レスラー ダーレン・アロノフスキ― 

<公式(英語)>
 けっきょくのところ、ごまかしなしでそのまま撮れるミッキー・ロークの体の説得力につきるんじゃないだろうか。なんども出てくる、背中越しにランディ(ローク)が歩いていくさきを見せるシーンも、この肩と背中があるから絵になる。
よく言われることだけど『アンヴィル』とすごく近い世界だ。自分の栄光はすでに古くさい、過去の物だとわかっていても、帰る所はそこしかないんだ、という覚悟の世界。それに固執することがときには自分を傷つけていく世界。それでも彼らには栄光の時代がすくなくともあった。何年たっても最後までついてくるファンがちゃんといる。栄光の時代を経ることもなく、それでも帰る所がここしかないような人生を送る無数のひとびとは、再生や破滅のドラマにすらならないだろう。その香りがするのが『SRサイタマノラッパー』で、彼らは若いからまだドラマとして成立するけれど、ひやっとするようなリアルさはあっても「どことなくいい話」には決してならないような気がする。

そういえばランディが惚れるストリッパー、キャシディ役のマリサ・トメイは『その土曜日、7時58分』でもセクシーすぎる妻役を演じていた。ひとつ驚かざるをえないのはこの人1964年生まれということだ。まさに美魔女。

剣岳 点の記 木村大作

<公式>
 これはビッグスクリーンで見るべきだったんだろうね。というのもやはり主役は壮大な風景で、ドラマの部分はあまりにもコクに欠けるからだ。朴訥でありながら信念の人である主人公(浅野忠信)チームと、イヤミなライバルのようでいて最後には讃えあう同志になるアルピニスト仲村トオル)チームとの関係、地元のガイド(香川照之)への息子の反発と尊敬、若手隊員(松田龍平)の突っ走りと失敗、そして軍上層部の不理解。付け足しとして主人公と妻(宮崎あおい)との時代性を超えたラブラブ感。正直脚本が平板だといいたくなる。お話を語る以上まで彫り込んでいないイメージだ。しかしオチが実にいい。修験の力。あとは、そうまでして山に登る隊員たちの使命が「測量する」「地図を作る」だというところは何だか実にいい。

ナチュラルボーンキラーズ  オリバー・ストーン

<IMDB>
そうだ、これも見返していたんだった。ストレートに撮影した映像とTV風やら取材映像風やら荒れた映像やらがめまぐるしく切り替わる語り口は、94年当時は「今風」そのものだっただろう。過去の血なまぐさい因縁を初期ソープオペラ風に(視聴者の笑い声風のSEが入るタイプ)見せる悪趣味さなんか、オリバー・ストーンはしてやったりだったんじゃないか。犯罪者がトリックスターになる描写は当時の「現代の病」的受け止めだったのかもしれないけれど、これはTVの初期から言われていたことだ。
マロリー(ジュリエット・ルイス)が、バーでナンパしてきた男をボコボコにし、素手で殆ど殺してしまう最初のシーンはさすがにインパクトがあって見返す前でもそこだけ覚えていた。いつの間にそんなに強くなったのかの説明はなかったような気がするが。ミッキー役のウディ・ハレルソンは10数年後には新しい殺人鬼ヒーローにあえなく殺される役になる。