2010-06-11
故渡辺好明・東京芸大教授のテキストが見つかりました。
金谷善介氏の絵に寄せて
私が金谷善介氏の絵に出会ったのは、旧金谷レース工業事務所に接続して建てられた旧金谷家本宅の居間、座敷の奥に続く二階建ての蔵を見せていただいた時のことである。ほとんど空になった蔵に一枚だけ残されていたのが、この画集の表紙に載せた油絵であった。ほの暗い蔵の中に、コブシの花の白が浮かぶ。絵の色調自体もやや薄暗く、夕刻の情景を描いたものであろうか。裏書きには平成6年春「この年もコブシの咲きて春ひらく」と記されていた。サインが表にないことから未完成のまま残されたものと思われ、平成5年まで務めた群馬大学工業會理事長を健康の理由で辞されていることからも、少なくとも現在に残る彼の最後の作品である。やはり母校群馬大学のキャンパスを描いたものと思われる。
私は現在まで残っている金谷氏の作品を見せていただき、この画集にすべて掲載するとともに何点かを選び、旧金谷レース工業事務所および旧金谷家1階に展示することにした。
金谷善介氏が独学で絵を始められたのは、昭和44年ごろと云う。確かに「鶏頭」を描いた2点の絵が残されている。しかし氏が独自の画風を確立されたのは、亡き母の遺影を見ながら長期間かかって昭和49年に完成されたという「母の像」によるところが大きいと思われる。故人の表情を愛情を込めて丁寧に追いながらも、色数を限るなかでデリケートな諧調を実現している。全部で12体を描かれたという「人形シリーズ」(確認できたのは5枚のみ)でも、「母の像」の制作前は、様々なスタイルが試されていたものが、後にはより統一した画風によって描かれている。
工場経営の傍ら、もっと多くの作品が描かれたのであろうが多くが失われたため、今では限られた数の作品しか見ることが出来ない。しかし氏の絵の良さが最も顕著に現れているのは、群馬大のキャンパスなど中心に描かれた風景画かもしれない。適度な形態の単純化と大きな色面構成、ぴったりとした絵具のつきが見られ、画面の統一感、全体感を獲得している。色感の良さは、長年染織や織物に携わってきた経験に裏打ちされたものに違いない。
氏が家族とともに長年暮らしたこの家に、今は亡き金谷善介氏ご自身によって描かれた作品を設えてみる。多くが市外から訪れる作家達によって行われる「桐生再演」に於いて、この場所で生み出された氏の作品は、何を訴え、どのように感じ観られるだろうか。
平成21年9月23日
渡辺好明(東京芸術大学美術学部 教授)
2009-12-20
故渡辺好明東京芸大教授 桐生再演15 展示のお知らせ
先日逝去された渡辺好明先生の旧金谷レース工業(現ベーカリーレンガ)での展示が当分の間設置されることになりました。つきましては、ご観覧くださいますようよろしくお願いいたします。7:30-18:00(火曜定休)





