海外のヤングアダルト小説を、早川書房とメディアファクトリーが日本で出すとこうなる

 百聞は一見に如かず。まずはちょっと、これを見て欲しい。見てと言っても、買って中身を読めと言うんじゃない。いや興味が湧いたら買ってもらって結構だけど、とりあえず今は表紙だけでいい。

ティンカー (ハヤカワ文庫SF)

ティンカー (ハヤカワ文庫SF)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

エイリアン・テイスト (ハヤカワ文庫SF)

エイリアン・テイスト (ハヤカワ文庫SF)

 見た? 頭に焼き付けた? 表紙のイラストを見て、どんな内容なのだろうかと、ちょと想像してみるのもいい。それこそ本物のエロゲーライトノベルで、ありそうなタイトルじゃありませんか。「女たちの王国」ですよ。それがまた「ようこそ」と来たもんですよ。あなたならどうします。………………そろそろいいかな。
 では次にこれ。
Tinker (Baen Fantasy)

Tinker (Baen Fantasy)

A Brother's Price

A Brother's Price

Alien Taste (Ukiah Oregon)

Alien Taste (Ukiah Oregon)

 一番上のタイトルがそのままなのですぐ気が付いたと思うけども、それぞれ同じ本。上3冊が、早川書房から出ている日本版。下3冊が、海外で出ている英語の原書版。真ん中なぞは「その商品、リンクミスしてね?」と思いたくなるだろうけれども、これであっている。原題『A Brother's Price』。邦題『ようこそ女たちの王国へ』。同じ本だ。


 マンガ、アニメ、ゲーム。一般的にオタクが好むとされる(と言うか、これを好むとオタクとされる)この3つに共通するのは、いずれも「海外作品がなかなか受け入れられない」こと。好まれる傾向が全く違うものだから、海外では超の付く人気作品であっても、日本ではさっぱりと言うになる、映画のそれとは大違いだ。特にビジュアル面での美醜の基準の違いが如何ともしがたく、それでいてビジュアルの重要性は決して下がることがないので、「キャラの見た目が萌えないからクソ」レベルの判断基準で吐き捨てられることもしばしば。
 かと言って、キャラクタのデザインを日本向けに変えてしまえばいいかと言うと、これも難しい。手間がかかる。ゲームなら、キャラクタ以外のビジュアルのタッチの統一、そのキャラクタに使えるハードの性能やソフトウェアのデータサイズの余裕と、他の要素との整合性もいちいち考慮に入れないといけない。マンガもそう。ゲームと違って視覚だけに訴えるマンガなんて、もっとそう。キャラクタを変えようとしたら、それは全ページを一から描き直すということで、出来上がったものはもう別の作品でしかない。


 そんな中、ひとつ異なる事情を持つのが、小説。視覚と言っても、マンガと違い絵ではなく文字で表現するメディアのため、作品のビジュアルは読者の頭の中で構築される。挿絵はほとんどないか、あっても数ページ、十数ページ。つまり、どういうことか。
 そう、他のメディアと比べて圧倒的に低いコストで、書き換えられるわけだ。なんたって中身は文字なのだから、表紙と、多くても後は数枚の口絵と挿絵で「こういうキャラクタなんですよ、そういう作品世界なんですよ」と印象付けてしまえば、あとは読者が頭の中で勝手に置き換えてくれる。
 その結果が、冒頭のあれだ。3冊とも挿絵はない(らしい。実はまだ、いつものごとく、積んだままで読んでない)。表紙だけ。つまり、エナミカツミのイラストたった3枚だけで、あの衝撃的な光景が生まれるのだ。勿論、その3枚を書くまでにいろいろなデザイン案が検討されたろうし、絵を描く以外にもまず最初には「よし、こういう方向性で日本版を出そう、出してみよう」と決めた編集者なりもいるはずで、そう言う過程を経た上での最後の完成形ということだろうが、ゲームやマンガならどうであるかを考えると、その手間は雲泥の差だ。


 すごい。ああも作品の印象を変えてしまう日本版に、異論がある人も多いだろう。私自身、日本の「萌え」にあまりに媚びるようなのは、見ていて良い気はしない。被害妄想気味だが、「こういう流れが出来ると、海外の作品に対して、自分が萌えないからってだけで下に見てせせら笑おうする、つまらない増長したオタクがまた増えるんだろうな」と思ってしまって、不快に感じる。
 と同時に、でも、こうまで明確に「どうだオラ売ってやるぜ! お前らのためだ! 買え!」というメッセージをばりばり発信されると、思わずクラクラっと来てしまうのも事実だ。「そこまで言われちゃ、俺だって買うしかねぇな!」と思えてしまう。ネタとしてもあまりに捨てがたい。まぁ、これは、俺がライトノベルに対していまだに捨てられないでいる郷愁と言うか何と言うか、そういうのも複雑に絡んでの感情だと思うけども。だから、有名文学作品に人気マンガ家の表紙絵を付ける「あっち」の流れに対しては、一向に、これっぽっちも興味が湧かないんだよね。うん。


 ま、何だな。何か言いたいことがあるわけじゃないので、締めに困ったね。「おいおい日本版と原書版の表紙が違いすぎるぜ、見てみろよ」て言いたかっただけなのでね。うん。じゃあなんかグダグダと長いこと書いてないで、最初の「同じ本だ。」までで十分じゃねーか、と言う。
 ちなみに。上記3作品の作者のウェン・スペンサーさんですけども、日本版の表紙を見て、本人もたいそう喜んでいるようで。なんでも、元々からして日本のアニメやマンガの影響が色濃い作品を書く人で、『ようこそ女たちの王国へ / A Brother's Price』は、実際に読んだ人によると、日本版表紙の方が実は内容に合っている、とのことですよ。


 さぁ、興味が湧いたら、今すぐ本屋に走れ!

オマケ

 この記事は先週くらいから書こうとしてたんだけど(文章がうまいこと浮かばなくて、結局うまく行かないまま書いたのがこれ。いつも通りでもある)、そしたらなぁ。昨日。こんな出会いがあったわけですよ。もう、ねぇ。興奮して余計に文章が書けないて話ですよね。いつも通りですけど。
 で、さて。せっかくなので、こっちの表紙比較も、してみましょうか。

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