外国と私(2)1978 サンフランシスコ 苦みが走ったエビ

 シーフード大好きの友人と私にとってサンフランシスコ湾に面したフィッシャーマンズ・ワーフは何はさておいても足を運びたい場所であった。何しろ目の前の海から採れ採れの魚介がストレートにレストランのキッチンに運ばれて客に供されるのだから新鮮さにおいてこれに勝るものはない。

 で、年明けを彼の地で迎えた私たちツアー一行は、観光バスに揺られて期待のフィッシャーマンズ・ワーフに到着したのだが、友人と私は幟がはためくレストランの庇の下で、褐色に日焼けしたおじさんがシーフードを茹でている立ち食い屋台を目指してダッシュした。

 オデン鍋を平たくしたような丸くて大きな鍋の底にはエビとカニがゴロゴロしており、私たちは使い捨ての深皿に供してもらい、プラスチックのフォークでそそくさとエビを口に入れたところで「うっ」と手が止まってしまった。頭の中で描いてきたものと違っている。それも大きく違っている。

 新鮮だから身が柔らかく、甘みを伴ったジューシーな旨みが口中に広がるはずであった。しかるに、エビもカニも煮え過ぎて身が硬く、旨みが全く感じられないばかりか、何故か苦味が口中に広がっていく。苦み走った海老様なら絵になるが、苦味が走ったエビでは洒落にもならない。

 どうやら彼の地では、エビのワタを抜くという下拵え、材料の持つ旨みを最大限引き出す火加減や、舌触りも味の内といった食に対する感覚が私たちとは大きく異なっているようだった。


    


 私と友人はその翌年もサンフランシスコを訪れたが、フィッシャーマンズ・ワーフに足を運ぶ事はなかった。