03-02ー2010
■[work][news] 冷静な判決に胸をなでおろす

判決は、脳内出血が発生した時刻を、実香さんが頭痛を訴えた06年8月8日午前0時ごろと推認。その上で、「設備の整った医療機関にできるだけ迅速に搬送することを優先させた判断は不適切とは言えない」と産科医の過失を否定した。
転送時期と実香さんの死との関係については「仮に(初期段階で)脳の異常を診断し、(設備の整った)奈良県立医大に搬送したとしても、手術開始は午前3時半ごろと考えられ、救命の可能性は極めて低かった」と述べ、請求を全面的に退けた。
一方、判決要旨の朗読後、大島裁判長は産科救急医療の現状に触れ、「重症患者でも現場で搬送先を探しているケースが多く、『救急医療』とは名ばかりだ。人の命を守ることは国や地方自治体に課された責務で、産科など救急医療の再生を強く期待したい」と述べた。
大阪地裁の裁判長の冷静な判断に、関係者は胸を撫で下ろしていることと思います。午前0時に発生した妊婦の脳内出血を助けられない・・・悲劇とは思いますが、それを当直医や病院の責任にされるような世の中になったら、救急医療に携わる医療関係者はいなくなるでしょう。
それに、遺族の夫は裁判長の付言を「判決に納得できない部分はあるが、『実香の命が少しでも役に立つように』と裁判所に言ってもらえてよかった」と評価しているようです。医療界はとっくの昔に問題点を把握してるんですけど、突然の悲劇に巻き込まれた一般の方は、こういう一言で救われるんですねぇ。福島裁判もこうあれば貴重な産婦人科医のキャリアが潰されずにすんだのに、残念です。
■[work][news] チリも積もれば

先週、遺伝子マーカーは心血管疾患リスク予測の精度を向上させないという発表を、米Brigham and Women’s Hospitalの研究者がJAMA誌2010年2月17日号で報告しました。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?id=20069014
NIHが行った全ゲノム解析の結果から、心臓血管病のリスク(高血圧や高コレステロール血症など)に関係する遺伝変異を取りだし、それらの変異の組み合わせによって、心臓血管病の発症リスクを予測できるか、1万9313人の白人女性を対象に解析したところ、残念ながら有意な結果を得られなかったのです。
具体的には、101個の心血管疾患に関する突然変異(SNPs)の組み合わせを行っても、今まで臨床で使われている伝統的な危険因子の一つである若年性の心筋梗塞の家族歴を上回る結果を得られなかったのです。つまり、手間暇かけて、遺伝子解析を行っても得られる利益は少ないという結論です。
しかし、皆さん、これでがっかりしてはいけません。これはGWAS(全ゲノム連鎖不平衡解析)で得られた疾患関連遺伝子マーカーでは、実は良くある典型的な結果なのです。第一世代のこうした研究で見つかる疾患関連遺伝子は、集団中に5%以上存在しなくては検出されない限界があります。(中略)
個の医療の遺伝疫学的研究の知恵袋であるスタージェン情報解析研究所の鎌谷所長はこの研究成果を下記のように判断しています。()内は私が老婆心ながら付け加えました。
「これは妥当な結論だと思います。心血管疾患に関与する個々の遺伝子(変異)の効果サイズ(疾患を引き起こすリスク)が小さく、これまで知られた遺伝子では家族歴の情報よりはるかに小さい効果しかないのだと思います。若年性心筋梗塞発症の家族歴はかなり強い要因だとすると、他にまだ見つかっていない小さな効果サイズの遺伝子(変異)が多く残っているか、頻度がより低く効果サイズの大きな遺伝的多様性が多くありGWASでは見つからない可能性があります。あるいは、若年性心筋梗塞発症の家族歴と言う要因に、生活習慣などの要因が含まれている可能性もあります。発症予測にはあまり寄与しないものの、個々の要因の集団への影響(populationattributable risk)については書かれていませんか?一般に1%の寄与しかない要因でも、そのリスクの除去により疾患が25%低下すると言うことが言えます。そのように治療のターゲットになりうるということは言えると思います。 また、心血管疾患以外では個々の遺伝子の効果サイズが大きい例もあるので、このような例では発症予測に寄与する可能性があると思います。 例えばPGxに関連する遺伝子がそうでしょう」
疾患関連遺伝変異を持っているからといって、すぐに疾患になると悲観的になることはありません。現段階では臨床上有用な発症予測法を我々は入手できていないのです。家族歴以上に強力な遺伝変異の組み合わせには、今のところ私たちはたどり着いていないのです。
心臓血管病のリスクに関係する遺伝変異の組み合わせによる発症リスクの予測は、有意な結果を得られず(個の医療メールマガジン 2010/02/24号)
疾患リスク比の小さい遺伝子変異(SNP)がいくら積もっても、実際の「心疾患家系」を説明するには足りなかったという論文がJAMAに発表されていました。集団内に5%とか、寄与割合1%とか、専門家には非常に興味深い解説だと思います。でもね、専門家以外の人たちにしてみたら「じゃあ、その”家族歴”って、結局どこから出てくるのさ?体質は遺伝すんのに、変な数字をこねくりまわすな」って感想が出てくると思います。っつーか、オレですらそう思ったもん・・・ GWASでSNPだけを突き詰める手法の限界が見えて、これから個の医療はどういう方針をとっていくんでしょうか?
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