円環少女 ⑧ 裏切りの天秤 / 長谷敏司

円環少女 (8)裏切りの天秤 (角川スニーカー文庫)

作者自身もあとがきで述べていますが、一体このシリーズはどこまで行くというのでしょうか。
これまで続けてきた高いテンションは落ちることなく、さらに奥へ奥へと真っ暗な道を突き進んでいる感のある第8巻。
《賢者の石》を手に入れるため日本に現れた聖騎士将軍《至高の人》アンゼロッタ・ユーディナ。そして昼間の日本で一大勢力による侵攻を始める機械化聖騎士団。《協会》との繋がりを失い、専任係官の数も限られた状況の中で、それでも闘わなければならない《公館》とそのトップである京香。《公館》を追われながらも繋いできた、きずなとメイゼルとの温かな幻は砕け、それでも目も前の彼女を守るために闘う仁。神聖騎士団を破門され、厳しい生活のなかに身をおいても、自らが信じた道を貫き通すエレオノール。刻印魔導師として、一人の女として、仁と向かい合い自らの道を掴もうとするメイゼル。明かされた真実と、裏切りと、自分のずるさを抱えて、再演体系の魔術師が「普通」であろうとすることの意味を突きつけられるきずな。
それぞれの想いは重なり、交差し、そしてぶつかる。誰が正しい訳でもなく、誰もが簡単に幸せになどなれない。この欺瞞に満ちた不条理な《地獄》の中で、自分の信じたものを、自分の選んだ道を、そして自らのエゴをかけて闘い、叫ぶ人々の姿は、凄惨さを感じさせると同時に、彼ら彼女らはこの世界で、どうしようもなく生きているんだということを見せつけてくれます。その迫力にただただ圧倒されました。
そんな中で個人的に今回の見所だったのはメイゼルの姿。自分が望む者のために、自分に対しても他人に対しても厳しくあるその姿はまさしく誇り高き魔女。相変わらず極端にサディスティックな言動、すべてのリスクを顧みず刻印魔導師の運命すらも受け止めて、そして自らの道を貫く姿にはゾクっとくるだけのオーラがありました。この1か0しか選べないような危うさは魅力。そしてここにおいて、メイゼルはもう「子供」ではなくなったのだなと思います。
そんなメイゼルがきずなにぶつけた言葉は、個人的にはきずなの弱さやずるさを正面からねじ伏せるもので溜飲が下がる思いでしたが、きずなの立場からすれば全てを受け止めろという方が無理な話な訳で、強くなんてなれるわけないと思えるのがまた。
さて、ここで彼ら彼女らがとった行動が、一体この先どんな物語へと繋がっていくのか、続編がいよいよ楽しみです。