大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(2)

それにしても、どうして大恐慌當時、聯銀は資金の供給を絞つてしまつたのだらう。ジャーナリストの池上彰は株暴落に先立つ聯銀の行動について次のやうに解説する。

株価が上がって景気が過熱してくるものですから、インフレを心配するんですね。中央銀行というのはどこでもインフレを一番心配します。インフレになってしまってはいけない。通貨の価値を維持しなければいけないというので、金利を引き上げます。(略)これが結果的に、1929年の株価の大暴落を引き起こすことになります。(『14歳からの世界恐慌入門。』マガジンハウス、2009年、23頁)

聯銀はインフレが心配で金融を引き締め、株暴落を招いてしまつたといふ。また、銀行破綻が相次いだ時期の聯銀の政策についても池上氏はかう述べる。

ここでまたFRBが失敗をします。世の中に出回っているお金を吸収してしまったのです。/アメリカにヨーロッパから資金が流れ込み、アメリカ国内にお金が増えすぎると、インフレになる恐れが出てきますね。FRBのような中央銀行は、インフレ退治が重要な任務ですから、インフレにならないような行動をとります。そのために、世の中のお金の量を減らそうとしたのです。(同36頁)

やはり聯銀がインフレ退治に熱心なあまり、金融を緩和すべきタイミングで判斷を誤り、引き締めてしまつたといふ指摘だ。

フリードマンの見解から導かれる大恐慌の教訓を言ひ直せばかうなるだらう。中央銀行といふものはとかくインフレを恐れる。だから本來なら金融緩和が求められる場面でも、インフレを必要以上に警戒し、十分な緩和に踏み切れない。それどころか正反對の引き締めに動く場合すらある。かつて米聯銀もさうした判斷ミスを犯し、大恐慌を招いた。中央銀行はそのやうなミスを犯してはならないし、政府や國民も嚴しく監視しなければならない――。日本のエコノミスト、ジャーナリストの多くもこの一般的見解を疑はず、議論を組み立ててゐる。

だが大恐慌に至る時期を振り返ると、一般的見解とは相容れない事實が明らかになる。米聯銀がインフレを極度に恐れてゐたとすると、どうしても説明のつかないことがある。(續く)

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