モテキ


<公式>
あまり予備知識なしでDVD見はじめたら2日で3回も見てしまった。もちろんそれは長(ry、いやそれはおいといて。
すこし前の『オーケストラ』がクライマックスシーンのための映画だと書いたけれど、『モテキ』は最初のシーンがベストじゃないかという気がする。ホントの最初じゃなくて、幸世(森山未來)がみゆき(長澤まさみ)とであう夜から朝までのシーンのこと。時間をかけて、あまりにスムースな「女のリード」をていねいに、ゆっくりと描いている。みゆきは何度も「水路」をつくって、そこに幸世が自然に流れこんでいけばいいようにする。もちろん童貞キャラの幸世はちがう方に流れたりつっかえたりするのだが・・・水を小道具に使っていきなりキスにもっていくなんともいやらしくて素敵なシーン、これも長い1カットで長澤まさみにじっくりやらせている。彼女も、セクシーになりすぎないしゃべり方や視線の配り方など、余裕ありありの女の子のふんいきをうまく出している。 原作の久保ミツロウがけっこう密なコンテを描いたふうで、このあたりの味わいは女性目線なのか、女好きっぽい監督の経験なのか・・・。
とにかくこの一夜はじつはそうとうファンタジックな展開なんだけど、絵面的には日常そのものだから、観客もすごく近い位置でかさねあわせることができる。待合せ→飲み→雑魚寝→・・・、で朝のカフェ、まで省略なしで見せられて「幸世が一夜で完璧に惚れる」のも骨の髄まで納得せざるをえない。そこからシームレスに『500日のサマー』パクリのミュージカルシーン(withパフューム)に流れ込む。シーンとしての魅力はここまでがクライマックスといってもいいんじゃないかというくらい。そこからしばらくはお祭り的に幸世の多幸感あふれる日々がえがかれる。

ストーリーは後半から重くなる。最初に笑いでつかんでおいてクライマックス前でシリアスに「テーマ」的なものを伝えるのはコメディーの定石だけど、この映画でも後半にシリアスな、すこし居心地の悪いシーンがふえてくるし、そのせいなのかエピソードも既視感がぬぐえなくなる。たとえば恋する相手の友達にほれられて、気まずくなって・・・とか、ヘタレキャラが急に男気みせて格上のライバルにぶち切れてみせて、とか、あたしだって辛いのよ、とか、恋でボロボロになっても朝まで頑張って仕事で一皮むけて・・・とかね。あとラストもそうか。仕事をほっぽり出して恋の衝動に突っ走る幸世を先輩たちが「・・・頑張れよ、バカ☆」的に見送るあの感じ。ちょっとお話のまとまり方向に行ってしまい、使い勝手のいいエピソードのパーツを組み合わせた感じがするのだ。ただしある大事なシーンででてくる「私、成長できない・・・」はなかなかいいセリフ。
4人のヒロインのうち、恋の相手のみゆきはもちろん、その友達で幸世を好きになる、ちょっと可哀想すぎる扱いのるみ子(麻生久美子)のエピソードはていねいに描写される。まぁ彼女のラスト部分はヘンなうえに微妙に古くさいけどね。だいたいこのエピソードは、主人公幸世への観客の共感度をこれ以上さげるとまずいので付け加えられてるような、ちょっとご都合っぽいもの。そんなメイン二人にくらべると愛(仲里依紗)との一夜は唐突すぎるし、素子(真木よう子)はふつうに先輩上司なだけで、この二人はかなり類型的、一面的なキャラクターしか与えられていない。二人の役は幸世に対するこの世界の恩寵が女性の形をとっているだけだしな。愛は少年を受入れる母親ロール、素子は世間のきびしさを体現して少年を社会に適合させる父親ロール。

ぼくは最近の日本のポップな映画をあまり見てない。ここにでてくるポップカルチャーの記号だってだいぶ受信できていないはずだ。だからこの映画がその世界ど真ん中の人に共感されてるかは分からない。けれど、ぼくもこの映画のポップさは単純にたのしんだ。ディティールを知らなくても楽しませるつくりではあるし。今の音楽とミックスしてなぜか80年代ポップスがちりばめられて出演者たちの気持ちを代弁する。そのヘンも間口を広げてる部分なんだろう。
たしかに軽いしファンタジックだし類型的なとこは類型的だ。「こんなお気楽で仕事できてりゃいいさ」的つっこみもあるだろう。東京という街もきれい目きれい目に撮られている。木々の緑は実際よりすこし鮮やかになっているように見えるし、木漏れ日や窓からの光があふれるみたいに全体を明るめに撮る。夜景だってバブル時代のような派手なキラキラはないけれど魅力的な町に見える。若者たちの生きる街を描いても『SRサイタマノラッパー』や『サウダージ』のひりひりするようなリアリティがある風景じゃないかもしれない。でもぼくたちが今小津安二郎の『秋日和』を見て「60年代頭の東京もけっこうシックでいいね」というのと同じように(当時は「きれいごとだけ」という批判だって当然あった)、今の東京を知らない時代や地域の人がこの映画を見れば「2011年の東京、いいね。みんな楽しそうじゃん」と思えるんじゃないか。タイトルバックの女神輿はばかばかしいけど笑えてくるし、ラストの野外フェスのシーンは本当に可愛くてきれいだ。こんな東京を、2011年という特別な年の、きれい目でポップで楽しげな東京の一面を映像に残したっていいんじゃないかと思った。そういう意味でこの映画、肯定したくなった。もちろん長(ry