事務屋稼業

2010-06-18

[][]デフレファイター・リターンズ―『「日銀貴族」が国を滅ぼす』 デフレファイター・リターンズ―『「日銀貴族」が国を滅ぼす』を含むブックマーク

デフレと円高の何が「悪」か』で鮮烈なデビューを飾ったデフレファイター上念司氏の「デフレ死ね死ね本」第二弾。当初は今年の秋の刊行を予定していたのだけれど、浜田宏一氏による特別講義を受けたことにより、夏の参院選前に世に出すことを決意したという。

 つまり、本書はまず大前提として、きわめて「政治的」な本だということだ。政治的といっても、特定政党プロパガンダだとかパンフレットだとか言いたいのではない。デフレ脱却をめざして世論にうったえかけ、政治家を動かすことを目的としているという程度の意味である。

 だから、著者がターゲットとする読者層はたぶん、常日頃経済学の書籍や論文にふれていたりネットで論争していたりするような、言うなれば経済学マニアではない。ちょっと悪趣味なまでに刺激的な書名につられて本書を手にとるような、むずかしいことはよく知らなくとも経済に関心ある市井の人々なのだろう。

 さて、上記の目的を達するために上念氏がとった戦略はこうだ。

 まず、日銀を国民の「敵」と認定する。書名にもある「日銀貴族」なるネーミング、また、白川方明総裁に「法王」という尊称(?)をたてまつっているのは、これにもとづくものだ。

 次に、仇敵日銀の因循姑息なるさまを、総裁や副総裁の発言、関連する新聞記事、VTRなどなどをつぶさに検証することにより浮かび上がらせる。第3章で紹介されている山本幸三議員と白川総裁の問答は、本書の読みどころのひとつといえる。

 そして、「やがて国債暴落ハイパーインフレ」などといった議論を「トンデモ」と断じ、ツッコミを入れる。議論の際に相手の極論を否定するのは、じつに強力な論法だろう。

 こうした戦略を、経済学マニアならざるふつうの読者に向けて着々と積み重ねた上で、著者は日銀法の改正を主張する。小生不勉強にして、日銀法改正案を条文つきで目にしたのはこれが初めてだ。内容は本書に直接あたっていただきたいのだが、この改正案は今後の議論の叩き台に使えるのではないか。

 本書には疑問がないでもない。たとえば、齊藤誠氏のいわゆる「ブラックホール理論」に対する高橋洋一氏の批判を紹介しているのだけれど、これにはTwitterにて岩本康志氏が反論をくわえている(do_moto氏のTogetter「岩本康志先生 ツイッター問答集」の2010年3月17日〜18日を参照のこと)。私は数学的な議論はまるで理解できないのだが、できればこの反論も踏まえてほしかったというのは、ないものねだりだろうか。

 ともあれ、日銀の失政はもはや経済学的な議論の問題ではなく政治的な問題だとする視点は、岩田規久男氏の『日本銀行は信用できるか』、田中秀臣氏の『デフレ不況 日本銀行の大罪』につづくもの。本書はこうした問題意識を、ときに激しく怒り、ときに皮肉な笑いをまじえながら語る。

 経済学のこまかい理論にまつわるシチめんどくさいことは、上念氏もハナから度外視。著者は議論を噛みくだいて思いきり単純化した上で、市井の読者が驚いて笑ってムムムと考えられる、楽しいエンターテインメントとして執筆している。そのスタイルを疑問視する向きもあるだろうけれども、いまはこうした本も世間には有用なのではないだろうか。

「日銀貴族」が国を滅ぼす (光文社新書)

「日銀貴族」が国を滅ぼす (光文社新書)

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