事務屋稼業

2011-03-05

[][]リフレ政策のメカニズム—『デフレと超円高』 リフレ政策のメカニズム—『デフレと超円高』を含むブックマーク

 いまや「月刊イワタ」こと岩田規久男氏の新刊。円高の要因を日米予想実質金利差の拡大にもとめ、さらに、それをもたらしているのは両国中央銀行金融緩和に対する積極性のちがいとしている。

 では、どんな金融政策が有効なのか。申すまでもなく、おなじみインフレ目標だ。

 岩田氏はインフレ目標政策によるデフレ脱却メカニズムを解説している。それはこうだ。

 まず、日銀インフレ目標の中期的(1年半程度)達成にコミットし、長期国債買いオペによりマネタリー・ベースを持続的に拡大させる。すると市場が金融政策の「レジーム転換」を織り込むため、予想インフレ率が上昇する。これを受けて予想実質金利が低下し、株価の大幅上昇が起こる。これが設備投資や住宅投資、そして消費を増加させる。

 また、予想インフレ率の上昇は、円ドルレート、実質実効為替レートの低下をうながす。円安は輸出企業の株価を上昇させるとともに、輸出を増加させ、輸入競争産業に対する需要も増加させる。

 これらの効果があいまって総需要の持続的な増加が起こり、やがてデフレ脱却となる。

 著者は本書で、リフレ政策を次のように定義している。

 リフレ政策とは、「物価を企業が非自発的失業を吸収できる水準まで戻し、以後も、非自発的失業者が出ないように、物価を安定させる政策」である。

 明示はされていないが、これは『昭和恐慌の研究』(2004)の付論で用いられている定義だ。もっとも表現は少々異なり、「企業が失業者を吸収できるような水準まで戻し、その水準で安定させる」政策となっているけれども、意味はおなじだろう(なお、出典はBarber, William J[1997]との由)。

 つまり、「インフレ目標+長期国債買いオペ」は完全雇用達成のための一手段であって、それ自体が最終目的ではない(さらに言うなら、完全雇用さえも「一里塚」ではないかと私は思っている)。ここを見失ってはならないだろう。

 さて、リフレ政策が功を奏し、上述のメカニズムどおりに経済がきれいに動くならば、たしかにデフレ脱却は「簡単」かもしれない。個人的には、そんなにうまくいくかどうか不安ではある。

 たとえば賃金に代表される価格の「上方」硬直性が、ひとつの壁になるかもしれない。また、景気循環経済構造の変動に応じた所得再分配堅牢に機能しているかどうかが、もっとも重要なのではないか。失業率が低下しても、非正規雇用がふえるだけで実質賃金水準が上昇せず、さらに適切なセーフティ・ネットも整備されないままであれば、またどこぞの国でバブルがはじけたら元の木阿弥だ。韓国にはすでにヤバい兆候がみられる(韓国のヤバさについては、abz2010氏のこのエントリが参考になる)。

 さらに、仮にリフレーションメカニズムがうまく働いたとしても、その過程では、失業者雇用されるまでの間、そして好況によって実質賃金が上昇に転じるまでの間、一番ワリを食うことになるのは失業者であり低所得者ではないか。マンデルの定理を持ち出すまでもなく、そのような層への再分配政策も必要だろう。

「再分配は景気回復の後で」とかまえていれば済む話だろうか。私にはそうは思えない。遅くとも「同時に」、否、むしろ財政政策の決定ラグを考慮すれば、「先に」手をつけるべきことのはずだ。リフレ政策が成功しようと失敗しようと、その重要性に変わりはない。

 なにやら政局もあいまって、一部では日銀法改正の機運がにわかに盛り上がりつつあるらしい。小生、「政治の季節」には決まって眠たくなるので、そのへんの世情は知らない。春眠暁を覚えず。ちがうか。

 いづれにせよ、リフレ政策がそれこそ「国民的な」支持を得られるかは、リフレーションでワリを食う層も受け入れ可能なポリシー・ミックスを説得力あるかたちで提示できるか否か、そして、それを実行できるか否かにかかっているのではないだろうか。多くの「慎重な」経済学者が言うように、所得再分配は最終的には国民の価値判断次第なのであれば、なおさらだろう。

デフレと超円高 (講談社現代新書)

デフレと超円高 (講談社現代新書)

菅原晃菅原晃 2011/03/09 08:33  岩田先生が、今回の日銀審議委員選出に際し、委員に加わることになれば、私は、政府を支持します。
180度立場を変え、菅政権支持に回ります。180%ありえない人事ですが。

JD-1976JD-1976 2011/03/09 21:51 コメントありがとうございます。
現状では難しいでしょうね。こうした人事も政局次第なのかもしれません。

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