まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム

ストーリー
偉大なる魔女によって生み出された、意識を持つ魔法の銃、ミスター・マグナム。
災厄によって相棒アリスを失った彼は、不思議な運命により過去の世界で意識を取り戻す。
少女時代のかつての相棒と出逢うミスターだったが、こちらのアリスはとんでもないおてんばアホ娘で……。



第19回電撃小説大賞<大賞>受賞作品。
過去の世界へとさかのぼった魔法の銃が、悲しい未来を変えるため、相棒たる少女・アリスと西部の街を奔走する物語です。
あらすじからはどんな話なのかよく分からなかったのですが、つまりは西部劇ですね。
開拓時代のアメリカを彷彿とさせる舞台でギャングたちと繰り広げられるクラシックなガンアクションは、西部劇をよく知らない私の心にも熱い風穴を開けてくれました。


語り部は喋る銃、ミスター・マグナム。彼の一人称でお話は進んでゆきます。
初めのうちは、なかなかの読みにくさを感じました。過去の話と現在の話が入り乱れているし、特に説明もなく専門用語が飛び交っているし。
特に前者については、今から振り返れば結構重要なエピソードが描かれていたのですが、読んでいるときにはその重要性に気付けなくて、後からページをめくり直すこともしばしばでした。逆に、後からでもそれに気付けるということは、上手い構成となっていると言えるのかもしれませんけれど。
専門用語に関してはすぐに慣れました。そして一旦慣れてみると、ミスターやアリスといったキャラたちの言い回しが、いちいちクールなことに気付かされます。これがまた、いかにも西部のガンマンという感じの言い回しなんですよね。
なんとも発音しにくいルビの振られた専門用語も、考えてみれば西部劇世界を構成する大切な要素で、それに慣れたときには、すでに作品の世界の中にどっぷりと浸かっていました。
西部劇に関しての知識がない読者でも、なんとなく西部劇が好きになった気になれてしまうあたり、思わず「上手い」と唸らされてしまいますね。


ミスターを筆頭とする登場人物(?)たちも魅力に溢れていました。
アリスは、思い込みが激しくて話をよく聞かない猪突猛進なイノシシ娘ですが、いつも元気いっぱいな彼女の姿はまさに主人公という感じで、見ているだけで笑顔になってしまいます。ハラハラさせられることも多いけれど、戦いの中で見せる才能の片鱗が格好良いですね。
最初は小うるさい子だという印象でしたが、なぜでしょうか。話が進むに従ってどんどん可愛く見えてきてしまうのは。
喜怒哀楽、全ての感情に素直でまっしぐらだからかもしれません。特に彼女が泣く場面は最高でした。変態ではないですよ。なんていうかな、本能に訴えるほっとけなさがあるんですよね。ミスターもこの辺にほだされてしまったのかな。
とても世界など救えそうにない凸凹コンビでしたが、いくつかの戦いを経て、貴重な仲間も得て、最終的にはきちんと「相棒」になれたアリスとミスター。アリスの成長物語としても、同時にミスターの成長物語としても楽しめる、一本軸の通ったストーリーだったと思います。


ずいぶんと綺麗な終わりでしたが、どうやら続巻も出てくれそうな様子。
ロッキーや師匠、バンプといった仲間たちの活躍ももっとたくさん見たいので、そのあたりも期待しつつ、楽しみに待ちたいと思います。
恋愛方面……は、まあ、あんまりなさそうですが、アリスやロッキーなら、もしかしたら?


イラストは蒲焼鰻さん。アニメタッチのイラストですが、思ったよりも雰囲気が出ていて良かったと思います。
特にモノクロページは構図や影の使い方などが印象的でしたね。


なるほど、これが噂に上っていた“衝撃の経歴”か……。