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ラディカルな経済学(旧館) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-02-03

「政府の資産」は誰の資産か――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(1)

別冊宝島『図解でわかる! 日本が破綻しない10の根拠』(宝島社)を買つて來た。表紙に「日本は強い!」「これを読んで日本に自信を持とう!」「日本は必ず復活する!」と力強い文句が竝んでゐる。もし私の性格がもつと素直なら、これだけで將來への不安が吹き飛び元氣になれさうだ。

序章は長谷川慶太郎、高橋洋一兩氏へのインタビュー。長谷川インタビューの大見出しが「日本の新潮流を築くポイントは『小さな政府』『自由化』『減税』」で、おおこれはいいぞと思つたら、いきなり隣のページに「世界の大インフラ整備を官民一体で獲得せよ」とあり、ずつこけた。經濟を民間に任せるのが「小さな政府」のはずなのに、どうして「官民一体」なんて話になるのだ。

高橋氏の見出しには「正しい経済コントロールで巨大な債務残高も消せる!」「日本復活には、お札を刷り、不要資産を売却せよ」などとある。高橋氏のデフレ惡玉論は以前批判したことがあるので、今囘は繰り返さない。それより、この本の目玉である第1章「破綻は絶対起こらない! 根拠10」を見ておかう。ここには高橋氏の主張も盛り込まれてゐるし、「日本は大丈夫」論のをかしさが見事なまでに集約されてゐるからだ。

一言斷つておくと、私は「日本破綻論の背景には、増税をもくろむ財務省の思惑がある」といふ高橋氏らの指摘を否定しない。財務省のさうした思惑は事實だらうし、私も増税には反對だ。しかしだからといつて、日本の財政が破綻しないといふことにはならないし、日本經濟の將來について誤つた樂觀論を吹聽してよいといふことにもならない。

それでは「根拠10」に取りかからう。説明の都合上、項目の順序を入れ替へたり、複數をまとめたりする。

【01】実質金利の高い通貨が通貨高になる

デフレの日本は物價下落を加味した實質金利が高いから海外投資家が圓を買ひ、圓高になつてゐるぢやないか、破綻する國の通貨が高くなるわけがない、と筆者らは言ひたいらしい。しかし圓高と日本の財政問題は別の話だ。そもそも外國爲替相場は相對的な評價にすぎないから、圓、ドル、ユーロなどの主要通貨が同時に賣られることはまづない。ドルやユーロが財政面であまりにもヤバい状態なので、それに比べれば日本はましだと思つた投資家が圓を買つてゐるが、圓がヤバくないわけではない。

それが一番よくわかるのは、金の圓建て價格だ。足元で金はやや値下がりしてゐるものの、過去5年で2倍近くに急騰してゐる(チャート參照)。言ひ換へれば、金で見た圓の値打ちがほぼ半分になつたといふことだ。

先日スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本國債を格下げし、圓が賣られたことも、市場が日本の財政破綻の可能性を氣にしてゐる證左だ。米歐の財政問題にあらためてスポットライトがあたれば、圓はまた買はれるかもしれない。しかしだからといつて、日本の財政が大丈夫だといふわけでは全然ない。日米歐は破綻への道を拔きつ拔かれつ競ひ合つてゐるにすぎない。

【02】日本政府には借金も多いが、保有している資産も莫大である

【04】負債残高はみせかけ 実際の債務額がポイント

政府の資産とはそもそも誰のものなのか。もちろん國民のものだ。であるならば、それを政府の借金返濟に充てるといふことは、國民の財産を政府が都合よく處分するといふことだ。それによつて財政破綻は避けられるかもしれない。しかしそれで喜ぶ政治家・官僚以外の一般國民がゐるとしたら、よほどおめでたい人か、借金を使つた政府の事業で大きく潤ひ、多少の財産沒收は氣にならない人か、そのどちらかだらう。

このやうに言ふと、次のやうに反論する人があるかもしれない。「政府の借金は日本人全體の借金だ。それを返濟できるのなら、日本人全體にとつてよいことではないか」。その人には次のやうに尋ねよう。

あなたがあるマンションの住民だとする。その住民の一人が管理人と結託し、マンションの修繕積立金をひそかにFX取引に充てたところ、大損を出して積立金が吹つ飛んだばかりでなく、住民組合名義で多額の借金まで抱へてしまつた。このとき、大損を出した住民と管理人があなたを含む他の住民に向かひ、借金の返濟に協力するやう要請したら、あなたは喜んで協力するだらうか。「マンションの借金は住民全體の借金だ。それを返濟できるのなら、住民全體にとつてよいことではないか」と言はれて、納得するだらうか。

言ふまでもない。たとへあなたがその住民の隣人で、FXでたまたま儲かつたときにそれとは知らず一杯おごつてもらつてゐたとしても、首を縱には振らないだらう。同じマンションに住んでゐるからといつて、他人がこしらへた借金の返濟に協力しなければならない道理はない。であれば、同じ日本に住んでゐるからといつて、政治家や官僚、それに親しい一部の民間人たちが潤ふためにこしらへた借金の返濟に協力するいはれはない。そんな理不盡を認めてはならない。

さらにかう食ひ下がる人がゐるかもしれない。「政府の借金はすべて民主主義の手續きを經て國民が認めたものだ。だから國民には借金返濟の義務がある」。それにはかう答へよう。第一に、國民のすべてが借金に同意したわけではない。借金をつくつた與黨に反對票を投じた人もゐれば、そもそも選舉のときに生まれてゐなかつた若者もゐる。少なくとも彼らが借金返濟に應じる義理はない。第二に、高橋洋一氏もよく指摘するやうに、大半の政治家や官僚は國民の目を欺いて自分の利益を得ることばかり考へてゐる。國の膨大な借金はそのひとつの結果だ。だとすれば、詐欺の被害者と同じく、騙された國民が借金の返濟に協力する義務はない。

なほ第3章に、日本政府はアメリカ政府の6倍の24兆圓の現預金を保有してゐると誇らしげに書いてある(62頁)が、これは日本國民がいかに多額の財産を唯々諾々と政府の手に任せてゐるかを示すもので、威張るやうな話ではない。アメリカ人の前では自慢しないはうがいいだらう。(つづく)

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