「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」

午後、上野の国立西洋美術館で「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」を観る。僕は大学生のとき、何かのきっかけで、たぶんスペインを含むヨーロッパ旅行の感想を友人と話すなかで彼から堀田善衛の一連の著作が面白いと教えられて、堀田による評伝『ゴヤ』を読んでみた。それ以来、この画家に興味を持っている。ゴヤ展が開催されると知って、同作(四六判上製箱入り全4巻)を読み直そうと思ったのだが、引っ越しのときに処分してしまったらしい。「日本の古本屋」で朝日文庫版を購入して、今日までに全部読み直そうと思っていたのだが、結局、第1巻の4割ぐらいしか読めなかった(笑)。それでも残りをところどころ拾い読みすると、当時の思い出が甦ったりして、なかなか感慨深い。
「〜展」という場合、当該の作者の作品だけでなく、同時代のさまざまな作者の作品がいっしょに展示されることが多いが、今回の「ゴヤ 光と影」では、展示されている作品すべてがゴヤの手によるもの。もっとも油絵だけなく、デッサンやエッチングも多かったが。この手の展示会の多くがそうであるように、おおむね画家の人生を追うかたちで、120点ほどの作品を観ることができた。
いくつか印象的なものがあった。たとえば、「マハとマントで顔を覆う男たち」は、男女2人連れの足下に、某氏をかぶった男が花を投げた、とキャプション(?)で説明されていたのだが、絵には花らしきものが見あたらない。それはともかく、主に描かれている5人のうち、女性のみが明るい表情をし、男4人はしかめっつらをしている。それがなんとなく面白くて印象に残り、絵はがきを買ったのだが、なんとその絵は、堀田善衛の『ゴヤ』の第1巻「スペイン・光と影」(朝日文庫版)となっている作品であった。美術館を出た後で気づいた。
もう1枚絵はがきを買った作品は「レオカディア・ソリーリャ(?)」という肖像画。長年ゴヤの妻の肖像画とされていたが、近年の研究で、妻の死後、ゴヤといっしょになった女性を描いたものとわかってきたものらしい。物憂げな表情に惹かれた。この絵は、堀田の『ゴヤ』では、妻の肖像と推測されている。
今回の展示の目玉は「着衣のマハ」。この作品について語る必要はないだろう。
いわゆる「黒い絵」は1枚もなかったと思う。この時期の「我が子を食らうサトゥルヌス」は、ある本の表紙に使われていて、トラウマになっているのだが…。なお堀田の『ゴヤ』第3巻「巨人の影」(朝日文庫版)の表紙には、長年ゴヤの代表作とされていた「巨人」という作品が使われているのだが、これは2009年、ゴヤではなく助手の作品であることが明らかになっている……のだが、後出しジャンケンはやめよう。
ゴヤ 光と影」というタイトルは、堀田の『ゴヤ』第1巻の副題「スペイン・光と影」を彷彿とさせる。企画者は堀田を意識したのかもしれない。秀逸。『ゴヤ』の残りを読むのも楽しみ。

ゴヤ 1 スペイン・光と影 (集英社文庫)

ゴヤ 1 スペイン・光と影 (集英社文庫)