JFAエリートプログラムは大丈夫か?

 旧聞に属する事柄で申し訳ない。しかし、どうしても書いておきたい。「何を今さら」と思われる方も多いかも知れない。しかし、読んでしまった以上、この記事について何かを書かないわけにはいかなくなった。


 昨年に行われた2005MBC国際ユーストーナメントという大会で、日本のU-13代表が優勝を果たしたことは、多くの方がご存知だろう。報道があった当時、僕も「そりゃスゴい」と思った記憶がある。この大会に参加したのは16チームで、2002年日韓W杯に出場したチームからフランス、ブラジル、ポルトガル、ドイツ、イングランドなど錚々たる国々が参加している。


 その中で日本はというと、グループリーグでメキシコに3-1、イングランドに5-1、ブラジルに5-1と圧勝でトップ通過。準々決勝韓国B戦(韓国はA・Bの2チームを出場させている)で4−0、準決勝フランス戦で5−0、そして決勝の南アフリカ戦を2−0で勝っている。6試合を全勝し、得点24に対し失点わずか3である。圧倒的な強さと言っていい。この結果だけを見れば、「日本の将来はバラ色ではないか」と錯覚してしまうだろう。実際、報道を見たときの僕の感想も、「そりゃすごい。将来楽しみだな」というものだった。


 しかし、その考えは浅かった。中学サッカー小僧 (2006秋冬版) (白夜ムック (264))に掲載されている島田信幸(元U-13日本ユース選抜監督)のインタビュー(取材・文/鈴木智之氏)を読んでしまったからだ。この記事を読んで以降、僕は「エリートプログラム」なるものが、非常に不安になってきた。


まずは、この引用箇所をお読み頂きたい。

――スコアを見ると、大差で勝っています。日本の力がかなり上だったと認識して良いのでしょうか?


島田「いえ、得点についてはたまたま差がついたんです。とくに、決勝戦(2対0)ではかなり苦戦しました。南アフリカの選手はテクニックに優れていて、ゲームの中で状況に応じたプレー、状況判断を伴ったプレーができるレベルの高いチームでした。日本の選手は状況判断の部分では劣っていましたね。どちらかというと、フィジカルで押し込んで勝った印象があります。


――意外ですね。いままでの日本、特にA代表は外国勢にフィジカルで負けていました。MBCでは逆だったんですね。


島田「そうですね。ただ、日本があえて大きい選手を集めたのではなくて、彼らはエリートプログラムで各地から推薦されてきた選手たちでした。それなので、どうしても体の大きい選手が目立ったしまったんですよね。海外のチームは、フィジカルはこの後ついてくるので、それを度外視して、テクニックを持った選手を集めたんでしょうね」


 島田元監督は、「エリートプログラムで各地から推薦されてきた選手たち」は「体の大きい選手が目立った」と発言している。


 当時の選手のリストについてはWEBアーカイブを調べても拾ってこれなかったので、詳しく知りたい方は書籍を直接購入の上でご確認頂きたい(本分の最後に、直接Amazon商品ページに飛ぶリンクがあります)。


 さて、選手のリストを見ると、早生まれ含めても全員が1992年出身。当時12歳〜13歳の、小学校を卒業したばかりの選手たちである。まず目を惹くのは、170センチ台の選手が多いこと。GK白可部亮(173センチ)、GK打桐健太(175センチ)、DF内田達也(172センチ)、DF中村樹(174センチ)、MF田村諒(171センチ)、MF武内大(171センチ)、FW永井あとむ(176センチ)、FW杉本健勇(175センチ)。16名中、実に9名が170センチ台の選手である。


 中学1年生で170センチというのは、かなりの大柄だ。僕自身は身長が184センチあるが、中学時代は中1で170センチまで伸び、整列するときは、1番後ろか2番目だった。中1の時点でそれぐらいある子がその後も順調に伸びるかは分からないが、伸びる子は180台後半から190台前半まで届くのではないか。今の子たちは大型化が進んでいるとはいえ、彼らが年代的に見ても大柄な選手であることは間違いないだろう。そういう選手たちが「状況判断の部分ではかなり劣って」おり、「フィジカルで押し込んで勝った」のだというのだ。


 傍証が少なすぎて、判断を下すにはおかしいかもしれない。それでも、このことだけでもエリートプログラムに漠とした不安を抱かざるをえない。いったい、エリートプログラムで選抜された子供たちは、どういう基準で選ばれているのだろう?


 断っておくが、僕はこの育成年代を一度も見たことがないし、取材した経験もない。何かを断言するほどの材料は持っていない。育成がうまくいくかどうか、それは数年後を見てみる以外にない。だが、この記事を読むと、エリートプログラムの根幹に関わる部分に、多少なりとも不安を覚えてしまうのは事実だ。


 島田信幸元監督は、さらに続ける。

――逆に、ここをもう少し身につけさせたかったという部分は?


「やはり状況判断です。判断の伴ったプレーができていない。行き当たりばったり。それこそ、ミスがあってもスピードでカバーしたところがありました。そこをきちんと状況判断できていれば……」


 このコメントを読み、それから西部健司氏のこのコラムを読んでしまうと、不安は倍増してくる。

http://wsp.sponichi.co.jp/column/archives/2006/09/post_566.html
最近は日本でも若い選手は背が高くなった。トレセンの選抜リストを眺めても、中学生で190センチなんて選手がけっこういる(ほとんどはGKだが)。しかし、この先も平均身長で日本人が欧米人を上回ることはないだろう。こちらも伸びているが、向こうも止まっているわけではないからだ。「大型ストライカー」はこれからも期待されるのだろうが、日本人の「大型」はアジア以外の外国勢には大して武器にならない。大きさを問うなら、やはりサイズよりも才能の方である。
西部謙司スポーツライター


 ちなみに、上記のU-13代表の一つ上、U-15代表は4月に「フランコ・ガッリーニ国際大会」を行っている。そのメンバーに「飛び級」で参加しているのは、ガンバ大阪ジュニアユース所属の宇佐美貴史ただ1人。そして、彼の身長は2005年4月時点で163センチ(現在は伸びて、172センチ)であった。


 また、JFAアカデミー選抜チームで臨んだ「U-14ユースフェスティバル中国」では、日本は中国に0-3、香港に1-4、北朝鮮に0-1、韓国に0-5とボコボコにされている。同上の島田監督によると、「中国や韓国など、フィジカルが強い相手にプレッシャーをかけられると、ボールを止めて蹴る技術がまったく通用しなかったんです」とのことである。


 ひょっとしたら、知識不足でとんでもなく的外れなことを書いているのかもしれない。それでも言う。僕は、「大柄な選手ばかり推薦されて集まってくる」というエリートプログラムに、そしてその背後にある育成に対する根本思想に、大きな不安を感じている。西部健司氏の記事にあるように、「大きさを問うならサイズよりも才能」だと強く思うからだ。


 いったい、JFAは日本サッカーをどこに進めていこうとしているんだろう。余談だが、イビチャ・オシム監督は『Number』誌662号におけるインタビュー(これは、別項にて改めて考察したい)にて「背の高い選手が有利だというサッカーは、すでに終わっている」という発言をしている。グラスルーツの考え方と、トップの考え方は本当に一貫しているのか、はなはだ不安だ。「エリートの定義」以前に、「優れたサッカー選手」とは何か、もう一度考え直してみても良いのではないだろうか。

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中学サッカー小僧 (2006秋冬版) (白夜ムック (264))

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