『いつも心に剣を』 著:十文字青

『いつも心に剣を』を読んでみて、ANGEL+DIVEシリーズが面白くなってきたのはやっぱり十文字青の文章が好きになってきたから、というのが大きいな、と改めて思った。十文字青の文章には独特のリズムがあるし、癖がある。特に、キャラクターが何か考えたり行動したりする場面では、そのキャラクターが考えていることや目にしたことを順番に書き連ねていくような文章を書くので、そのリズムはときどき小説というよりも詩にも見えたりする。その描写があまりにも密度が高いから、慣れないと読んでいてまあ、疲れる(実際ANGEL+DIVEの一巻は読みづらかった)。
ただ、この書き方でしか出せない臨場感というのは確かにあって、ANGEL+DIVEの二巻ではキャラクターの内面を見事に書き上げているの読んで、これはすごいなと思った。今回読んだ『いつも心に剣を』でもその文体はいかんなく発揮されていて、主人公のレーレ、ヒロインのユユは、彼の文章によって「生きた」キャラクターとなっている。それでいてANGEL+DIVEより読みやすかったので素直にとても面白い作品だった。
先々月の末にに発売されたSFマガジン五月臨時増刊号、『STRANGE FICTION』の巻末に載っている111人の作家レビューの中に、十文字青の名前もあって、レビュアーの前島賢は、十文字青のキャラクターはファンタジー世界を舞台としながらも、今を生きる若者の率直な姿のように見え、彼らの若い派遣労働者を思わせる生の声をひたむきに描写していくと述べているのだけれど、その「生」っぽさは彼のそのリズムによって生み出されているものなのだな、と思った。
薔薇のマリアは昔読んで文章のよさがわからなかったので続きを読まなかったのだけれど、今度読み直してみてもいいかもしれないなー。

いつも心に剣を 1 (MF文庫J し 5-1)

いつも心に剣を 1 (MF文庫J し 5-1)