矯めつ眇めつ映画プログラム(14)「コーヒー&シガレッツ」

 ジム・ジャームッシュ監督の黒白映画「コーヒー&シガレッツ」は、全編を通して、コーヒーを間にした二人か三人が、紫煙を上げながら会話するだけの11話から成るオムニバス映画だが、しつこく絡んだり、噛みあわない会話が延々と続き、何でこうなっちゃうの、と、思わせる場面展開が、トム・ウェイッ、ビル・マーレーケイト・ブランシェットや、コーエン監督の「ファーゴ」で強烈な印象を残したスティーブ・ブシェミなど、錚々たる役者の演技と相まって、見ているだけでやたら可笑しい。


 この映画で私が一番好きなのは、老体二人が登場して、「俺達は、もう世の中から用がないって事なのか」などとつぶやきながら、紙コップ入りの安コーヒーを「シャンペン」に見立てて乾杯しながら、Janet Bakerが歌うマーラーの「I Have Lost Track of The World」を背景にそれぞれの人生を思い起こしながら余韻に浸る11話である。


 濃紺に近い黒のモノクロ画面のせいか、ご老体の作業着姿の表情も渋くて、まるで、江戸時代の引退した紺屋の老職人のような、粋で、それでいて、枯れた雰囲気を漂わせ、観る者をしみじみとさせてくれる。


 この場面では、細く一筋流れる煙といい、会話の間といい、背景といい、削ぎ落として、削ぎ落として、トコトン削ぎ落としていくと、そこに美しさがあるという事を教えてくれる。ほんと、こういう映画こそ、私たちの国の人に撮ってほしかったのに、ジム・ジャームッシュに先を越されたと思った(写真はプログラムから)。