事務屋稼業

2010-01-16

[][]デフレファイターここにあり―『デフレと円高の何が「悪」か』 デフレファイターここにあり―『デフレと円高の何が「悪」か』を含むブックマーク

 いやはや、痛快痛快。

 読んでいて思わずひざを打ちたくなる本というのは、めったにお目にかかれるものではない。私が去年のベスト3にあげた『雇用大崩壊』『脱貧困経済学』『日本銀行は信用できるか』はどれもそんな快著だった(ここを参照)。上念司氏の処女作である本書も、すばらしい「ひざ打ち本」だ。

デフレと円高の何が「悪」か』は、ズバリ書名のとおり、デフレと円高が経済にどんな悪影響をもたらすのかを、本格的な経済学の知識がない人でも理解できるように説明してくれる。文章は読みやすい。ユーモアも皮肉も利いている。なにより、マクロ経済というのは自然現象などではなく、政策担当者のふるまいによって改善できるんだという力強いメッセージが、あふれんばかりに伝わってくる。そう、「やればできる」のだ。本書はそんなデフレファイター上念司氏による、宣戦布告の狼煙である。

 さて、円高の害はわりとわかりやすいし、合意も得られやすいだろう。だからここでは著者の説明にしたがって、デフレの害を簡単に紹介しておこう。

 デフレというのは、中央銀行によるお金の供給が足りないために、モノよりもお金の価値が上がってしまうことだとする。すると人々はお金をだいじにして、モノを買わなくなる。「金は天下のまわりもの」というけれど、お金がまわらなければ、当然のごとく経済は停滞する。失業がふえる。だから日銀はもっとお金を刷りまくって、積極的な金融緩和をすべきだと上念氏は論じる。いわゆるリフレーションリフレ)政策のススメだ。

 経済学にすこしくわしい半可通などは、そんなのは古典的な貨幣数量説だという批判を飛ばすかもしれないが、著者はちゃんと「期待=予想」のたいせつさも説明している。つまり、デフレから脱却してマイルドインフレを達成するまで緩和をつづけることを、政府日銀が信頼できるかたちで約束し、そのとおりに実行するのがだいじというわけだ(貨幣供給量の「期待=予想」と物価水準の関係については、飯田泰之氏の『歴史が教えるマネーの理論』がわかりやすい)。

 本書がすばらしいのは、そうした教科書的な説明だけにとどまらず、デフレと円高に関するトンデモ説を逐一とりあげ、徹底的に批判をくわえているところ。物価が下がるのは消費者にはありがたいことだとか、中国からの安い輸入品がデフレの原因だとか、大量にお金を刷るとハイパーインフレになるとか、なんとなく正しそうに聞こえる俗論をかたっぱしから粉砕していくさまは痛快の極みだ。経済学的には「非常識」なこれらの見解に、著者は経済学の知見と骨太の論理、そして軽快なレトリックをもって対抗する。これらはデフレ議論をまとめたFAQとして活用できる。

 こういう言説がネットだけでなく一般書のかたちで世に流通するのは、とても意義深いことだ。なんだかんだ言っても、書籍の影響力というのはデカい。願わくは本書が多くの人々に読まれますように。

 なお、本書にもあるとおり、著者は日々twitter上で活発な議論をくりひろげている。まあ、拙ブログを巡回先に入れているような方々は先刻ご承知のことと思うけれど、念のためご紹介しておきますね。

 http://twitter.com/Smith796000

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)