円環少女 10 運命の螺旋 / 長谷敏司

円環世界の過去、そしてメイゼルの過去がついに語られる第10巻。
メイゼルのような子供が何故刻印魔導師という大罪を課されたのか。メイゼルについて語られる際に必ず名前の挙がる母イリーズ・アリューシャとはどのような人物だったのか。かつて円環世界に何が起こり現最高指導者《九位》の意図はどこにあるのか。メイゼルというキャラクターについてブラックボックスとなっていた過去が、メイゼル本人の口から語られた時、彼女がどれだけの覚悟を持って《地獄》にやってきたのかに打ちのめされました。
純粋な魔法の可能性を追い求め、一人で生きる強さを備えもった、イリーズという人間。誰よりも魔法使いであり、誰よりも強かったが故に、《神》を殺そうとした彼女。そして引き起こされた円環世界のイリーズ戦争と、その代償。
全てが破壊された世界で、イリーズの娘として生まれたメイゼルが、超高位魔導師である母を見ながら箱入り娘として育ったたった11歳の臆病な彼女が、ただ一人イリーズの罪を背負い、世界中から向けられた憎しみを前に裁きの場で見せた、恐怖に竦む体に鞭を打ち、熱狂の中で全ての憎悪を自分に向けて、それを自分を昂ぶらせる為の燃料にして、さらに群衆の憎悪を煽る姿。
強烈なサディストであり同時にマゾヒストである彼女のキャラクターと、その苛烈な性格と覚悟と誇りが何処から来たのかを見せつけられて、強さとか変態とかそういう次元じゃない、メイゼルというキャラクターの壮絶さを見た思いがしました。
これを知ってしまうと、極端なキャラクターに思えたメイゼルの言動や行動に納得ができて、もう守るべき子供としてのメイゼルではなく、仁と共に立ち、仁と共に闘う姿こそが彼女であると思わざるをえないというか、年齢とかもはや超越した何かであると思わさせられる感じです。
そんなメイゼルの物語がありつつ、強烈な個性を放つキャラクターたちが、それぞれの思惑と想いを胸に、《地獄》で生きる物語としてもテンションは最高潮のまま。毎回これ以上どうなるのと思わせて、次を読めばスピードが落ちないどころか加速していくというところは、本当にこのシリーズの凄いところだと思います。
そんな訳で今回は《九位》に対抗するために《連合》との協力関係を模索する《公館》と警察に対して、《連合》のトップである《導師》アリーセの来日と会議の開催。再演魔術師であることから逃れられないきずな。《鬼火衆》とともに自らの道を歩み出す仁。そしてワイズマンがしかけた一生一度の大ペテンと盛りだくさん。
核兵器」というカードが切られて動き出す、人間と魔法使いを巻き込んだ世界情勢の変化はめまぐるしく、そこで動く人々の想いが十分に描かれているからこそ重たく、またその流れに飲まれる人々の姿も強く印象に残るのだと思います。
そして今回はやはりきずなに訪れた転機と再演魔術が恐れられる理由が印象的。根本の部分で絶対的な力を持つだけでなく、今回示唆された魔法世界を束ねる上位概念が出てきたときに再演体系の魔法が大きな意味を持ってくるような気がして、きずながこれからどうなっていくか目が離せない感じです。
それから、ワイズマンの魂胆も要注意な感じ。仁のもとに泡から育てたという「舞花」を連れてくるという布石がどういう意味を持つのか、この先楽しみになってきました。
そんな感じで、盛り上がりすぎるほどに盛り上がってきていて、続きがとても楽しみ。あとはもう、ここまで規模が大きくなって、複雑に絡まりながら濃縮されたこの物語を、作者がきっちりと導いてくれると信じて待つばかりです。