カレーなる辛口Javaな転職日記 RSSフィード

2006年 07/27

「人月(にんげつ)問題」って何が問題なの?

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060726/244384/

いつもに増して酷い記事だ.読むに耐えん.

常駐の問題点を端に置いておくと,純粋な単位としての人月に異を唱える人は少ないのではないだろうか。

救いようがない馬鹿だ.

常駐と人月単価の問題を絡めた議論自体が初耳だぞ.人月単価の問題を真面目に調べたことがあるのだろうか?

  • 人月は基本的にコストであり,製品の価値とは関係ない.
  • 良い物を作っても手抜きをしても人月単価は変わらない.良い物を作る良心的な人ほど損をする.
  • 一人あたりの生産性は優に十倍以上の差がある.一律の値段付けは著しく不公平.
  • 技能の差に関係なく一律の対価が支払われるので,優れた技術者の流出を招く.
  • 低レベル技術者中心だと品質低下と納期遅れが発生し,結果的に高くつく.
  • それでも期間内に出荷しようとするので,一ヶ月あたり数百時間の長時間残業に繋がる.
  • そのような過酷な労働条件であるにも関わらず,単価が同じである以上は給与は上がらない.残業手当も支払われない.*1これにより人材の流出に拍車がかかる.
  • 次回からはこの「月数百時間残業があること」がベースで人月単価も決められる.人月というのは「一日8時間労働×31日」とは限らない.*2
  • その人月単価さえも,なんの根拠もないままに年々切り下げる方向に進んでいる.
  • 人と月は可換ではない.3人で6ヶ月かかる仕事が,18人で1ヶ月で終わるわけではない.*3 *4 *5
  • 技術力の低い人が時間をかけて作った屑プログラムの方が,技術力の高い人が短時間で作った芸術品よりも高い金額を請求できる逆転現象が起こる.*6

など.

人月という言葉が持っている意味だけを表面的に捉えれば,それは,「平均的な能力を持つ労働者が提供する1カ月当たりの労働量を表した単位」である。

その通り.本人が言っているとおり,表面的に捉えただけで実態は全く異なる.

そもそも開発者の技量によって数十倍の差が出る産業において,「平均的」とは一体どのレベルの平均をとればいいのだろう?最も優秀な人から「未経験者OK」の素人まで含めた平均なのか?そうすると素人の比率を高めると「人月単価」は容易に水増しできることになるな.

これは記者の正直な感想だが,“談合”でもしていない限り,健全な自由競争をしている限り,モノの価格は労働者の総労働時間対価へと収束していくのは自明である。

全然自明じゃないよ.そんなことを言ったのは,どこの馬鹿だ.

コメント欄より

これが自明ならば、特急電車の方が各駅停車よりも安くなるのが自明と言うことになります。何しろ、乗っている時間は短いのですから。

一般的に言って労働時間対価で決まるのは,全く技能が不要な,純粋な単純労働においてだけだろう.たとえバイトに対する「給与」が時給ベースでも,客に対して要求する金額は時給ベースではない.また時給自体も,バイトの技量や時間帯などに応じて変動する.

それにしても,記者というのは「(要求される技能や製品の価値に関係なく)総労働時間対価で支払われる仕事」だったのか.実にお気楽な世界で羨ましい限りだ.

労働量に関係なく価格が付く世界とは,競争が存在しない世界であり,これを“ブランド”と呼ぶ。

だからこれも全然関係ない.競争があっても労働時間に『比例して』価格が決まる方がおかしい.*7

むしろ労働量に比例した価格が要求できるのは,社会主義国家のように競争のない世界において顕著だろう.競争がある社会では「この商品にはこれだけのコストがかかってます.」と言ったところで,それに見合う価値が商品になければ誰も買ってくれない.競争に生き残るにはコストを削減するか付加価値を高めるか二つに一つ.そこに人月単価の出る幕はない.

IT産業は,他の産業同様,コモディティ化が進んだ世界であり,ブランドの影響は少ないと記者は思う。

いいや.本来は技術力の差が非常に大きく出る産業だ.SIerが差別化できないのは,差別化するための経営戦略が経営者にないことと,現場軽視で技術力に差がなくなっただけだろう.

*1:最近は裁量労働と称して,残業手当未払いを合法化するのが流行っている.

*2:「1日48時間労働」「一ヶ月って60日だっけ?」「今日は12月32日だ。」などと揶揄される.

*3:「一人の子供を産むのに妊婦一人で約10ヶ月かかります.では同じ一人の子供を産むのに妊婦10人がかりだと何ヶ月かかるでしょうか?」もちろん,これの答は1ヶ月ではない.

*4ブルックスの法則:「遅れているソフトウェアプロジェクトへの要員追加はさらに遅れる」という常識のこと.

*5:一般的に言って人数を増やすことで納期短縮を図るのは簡単ではない.10ヶ月かかるプロジェクトを半分の5ヶ月に短縮しようとすると,単純計算で必要な人数は少なくとも倍以上になる.1/10の1ヶ月に短縮するために10倍の人数を投入しても,かなり高い確率で失敗する.こういう状況では投入する人数を20倍のにしようが50倍にしようが失敗する可能性はかなり高い.そうなる理由の一つは,人数が増えることによる生産量の向上が,コミュニケーションコスト増大による一人あたりの生産性低下によって相殺されてしまうことにある.

*6http://hotwired.goo.ne.jp/original/maegawa/050118/index.html

*7:よくみると、いつの間にか「労働時間」が「労働量」にすり替えられている.「労働時間」だけならタイムレコーダーで正確に一秒単位で測れるが,より抽象的な「労働量」は明確には測る基準はない.

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