やるぞ!

仕事中あまりにも暇だったので小説を書こう、と思った。小説を書こうと思ったのはこの一年半で三回目であり、毎回一ヶ月、30枚以内で挫折しているが、それはほとんど小説を読んでいなかったせいであり、今年に入ってからここ数年分に匹敵するくらい小説を読んだので少し進歩したのではないか。再チャレンジ。左手から鉄球が出るようになった主人公が友人とともに、学園紛争を戦う、という壮大なハードSFを書こうと思った。これはかなり未来の話で、そこではロボット番組を真剣に信じ込んだ人たちが二手に分かれていて、後壮大な政府の陰謀などもあり大変なのである。しかし、家に帰ってからネットで調べるとSF新人賞は350枚〜600枚であり、とりあえず応募する、という目標までも達せられない事が明白であるため断念する。100枚くらい書いてみたい…。
あと、小説を書こう、と思ってエディタを開いたのに無意識に*を書き込んでしまい、もう駄目だ…と思った。はてなを使っていない方に解説すると、*はタイトルを示す記号で、日記を書く場合一番最初に使います。
書いたものは日記に載せないときがすまない貧乏性なのでここに置いておきます。
ノックをしても返事が無いので試しにドアノブを回すと簡単にドアは開き、ドアノブはそのままドアから外れて木の床に落下、暗い廊下に鈍い音を響かせた。部屋の照明は全て切られていたが、壁に沿ってでたらめに並べられたディスプレイが様々な世界、時代の輝かしい戦闘記録を映し出しているから中の様子はぼんやりと見て取れる。時代遅れのCRTモニタからは太いケーブル、細いケーブルが飛び出し部屋中の小さな金属製の箱を相互に結び付けていた。部屋に充満しているであろう電磁波で気分が悪くなりそうだ。私に将来子供が出来るとしたらきっと可愛い女の子に違いない。足の踏み場が無いのでしばらく躊躇したが、かまうものかと思い比較的安定しているように見える雑誌の上に足を踏み入れた。それまで息を潜めて立ち尽くしていた体長10cm程のロボット達が一斉にビームライフル、超電磁銃を掲げて私に狙いをつける。家賃三万を切るオンボロアパート、既に住人が一人しか居ないこのアパートの、唯一の住人である矢上の所有する私的なおもちゃの軍隊だ。
非常に良く統制の取れた軍隊ではあるが、彼等の取り得る敵対的なアクションは、銃口を赤いLEDで光らせ、甲高い発射音を響かせるのがせいぜいで、大の大人である私にとっては何ら恐るに足らぬものであった。もっとも、狂信的なまでのガチャフォースマニアである矢上の手によってなにか危険な改造が施されていたらその限りではないのだけれど。
その矢上は部屋の奥でなかば機械に埋もれかけている。前にきたときはそこにソファーが置いてあったから、その上で寝ているのであろう。差し入れであるピザを掲げて降伏の意を表しながらソファーににじり寄り、軽く頬をはたいて覚醒させると、矢上は軽くうめいて、「おはよう。コーラを取ってくれないか…」と言った。
矢上は中学入学以来の親友で、10年以上の付き合いになる。大学は二年遅れの後輩に当たる。その二年に何かあったらしく、いまは医者に処方される薬が無いと外出もままならず、普段は部屋でゲームをやり、テレビを見て過ごしている。放っておくと死んでしまう、と彼の両親に頼まれたのもあって、時々様子を見に来るのがここ何年かの習慣になっていた。矢上はクスリをコーラで流し込むとしばらくがつがつとピザを食っていたが、主にクスリの影響で、人心地がついたらしく、ぼんやりとディスプレイに目を向けたまま、話し出した。
「左手から鉄球が出るようになったんだって?」
そのとおり、今回はこの相談をするためにもここにきたのだ。
全てが根本的に駄目、という気がします。そう言っておけば恥ずかしくない、というようなことですが…。やるぞ! 明日からちゃんと考えて、やる。津田はそう決めると、外壁工事に備えて洗濯物を回収するためにそっと立ち上がった。ベランダの床に落ちたまま半分溶けかけた服もいい加減捨てないと。