シェフ 三ツ星フードトラック始めました


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ストーリー: カール(ジョン・ファヴロー)はLAの人気レストランのやとわれシェフ。腕はいいし部下の人望もあつい。人気フードライターが来店することになって、カールはオリジナル新作をぶつけようと燃える。でもオーナーはゆるさない。いつもどおりの店の看板料理をだされたライターは「シェフよ、あんたはいまじゃ冒険しない退屈なヤツだ」式の酷評をかます。ネットのバトルの結果、あれこれあってクビになり、あげく暴言動画がネットで大評判になってしまったカールは、別れた元妻のはからいでフードトラックで再起することにする。それまでろくにふれあえなかった息子も夏休みを利用して店の立ち上げに参加。小学生の息子のネットスキルが予想外の効果を発揮して……..

フードトラック。ゲリラ豪雨の街トウキョウにも多いですよね。ぼくが利用するのは、保守的なビジネス街なせいか、おしゃれっぽいフードトラックじゃない(というか移動弁当屋ともあまり区別してない)けど、なんとなく傾向は見える。おかたいピープルの腹を満たすメニューは、肉かアジアンフードだ。値段のせいかチキンかポークがおおい、なんかのソースやスパイスでキャラ付けされた肉が豪快に米の上に横たわる。それにいろんな名がつく。ハワイアン風だったりシカゴ風だったり。あるいは地域性がよくわからない、とにかくスパイシーな汁が米にアソートされる一品。インドなのかタイなのかとにかく大くくりに〈カレー〉と認識されるアレだ。
この映画でフードトラックのシェフが選んだのも、アメリカにおけるエスニックフード、キューバ風サンドウィッチだ。もちろん十分な肉が炭水化物にはさまれる。そしてトラックが旅するうちに、たちよった色々な街、マイアミからスタートしてニューオーリンズ、テキサスからLAと、その土地ならではのローカルフードを取り入れてメニューが充実していく。映画のフードコンサルタントは韓国系の人気シェフ、ロイ・チョイ。彼自身が人気シェフからフードトラックに転身した、この映画のネタ元の人だ。ロイ・チョイは「エスニックでキャラ立て」のセオリーに忠実に、彼のフードトラックをコリアン×メキシカンで打ち出した。映画では、カールのレストラン時代の新作料理も韓国料理のエッセンスが取り込まれている。

この映画は移民もふくめたアメリカのご当地グルメに光をあてていく話だ。保守的なフレンチをつくらされて摩耗したカールは「地に足がついた」シンプルな料理で客に愛されていく。そのへんはすごく分かりやすい。フードトラック転身のきっかけになった元妻はマイアミ出身のキューバ系で、お父さんはサルサのミュージシャンだ。カールについてきて、彼をささえてくれる料理人もプエルトリコ系。キューバが選ばれている理由はあるんだろう。全般にリベラルで(文化的多様性をストレートにもちあげる)スローフード指向のおはなしだ。
お話はトムトム拍子のなかでもそうとうBPMが高い展開で、主人公はいちおうどん底におちてもしんみり悩むヒマもなく、元妻に引っぱられて息子と3人でフロリダに行くと、フードトラックが用意されていて、あとは右肩上がり。元妻は「じゃあなんで別れたンだ!?」といいたくなるくらい味方だし親しげだし、はなしは単純そのものだ。そこはべつにいいし、気持ちよく楽しめた。ぼくが乗り切れなかったのは、主人公の失敗にも成功にも決め手になっている「ネットの世界」のあつかい具合。カールはおっさんキャラとしてあまりネットを使いこなしていない。息子におしえられたツイッターで私信のつもりで公開ツイートするわ、リアルで暴れたり暴言吐いたりした動画がネットで拡散するわ、と思うとフードトラックは、ネットスキル高めの小学生息子がSNSを使いこなして魔法のように客を呼び込むわ……..
いや、いいんスよ。モデルのロイ・チョイ自身がSNSを上手に使って成功したそうだし、じっさいそういうもんなんだろう。でもこの描写、『バードマン』とおなじ。中高年の父が子供におそわって、自分でもよくわからないうちにネットの人気者になる展開なんてそっくりだ。アメリカでさ、大人向けのこういう映画みる人って、そんなに情弱系の人たちなの? 子供のセリフを借りて「ネットの拡散力ってすごいんだよ」っていまさら説明されても、それって、なんだか2015年感が……..。
あとつくづく思うのが、<男が仕事で挫折→別れた妻との子供とのふれあい→「オレいい父親じゃなかった」「でもヤツは好きでいてくれている」→背中をおされて再起へ→子供との関係にも光が>展開、アメリカ映画で最近の定式すぎないか。これ日本じゃあまりなくない? 『はじまりのうた』『バードマン』『マネーボール』『サンキューフォースモーキング』『レスラー』、ちょっと思い出すだけでもいくつもある。おっさんの挫折と再生モノだとほとんど定番じゃないかこれ。 子供がいる年代の男性観客からすれば、そりゃうっとくるとこあるでしょう。軽く鼻の奥もつーんとするでしょう。したさ。でもなんか、またこの手使ってきたか….的に感じるところもあるわけです。