恐るべき後輩

京大の果樹研に恐ろしくデキるヤツがいる。僕が落とされた京大の特任助教職に、彼は翌年にあっさりと採用され、そして今年から5年の任期で働き始めたと思ってたら、何故かこの夏からパーマネントになっている。確か学生の間に書いた論文数も8報とかアホみたいなことになってたっけ。そんな彼のことを、僕は「研究バカ」と呼んでいる。それこそ、心の底から親しみを込めて、そう呼んでいるわけだが。

で、その研究バカにもさきがけの申請書を読んでもらったところ…

内藤さんが音楽好きなので、なんかちょっと外れますが。
僕は今はオケでクラリネットを吹いていますが、高校生の時までは本気で指揮者を職として目指していました。
で、1年間ほどイタリアのシエナに留学していたのですが、そこで先生から、


「良い曲(の作り方)とは?」


をよく聞かされました。


「綺麗で一切の曇りのない和声進行がずっと続いてみろ、君は飽きて眠ってしまうよ。何のために移音や刺繍音、経過音や減7の連続配置があるんだと思っているんだ?」


モーツアルトラヴェルみたいな天才が音楽的なミスをしないかというとそうではない。教科書から見たらミスだらけだ、だがそこが美しく、一層の魅力を放つ」


だそうですよ。
実際、僕も多くのアレンジや作曲をしてきましたが、一種の「狂気」を曲のほんの一部分に含んだものの方が、皆さんには受けが良いです。
なんなんでしょうね、、ニコニコ動画の再生数の多いやつの中毒性と言うか(笑)


で、ようやく本題で、内藤さんの提案書は、綺麗過ぎて、あくが無いと思ってしまったのです。完璧ですが、なぜかインパクトに欠けます。

言ってくれる!それも、なんつー喩え話だ。
ってゆーかそれ以前に、お前いったいナニモノだっ!?指揮者とか聞いたことないし!!そんなヤツがどうして今、柿の研究なんかやってんだよっ!?

でもこういうことを言ってくれる人間の言葉にこそ、耳を傾けねばっ!というわけでソッコーで電話をする。

「キサマ、エラソーなことをっ!(笑)」
「すんません(笑)、でも、カクカクシカジカ・・・」
「むう、それに対して言いたいことはあるけど、そんなん理屈で言うてもしゃーないからなぁ。審査員がパッと見ただけで強い印象を与えられるような提案書にならんことには…で、少なくともオマエはそこまでのパンチ力を感じなかったっちゅーことやな?」
「ええ。読めば読むほど面白さが分かってくるんですけど、それじゃ遅いんじゃないですか」
「その通りやな。・・・チッ、また書き直しかいな、こんちくしょうが(笑)」
「すんません(笑)」
「ほんまじゃボケ! けど、今に見てろよ、バカヤロウ!いつまでもお前にオレの先を行かせはせんからな!(笑)」
「何言ってんですか!内藤さんの方が全然先行ってるじゃないですか!(笑)」
「アホか、フザけんな!アッと言う間に終身雇用の身分になったクセしやがって、何を言うかキサマ!!・・・しかしまあ礼を言うわ。相当時間かけて読んでくれたんやろ」
「ハイ、内藤さんのだと思って本気で読みました」
「おー、それはマジでありがたい」
「今度僕が何か書くときは読んでくださいね」
「おー、任せとけ。そんときはたっっっっっぷりと、今回のお礼をしてやるからな!!(笑)」
「ええーっ、カンベンして下さいよ!(笑)」

で、この電話のあと風呂に入ったら、また出てくるんだよなー、いい構成案が。コイツに読んでもらわなかったら、多分もう完成した気分になってた。ふー、アブなかったぜ。

助かったぞ、後輩。