スパニッシュ・アパートメント


<予告編>
ストーリー:公務員をめざすパリの大学生、ザヴィヴィエはパパの友人の助言でスペインに留学することにする。恋人との別離や不安で飛行機でもくすんくすんいって、そのあと偶然知りあったフランス人夫婦の世話になっていた彼は、やがてシェアハウスを見つける。そこはスペイン・イタリア・ドイツ・イギリス・デンマークの若者たちが共同で暮らすアパートだった。ベルギーの女子大生も合流して急に楽しくなるバルセロナの日々。けれどパリに残した彼女との距離は少しずつ.....
予備知識もなく、ふと見た。この映画、ひとことでいえば、「すてきなヨーロッパへのあこがれ、再確認!」系にはいるのかもしれん(日本人からして)。EUの交換留学プログラム、エラスムス計画によってヨーロッパ各国の学生が集まってナチュラルな感じで交流する。舞台のバルセロナ、おなじみのサグラダ・ファミリアグエル公園がわかりやすく魅力的に映される。学生たちはお金がないからシェアして住むのだが、タコ部屋的な相部屋なんかじゃなく、最低6個は個室がありそうなアパートだ。彼らはときどきもめるけど、同居人を決めるときもきちんと合意して、深刻なトラブルは一度も起こさない。いいやつだらけなのだ。ヨーロッパ主要国出身どうしだから人種やお国柄のちがいも微笑ましいエピソードレベル(一度だけちょっとひやっとするシーンがある)。そして、主人公のフランス人ザヴィヴィエがぱっとしないのをのぞけば住人たちは全員ほどほど以上のルックスだ。かれをめぐる女性たちもオドレイ・トゥトゥはじめ美女ばかり。この映画の通りだったらヨーロッパの青春ってすばらしすぎるよ!

まぁこれ、そういう映画だからね。青春の美しさを歌いあげるタイプの。しかも1年という期間限定で、あまり国外にも出ていなかった風の若者が異国の生活を体験するという、何十年もたってから「やっぱりあの1年がいちばん楽しかったなぁ」と思い出すような、祝祭的な日々を取りだして描いてるわけだからね。そういう感じで、全編ほぼ幸福感に満たされた一本だ。留学経験がある人や、海外(じゃなくてもか)でルームシェア体験がある人は、あるある的に思い出しながら楽しめるところもけっこうあるんだろう。
映画のあり方として、当時のヨーロッパの学生たちの背中を押すという意図もあったのかもしれない。「こんな楽しいことが待ってるよ!君も留学プログラムを利用しよう!」.....というのも、本筋にはあまり重要じゃない「エラスムス」という言葉が、観客に印象づけられるように何度も繰り返されるのだ。もう一つ、明確なメッセージは「◯国人というステレオタイプはすてようね」というもの。全体にラブコメ風味の本作の中で、ここだけは少しシリアスに、セリフもストレートな意見表明として語られる。そしてラストは「クリエイティブな自分本来の道を行こうよ! 君の人生テイクオフ!」的にポジティブに締める。それまでクリエイティブな気配をまったく見せなかったザヴィヴィエはずっと夢見ていたライターになるべくそっちにむけて滑走路をはしりだすのだ。

まぁ、そんなこんなで、10年前のハッピーな青春映画を「こんなのあったんだー」とそこそこ楽しく見た。微エロな雰囲気も悪くない。この映画の教育的メッセージの対象になるには自分がおっさんすぎたのが残念なところ。少し似たところのある『ビフォア・サンライズ』がリアルタイムの続編・続々編が作られているように、2001年公開の本作も、2005年の『ロシアン・ドールズ』それに2014年公開の『Case téte chinois』と続編が公開されてるそうだ。ま、主人公にそんなに思い入れがわかなかったし、あえては見んがな。それにしてもフランス映画にときどきいる。この手の主人公。あきらかにあまり格好よくないんだけど、つごうよくもてたりしている。「等身大タイプ」とでもいうんだろうか。フランス人から見ると独特の魅力があるのかもしれない。