Hatena::ブログ(Diary)

みずもり亭日誌2.0

2012-05-11 「体外受精児の健康コストを考えるとき」

ごぶさたしています。こちらでは……。

今夜、JCcastの収録があるのですが、そこで話題提供しようと思っているニュース記事の全訳を、以下にまとめておきます(ツイッターでは紹介済み)。

体外受精児では先天障害が3割増

Birth defects a third more common in IVF babies

msn.com, ロイター 2012年4月20日付


 何十もの調査のレビューによれば、ある種の不妊治療を通じて懐胎した新生児は、技術による手助けなしで懐胎した新生児よりも、3割ほど先天障害が多い。

 この知見は『不妊と妊娠』誌で公表されたのだが、研究者らは、なぜ不妊治療が高リスクの先天障害に結びつくのか、この技術が原因なのかどうかさえ、断定しなかった。

 体外受精では母親の卵子が身体の外で受精され、子宮に移植される。30年以上、母親志望者たちに使われてきた。またたくさんの研究がこれらの技術の潜在的な危険性を調べてきた。

 南京医科大学のZhibin Huらは、体外受精を使って懐胎した子どもにおける先天障害の数を、通常の妊娠で生まれた子どもを比較した調査結果46本を収集した。

 体外受精またはICSI〔細胞質内精子注入法〕――1つの精子を直接卵子に注入すること――で生まれた子ども12万4000人にとって、先天障害を負うリスクは、ほかの子どもよりも37%高いということを彼らは見出した。

「体外受精とICSIのどちらか、もしくは両方を通じて生まれた子どもたちは、先天障害のリスクが著しく高い。そして体外受精とICSIのどちらか、もしくは両方を通じて生まれた子どもたちの間でのリスクの差異はない」と研究チームは書いている。

 疾病管理センターによれば、四肢や臓器の奇形といった先天障害は、アメリカでは、新生児100人につき約3件ほど発生するという。

 37%という増加は、100人につき4件へと、その比率を引き上げることにある。

「(この報告は)ほとんどの者がいずれ受け入れることを確認したものです。生殖補助技術には先天障害の増加リスクが確かにありますよ」とマギル大学教授のウィリアム・バゲットはいう。バケットはこのレビューにかかわっていない。

 先天障害リスクの増加は、あらゆる機能や身体システムで明らかである。性器、骨格、消化器系、神経系などだ、と著者らは報告する。

 なぜほとんどの調査が、先天障害が体外受精で懐胎した子どもによくみられるのか、という疑問は、答えは出ていないままである。

 人々が懐胎することにトラブルを抱え、不妊治療を求めることと同じ理由が、先天障害のある子どもを持つリスクの増加に影響している可能性はある。

 胚を押しやり、取り扱う体外受精の技術そのもの、もしくは不妊治療にともなう医薬品がかかわっている可能性もある。

 3番目の仮説は、そうした先天障害は不妊治療を通じて懐胎した新生児に、より一般的に現れるように見えるだけだ、というものである。というのは、そうした新生児は、そのほかの新生児よりもより緊密にモニターされているからだ。

「体外受精の結果、生まれた子どもをもつカップルは、より緊密にフォローアップされます。それゆえわずかな異常が見つかってしまうのかもしれません。さもなければ見つからなかったものが」。

 体外受精を使う親たちのために先天障害のリスクを減らそうとする努力に関していえば、「そのリスクを減らす方法を見つけるには、まだ早すぎます。というのは、そのリスクの原因となる理由がほとんど未知だからです」とHuはメールでいった。(了)

http://www.msnbc.msn.com/id/47115066/ns/health-childrens_health/#.T6x7xL_8Hwh

この記事の元になった論文は以下です。


Birth defects in children conceived by in vitro fertilization and intracytoplasmic sperm injection: a meta-analysis

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0015028212002877


この研究自体は、中国の研究者によるメタアナリシス(メタ分析)で、先天障害が増える理由は彼らもわからない、としています。彼らはリスクを減らす方法もわからない、といっていますが、僕としてはそのコメントには疑問があります。言葉通りには受け取らないほうがいいでしょう(後述)。

その一方で、この研究について、著名な生命倫理学者アーサー・カプランがさっそくコメントを発表しました(しかしカプラン先生、マメですねえ)。

体外受精児の健康コストを考えるとき、と生命倫理学者

Time to think of health costs to IVF babies, bioethicist says

msn.com 2012年4月20日付


 高く称賛される学術雑誌『妊娠と不妊』に公表されたばかりの記事によって、「試験管ベビー」技術の利用を一時停止することを考えざるを得ないだろう。きわめて一般的な不妊治療二種類、ペトリ皿のなかで胚をつくり、それを子宮に移す体外受精と、1つの精子を直接卵子に注入するICSI〔卵細胞質内精子注入法〕を通じて生まれた子ども12万4000人のレビューによって、先天傷害を持つ子どもが生まれるリスクが大きく高まることが明らかになった。そのリスクは従来の方法で生まれた子どもよりも37%高い。これは大きな数字だ。

 このメッセージは、不妊治療を使うことを考えている人や、必要であれば体外受精を、後の人生で使うまで、子どもを持つことを控えようと思っている人の耳に入らない危険がある。

 くだらないテレビ番組に出演し続け、子どもを持つために不妊治療をしたことを公言するセレブたちは、体外受精なんて楽勝だという。ナディア・スールマン〔体外受精で八つ子を出産したことで有名になった女性〕のような超多胎妊娠のストーリーは、そうした道徳的に疑わしい妊娠にともなう障害や早死にについての、ぞっとする事実についてめったに言及しない。現金取引でこうした生殖サービスを提供するクリニックの多くが、テクノロジーによって生まれた子どもたちが直面するリスクを強調してはいない。

 私は、子どもをつくるということに関しては「アンチ・テクノロジー」ではない。結婚したカップルが不妊によって生殖を妨げられるとき、技術的な補助によって生命を創出することに反対するカソリック教会や社会的保守は、私には残酷で「アンチ生命」として写る。そして子づくりがクリニックで行われるとき、小づくりが製造業に変わることを懸念している人々は、セックスで多くの子どもがつくられる状況について、とても楽観的なように思われる。

 そうはいっても、いま議論になっている大きなリスク・ファクターは、医学的な環境で子どもをつくることについてどのように考えるのか、重要な要素であろう。この研究の著者らは、なぜリスクがこんなに大きいのかわからない、と述べている。この疑問が問われるのにあまりに長い時間がかかった。不妊治療で生まれた子どもの長期的なモニタリングをルーチン化すること、また、リスクに直面することを選択できない子どもたちの健康問題の原因についてさらなる調査を行うことが必要であろう。

 不妊治療は多くの者に喜びを与えた。しかしその対価は高い。あまりに高いので、こうした治療を使うことについて考えるにあたり、重要な要素を確かめなければならないほどなのである。(了)

http://vitals.msnbc.msn.com/_news/2012/04/20/11310417-time-to-think-of-health-costs-to-ivf-babies-bioethicist-says?lite

体外受精、とくに顕微授精で生まれた子どもに先天障害が多いようだ、ということは僕の記憶では10年ぐらい前からちらほらと研究が出ていたはずです。この問題の背景については、拙著『バイオ化する社会』(青土社)第1章をご参照ください。

バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体

バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体

それにしても、いちど始まって普及すると、問題が発覚してもなかなかやめられない、っていう依存症的な性質は、原発にも体外受精にも共通しているかもしれません。体外受精の場合も、今回の知見でモラトリアムがなされるとは思えません。とすると、おそらく今度取り組まれるのは「技術的解決」でしょう。それが具体的に何かというのは、いわずもがな、です。

なお僕は、幹細胞にしても体外受精にしても個々の技術を批判しているというより、問題が予測されているにもかかわらずそれらを受容し、実際に問題が発覚してもなおそれらをやめられない社会の在り方そのものを批判しているのです。いわずもがなのことですが、念のため。