Boy's Surface

Boy’s Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

Boy’s Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

要するに壮大な冗談だと考えて宜しいか。
芥川賞候補作家(SF的には小松左京賞最終候補作家)の二冊目の著書。この作家の作品ははじめて読む。芥川賞関連の作家だから円城塔を読んでみようと思うのは自分くらいではなかろうかと思いながら、でも読む。読んでもわけがわからないと聞いたので、じゃあこの本から読んでみるかと手に取ったのだが(下手に読み解けそうな作品は面倒で嫌いなのだ)、たしかにこれは、まるでわけがわからない。本当にわけがわからないが、作者も読者の理解をそれほど期待してはいないようだから平気でばんばん読み進めてゆくと*1、時折ものすごく下世話だったり、いきなりユーモラスだったり、とびきりキュートだったりする瞬間が現れて、わけがわからないなりになんだかとても楽しくなってくる。素敵だ。
表題作「Boy’s Surface」はとても情けない初恋の物語。ただ、むしろこれは文中にある「誰かと、誰かを想像することを一致させる極限」の話だろうと思う。林檎がキュートですね。「Goldberg Invariant」問題は三本の円柱。がんばれキャサリン256。三編目「Your Heads Only」あたりまで読み進めると書かれていることが無闇矢鱈に可笑しくなってきて、くすくす笑いながら頁を捲った。笑えるだけの話ではないが、きわめてユニークな暴走を見せる作品である。「(前略)長く苦しいの部分は、何が何だかわけがわからずひたすら可笑しいに置き換えておくのが適切だと思う。そもそも何を計算と見なし、何をAやらBやらCやら呼ぶのかは、僕らの勝手に決まっており、それをあいつみたいなものにどうこう言われる筋合いはない」。そして、全体像は何となく判ったような気がするが、だからと言って何が描かれているのかはぜんぜん判らない「Gernsback Intersection」は、それでもやっぱり不思議と楽しい。もしかすると集中いちばんの娯楽編かも知れない。215ページ以降のシークエンスに、少しだけ米澤穂信の作品を連想した。「そんなことを言われてもさっぱり意味がわからないという向きには、ためしにもう少し待っておいてみてもらいたい。これからもっとわからなくなっていくことを、それはもう抜群に請け合ってみせる。僕らは別に諦めていないのだが、ここで諦めてもらっても文句は言わない」。
壮大な冗談というのが言い過ぎでも、バカ話には違いない。でもとてもキュートな作品群なのではないかという気がした。理解を最初からほぼ放棄すればするする読めるので、自分のような骨の髄まで文系のSF門外漢も、試しに齧ってみたら如何だろうか。

*1:文章が下手なわけではないから、書かれている意味がわからなくても意外に読める。