夏休み。

ピュアフル・アンソロジー 夏休み。 (ピュアフル文庫)

ピュアフル・アンソロジー 夏休み。 (ピュアフル文庫)

児童文学の書き手を中心とした作家陣による文庫書き下ろしアンソロジー
正調夏休み小説と言えるのが冒頭に収録された梨屋アリエの「夏の階段」だけというのは皆少しばかりひねりすぎなのではなかろうかと思ったが、それだけにこの「夏の階段」の爽やかさが印象に残った。どこにも続いていない階段が醸し出すイメージもなかなかのもの。これとは逆に、爽やかさとは無縁のところで真正面から「女」の話を書き上げてみせた前川麻子「川に飛び込む」は貫録勝ちという感じ。ズルいと思わないでもないが、このアンソロジーのベストに挙げざるを得ない。同じようなテーマで「もう森へなんか行かない」を書き上げた石井睦美はその点不利で、ほとんどの要素が児童文学の枠内で処理されているため、遠慮無く「女」を書き上げた前川作品のインパクトには劣ってしまう(しかし、石井作品も繊細な佳作と言えるだろう)。また、予想外に良かったのが石崎洋司の「Flagile――こわれもの」で、小道具の使い方が際立っていた。
あまりにも自由に書きたい小説を書きすぎている川島誠の「一人称単数」には苦笑させられた。ワーストはあさのあつこの「幻想夏」で、特筆すべき点が何も無いのに戸惑った。
微妙に印象の薄いアンソロジーだったが、たまにはこういうものも良いでしょう。