。
「そうそうそう。彼らは生きるだけが目的だから。シンプルでいいと思うけど、相当リスキーでしょう。いつ死んでも、誰も悲しんでくれない。でも、だからいい。もちろん死ぬってことに対しての悲しみって、人間が持ってるすごい素晴らしい感情だけど。でも、自分が生き延びることだけ考えて、ただだらだらと生を送ってる人がすべからく正しいとは思わないし、そうじゃない人間が増えたほうが楽しい。ただ、安易に誰かが作った方法論でやりたくないだけの話で。だからすごいわかりづらいと思うし、お客さんがノレないのは当然なんです。逆にそれでいいんです。受け入れられなかったら、消えていけばいい。でも、一瞬でいいんです。一瞬、そういう気持ちがつながれば、そのアルバムを作った意味はあるから」
●だからこういう絶望やらなんやらを唄いきった先にあるのは、喜びや希望。闇じゃなくて光、ですよね。
「そうですね。どうしてもそれを求めてしまいますね。裏返しの感覚で」
●昔からそういう感覚でいた人ですか?
「いや、昔はバカだから、野球少年だったんだけど、キャプテンになるまで頑張っちゃったり、生徒会副会長にまでなりましたから(笑)。何かしたいと思ったんですよ」
●正統派というか、真正面からぶつかってるじゃん(笑)。
「自分の人生を良くしようっていう意味では今と変わんないんだけど、完全に間違ってた(笑)。でもそれが受け入れられなくて、そのへんから変わったんだと思う。世の中をして正しいと言われているものを、とりあえず試してはみたんですよ。小学校5年ぐらいまでは。いい子だったし、反抗期なんてなかったし。思春期含めてね。でも、あんまりそういうことが…まぁいいや。ヤなこと思い出してきた(笑)」
●あははは。
「でも、生まれてきてからずっと、真剣に生きたいっていう気持ちだけは変わってないのかなぁ。内向的で何もできなくなっちゃった時期を含めても、やっぱり生きたいって気持ちはずっとあったんじゃない?まだ迷っているけど、一応踏ん切りをつける、そういう作品ができたんじゃないかなぁと思うんですよ」
●五十嵐君をそうさせたのも音楽だったんですよね。
「そうですね。それを感じられるのは音楽だったんですよね。俺は、なんか異国のね、言葉もわからなかったけど、夜中のラジオから流れてきた音楽をヘッドホンで聴いて、なんとも言えない感動、気持ち、感覚を味わったんですよ。たぶん、それを追い求めてるんです。自分でそれを発信する側にまわりたいっていうか」
●自分を揺り動かした何かを。
「っていうことだけが信じれるひとつのものなんですよね。心っていうものがもしあるとしたら、そこが痒くなるっていうか、ツーンとする、そういうものを作りたいっていうのはずっとあります。だから『coup d'Etat』ってタイトル通りちょっと攻撃的なトーンもあるけど、やっぱり切ない」
●こうやって自分の曲が、確かに人に伝わってるのを知って、どう思いますか?
「それが生きてるって感じる瞬間、みたいなもので。すべてが真っ白になる。希望っていうか、光ですね。確かに手に入れた感じになる。別に死んだ後、お金は持っていけないからね」
●気持ちとか思いは持ってけるかもしれないからね。
「うん、そうですね。死ぬ時に、どんだけ豊かに生きたか、そこで計ればいいっていうか。醒めちゃってる人は…って自分もそういう時あったけど(笑)。素晴らしい人生生きたからどうなのよ、どうせ人間死んじゃうんだしさ、みたいなこと言ったりするけど、そういうこと言ってるやつが一番負け犬ですよ。絶対貪欲な方がいいっすよ。僕は確かにそこから這い上がってきたんだから」
『音楽と人 2002年8月号より』
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