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2018-04-18 規律 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 自分規律必要とする、と思う。

 自分はどこまでも怠惰で、どこまでも甘えて堕落していける。どれほどの堕落なら許容できるかという防衛線自分にとってそれは、それだけでは堕落すればするほど、自分に甘く緩んで、果てしない堕落を許していくような強度しかない頼りなく細い線だから、それを補強する規律で支えられている必要があるのだと思う。


 規律を与えてくれるのは、世間の目だった。

 だが何が世間なのかは、心の目次第であった。本当の規律とはなんだろう。イマニエルカントはそれを消去法的に発掘したのだと思うけれど、その答えは私にはあまりにも難しすぎたのだ。

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2018-04-17 二組のカップル このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 しゃぶしゃぶ屋に、二組のカップルがいた。

 一組目のカップルは、デレデレとしたカップルである。二人ともそれほどモテそうには見えなかった。互いの他に、相手は見つからなそうである。だが、その分、目移りもせずに二人だけの世界に入り込んで帰ってこない。

はいア〜ン」デレ子がデレ男の口にアイスを入れる。

 二組目のカップルは、ツンツンとしたカップルである。二人ともモテそうで、デキる男とデキる女に見える。二人は、互いに不満を感じているかのように、細かく対立して、言葉の端々でつばぜり合いをしている。

「昨日、帰りが遅かったのはなぜ?」

「そっちこそ連絡を返さなかったろ」二人は、デレデレカップルをチラチラと見、鬱陶しい奴らだと顔を背ける。


「(なんか隣は喧嘩してるみたいね)ヒソヒソ」

「(そうだね、怖そうだね)ヒソヒソ」

 デレデレカップルは気まずい気持ちになったが、やがてしゃぶしゃぶ写真を撮り始め、

「あっちに麺類もあったぞ」と二人だけの世界に戻っていった。


 ツンツンカップルは、

「サイテー」と言い合ったきり、互いをよそにスマホをいじりはじめる。

用事があるから明日は帰りが遅くなる」

「あっそ、こっちも明日朝帰りだわ」


 デレデレカップルは、相変わらずデレデレイチャイチャと仲良くしていた。しまいには店内の多目的トイレに二人で入っていった。一体、中で何をやっているというのだろうか。二人は店員に後ろめたそうに俯いて、頬を赤く染め上げていた。

「またあいつらか。中にコンドームが捨ててある、他のお客さんに見られる前に片づけろ、やれやれだぜ店員が肩をすくめた。

「……だがしっているか、あのカップル女の子、以前は一人で店に来て、肩を震わせて泣いていたんだぜ」

「へえ……何があったんだろうな」


「知ってると思うけど、あたし、あんた以外にもいくらでも男いるから」ツンツンカップルは店を出ていく間も、つばぜり合いを続けていた。男は耳もかしていなかった。別の女性と連絡を取り合っているようである

 店員がヒソヒソと言う。

「……あのカップルも大したもんだ。ああやっていつも喧嘩してる割には、もう5年も二人で通い続けてる」

「なんで別れないんだろうね」

「さあな、もしかしたら、どれだけ浮気し合っても、お互いに本命自分だって自信を、お互いに見破り合ってるのかもな」

「大変そうだけど、そういう関係もあるんかねえ……」


 デレデレカップル食事を済ませた。勘定はいつも、女性のほうが払うようだ。その間、男性は先に出てしまう。彼がフッと冷めた顔つきで、店を出る。女性はふと表情が陰る。”なにか困ったことがあったら、遠慮なく連絡ください”とメモレシートの裏に走り書きして、店員彼女釣り銭を返した。


 翌日、店の電話にデレ子から電話が入る。「彼の相手が、しんどい」というのだ。

「どういうことですか、二人は仲良さそうに見えるのに」

「そうなんです。彼の理想につきあうのが、つらくて……」

 聞いてみると、この彼というのは、実は非常に淡泊で、素っ気ない本性があるという。恋人ごっこの間だけ、別人のように優しく見えるが、プイと冷たくなって独りの世界に行ったきり彼女をほっておくというのだ。自分は本当に愛されているのかという疑問が浮かんで、彼を信じられなくなりつつある自分を責めて、独りむせび泣いていた。


「そんな男なんて、捨てて別れちゃえばいいじゃないですか。ひどい男だ、いっぺん死んでしまえばいい」笑って見せる。

 もちろん、彼女は笑わなかった。

「でも彼には優しくて純粋なところがあるんです。一人にしたら、どうせ寂しくて、死んでしまうかもしれない。そうなるのが心配で、彼をおいていけないんです……」

 彼女うつむく。なるほどな、と思う。店員は、決して恋愛経験豊富なわけではない。でも、この二人の関係には、きっとつらいものがある……と感じた。彼女は彼を愛しているんだな、と思う。相手彼女を愛していると言っているのだろう。だが、彼のほうは、彼女ほどには本気ではないのかもしれない。

「いっそ別の女でもできちゃえば、と思う事もあります。そうすれば、もう自分は彼の心配をしなくてすむかもしれない……。でも実際にそうなったら、きっとその時は不安で、彼を離さないよう束縛してしまうかもしれない……」

 ふう、と店員は溜息が漏れた。こんな子にそこまで思わせるなんて、あの男はああみえてニクいな。嫉妬してしまいそうだ……いけないいけない。自分の役目を忘れてついうっかり”おれと付き合えよ”と言いそうになってしまったぜ……。

「……そういえばこないだ隣の席にいたカップルを覚えていますか……? 彼らは互いの気を引きあおうとワザとお互いに浮気をチラつかせあってるみたいなんですよね」

「……ええっそうなんですか?」

「ああみえて彼等はずっと長い事ああして二人でうまくいってる……うまくいっているというと語弊があるかもしれませんが、少なくとも破局には至らないで来ているみたいだ……。ここは、彼氏さんを嫉妬させて、振り向かせるというのはどうでしょうか。向こうも本気になるかもしれない。そうすれば……」

「そんなにうまくいくでしょうか……私は彼の気持ち裏切りたくはないんです……。今日ももう帰らないと……」

 そうか……難しいかな……と思いながら店員コーヒーを片づけた。

今日はお代は結構ですよ、何かあったらいつでも相談に来てください、快くのりますから……」そういって別れた。


 帰宅したデレ子を待っていたのは、デレ男の冷たい言葉だった。

「俺にナイショで、どこいってたの!」

「えっ、その……しゃぶしゃぶ屋さん」

しゃぶしゃぶ屋でなにしてたんだ! 言え! 言えぞなもし!」

 デレ男は食器棚の皿を手当たり次第に投げつけてきた。炸裂音とともに、部屋中に破片が飛び散っていく。彼のために支度しておいた夕飯を、デレ男は壁に向かってぶちまけている。

 あまり豹変ぶりに、デレ子は答えられなくなった。なぜ、この人はこんなに怒っているのだろう、自分はどんな悪いことをしたというのだろう。

 デレ男は、デレ子のスマホを取り上げ、履歴を調べ始めた。

「男! 男と会っていたんだな! おれという男がいながら、チクショウ、おまえはおれのもんだー!」

 デレ男はデレ子に襲い掛かかると、強引に服をひっぺがして、体中をはげしく責め上げる。「ああっやめて! 許して もう許して……!」

「ゆるさん、ふしだらな女だ! これがええのんか! ホレホレ!」

「ああっ、やめて……」デレ子は身体がこわばり、全身が不快感嫌悪感蹂躙されるのを感じた。身体がデレ男を頑なに拒んでいる。


 営みが終ったあと、デレ男はしばらく俯いて黙っていた。

「……今まで、ずっと寂しい思いをさせてきたのかもしれないな。御免な。これからはおまえの事だけを、考えてくらすからな」

「デレ男……」

 デレ男に再び抱かれ、今度は体が熱く柔らかくほぐれていく。

「愛してるよ……」

「ああっ、イクゥ……」


 翌日から、デレ男は、デレ子のスマホ履歴毎日チェックするようになった。どこへ行くにも、デレ男はついてくる。片時もデレ子を離そうとしない。「愛してるよ」「愛してるよ」デレ男は九官鳥のようにささやきつづける。二人は再びしゃぶしゃぶ屋にやってきた。

 デレ子はどこか精魂尽き果てたように、げっそリやつれているのを店員は見た。二人は本当に、今、あの頃よりも幸せになったのだろうか。


「昨日、あんたのダチのタツヤって人からナンパされてさ、一発ヤラせてあげたよ。あんたよりズッとウマかったから。偉そうにすんの、やめてよね」

「ほー。よかったな。ケイコのあそこは君のと違って締まりがいいらしいね?」

 ツンツンカップルのほうは、まだつばぜり合いを続けているのだった。しゃぶしゃぶ屋の店員は、ふう、とため息を漏らした。

人生は色々だな……」恋愛とは、なんなのだろう。人を愛するとは、どういうことなのだろう。

食器、たまってるよ」

「あーい」

 彼は仕事に戻っていった。

2018-04-16 アフガン運転手

 オレンジジュースを飲んでいると、空がオレンジ色に染まっているのが見えた。

 目線を窓にむけると、空もオレンジ色をしている。


 ここはどこだろう、だがなにか静かで、落ち着く気分になる。空というものは、オレンジ色であるべきだ。だが突然、何か気配を感じてハッとした。

 ドアが蹴倒される轟音とともに、男が部屋に入ってくる。

「よろしくおねがいます

 男は一礼をする。


 私の座っているテーブルに、チェックボックスがならんだ用紙が置かれている。採用チェックリスト、と記されている。ということは私は、ここにやってくる人物をチェックして、当てはまるものにチェックをいれなければならないということだろう、と考える。


 男は座ってこちらをジッと見ている。唇の口角を上げているが、わずかに引きつっている。気まずい。何か言わなければならない。自分も同じような表情で見つめ返している。それではどうぞ、という言葉が浮かぶ。だが、何がどうぞなのだろうか。いや向こうも何か準備をしてきているかもしれない。やや呼吸が乱れてくる。チェックリストに目を走らせる。すると、バス運転手に適した人材を選びたいのらしいことが分かる。バス運転手? 私は目の前の人物を見る。男は黒いタンクトップに、迷彩柄のカーゴパンツはいていた。彼がヘルメットを着用して、建材をかついでいる姿は頭に浮かぶしかし、バス運転席に納まっている姿は、想像もつかない。ゴクリ、と唾を飲む。


あなたはなぜバス運転手になりたいのですか?」

 思いついたことを、そのまま口にした。


「私は、バス運転手に憧れています」と男は言った。

「……どうしてですか」

「夢だったのであります


 そうして、男は語り始めた。話を聞いてみると、彼は、母方も父方も共に家族全員がバス運転手だという。バスと共に生まれ、そしてバス運転しながら育つ。サバンナ平原や、サハラ砂漠で、あるいは、アンデス山脈で、トレーニングを詰む。ナイアガラの滝にはげしく撃たれながら、彼らは正確な時刻表とは何かを考える。アフガニスタン戦争とき、彼らはアフガン運転手だった。NASA宇宙計画ときは、宇宙飛行士シャトルへと送り届けた。

 私は感動した。と同時に、自分がみじめに思えてきた。この人物は、自分よりもはるかバスを知っている。完全にバス運転手になるべくして生まれた男。チェックリストがばからしく思えた。こんなものはいらない。大事なのは人物なのだ。人柄なのだ、中身なのだ


 私は、知らず知らず涙していた。嗚咽をもらしながら、立ち上がり、「ちょっとすみません」と言って、トイレに立った。

 トイレでくしゃくしゃになった自分の顔をみた。それは、まるめたちり紙ににたクシャクシャの顏だった。

「どうしたんですか、太郎さん、面接の方がおまちですよ」

 誰かがトイレを覗き込む。

 彼はアッという。

 私は、ダストボックスに顔を突っ込もうとしていたようだ。「ダストボックスの底で子供が生まれたように思える。それを確認していました」

 くるしく言い訳すると私は、例のチェックリストを破り捨てた。


 その後、私を待っていたのは社長室だった。

 採用面接の役目を放棄し、チェックリストを破り捨て、アフガンバスがどうのこうのとむせび泣きながらゴミ箱に顔を突っ込んでいたらしいな、と言われた。

 自分が、そんなことをしていたのだろうか……?


「知りません。ぜーんぜん知りません」と言った。

「なに?」

「決してそんなことは、ありません」


 社長は、歯ぎしりをした。彼はゴミ箱をつきつけてきた。「ここに」と言って彼はゴミ箱の蓋をはぐった。「お前の顔がはさまった」バンバンと叩く。「そうだな?」

「ちがいます

「ちがわない」

「ちがいます

「このやろう、認めんか」

「しらないよ」


 騒がしくしているのはなんだ、と、お局様が社長室のドアを開けたとき、「こらしめてやる」という怒鳴りが聞こえたらしい。私は顔にゴミ箱かぶせられ、フタで尻を叩かれているところだった。

 毎日がつらくきびしい。でもバス運転手に夢をもつ若者もいる。自分希望とはなんだろう。「こんなやつ、これでぶったたいてやってください」とお局様がいうのが聞こえる。

お局様は社長ズボンのベルトを掴み、社長ズボンが落ちる。大勢が騒ぎを聞きつけ、私はとりかこまれる。なんだかわからないままみんなが私を、殴る蹴る。


 夢。希望未来とは……? 人は如何にして生きてゆくのだろう。 バチーン! お局様のムチが尻を熱く打ちのめす。私は雷に射抜かれたようにピーンとエビ反りになった。その時、窓の外で、夕焼け燃えるのを見た。

もっとこらしめろ、と誰かが奇声を発した。

 叩かれ叩かれ、お腹パンパンになってくる。くるしく悔しく、感じてしまう。「生まれるぞ」「かぶせろ、かぶせろ」

 私はダストボックスかぶせられ、めちゃくちゃにされた。

臆病な男

15:02 | 臆病な男を含むブックマーク 臆病な男のブックマークコメント

 あるところに、臆病な男がいた。

 朝起きると、雨が降っていて、彼は言った。

「ああっ、これで世界がだめになる〜」


 彼は怯えながら、外にでた。小雨がふってきて、世界はどんどんだめになる。大地には雨粒が絨毯爆撃のように襲い掛かり、アスファルトは爆発し、家々の屋根は、瓦をやぶかれて道路に滝がながれはじめた。こんなことになると分かっていたら……。雨で世界崩壊する、保険屋はどこにあったのだろう、備えがあればよかったのだ……。


「くせえぞ!歩きたばこ野郎!」

 声が聞こえて、自転車にはねられそうになる。

 彼は片手で傘をさしながら歩きたばこ排水口に投げ捨てた。吸い殻は排水口にニアミスして、車道にころがっていく。わるいサインだ。今日もっと恐ろしい日になりそうだ。世界が滅んでしまう。自分の命があぶないのだ、と思う。


 あぶなすぎて、電車にのれない! と彼は思う。

 道を歩いていると、暴漢に襲われるかもしれない。彼は、マンホールに隠れて辺りの様子をうかがった。


 マンホールのふたを出たり入ったりしていると、誰かにまれるかもしれない。もうすべてがだめだ。彼は下水溝の中に隠れることにした。わるいことがすべて終わるまで、ここに身を隠そう。そろそろ終わったかな? まだかな? 彼は時々、マンホールのふたからそとをキョロキョロと観察する。悪い予感は消えない。


 キーという音がした。下水溝にコウモリのようなものがいるのだ。もっと恐ろしい唸り声が聞こえる。本当にここに潜んでいて大丈夫なのだろうか。気配がして、何かが彼を襲おうとしているのを感じ、彼はマンホールから飛び出した。


「うわっ、モグラがでてきたあ」

 子供に見つかってしまった。子供は彼をつかまえると、虫かごにいれた。ゆるせん、自分人間だぞ、と彼は思った。カリカリという音をたてて、虫かごのプラスチックをかきむしった。

森のご意見番、または番人

15:02 | 森のご意見番、または番人を含むブックマーク 森のご意見番、または番人のブックマークコメント

 森にはこわい番人がいる。それを私は知っているぞ。その話をするぞ。


 森で悪さをしている、ムササビがいた。ムササビは番人の住んでいる小屋に顔をつきだして「リンゴを食ったぞ」とか「クマを倒した」とか言いに行く。番人が腹を立てて、こらしめようとすると、ムササビはシュッと飛び去っていく。ゆるせない悪いガキだ。暴れている。森から追い出して、二度とはいってこれないようにしなければ、と番人は思う。


諸君!

 番人は集会で呼びかける。「極めてゆゆしき事態である。わるさをするムササビは森の害虫である。ほおっておけば、森が崩壊する。ムササビを退治してこらしめるのが、正義である。正しき思想である

 森の子供たちは、眠そうに聞いている。「なあ飯どうする……?」「腹減ったなあ」「ねむい」「あつい」「さむい」

 中には熱心にうなづいているものもいる。長老マングースたち。「よくないなあ」「わるい」「しつけがなっていない」「親の顔がみてみたい」「Son of a bitchだ」「piece of shitだ」


 番人はときどき集会をしていた。

 マングースたちは熱心に聞き、森からムササビを追い出した。ムササビはシュッといなくなった。となりの森にいったようだ。ムササビがいなくなったと思いきや、彼はシュッと戻ってきては番人の小屋に顔を突き出しドヤ顔をする。番人は腹を立てて、集会をする。マングースは今度は何を追い出せばいいのか分からず、今度は互いの悪いところを叱り合った。「おまえはくさい」「太っている」「うそばかりついている」「うぬぼれがひどい」「すけべ」

 マングースたちは互いに争い始めた。一人また一人とマングースが森から追い出されていく。森の子供たちも、つまらなくなって、となりの森に消えていった。


 あるとき、番人は集会を開いた。だがもう森には誰も残っていなかった。

 哀しい気持ちになった。

 自分は森を良くしようと思っただけだ、と番人は思う。


 小屋に戻った番人は、ムササビが顔を突き出してくるのを待っていた。だが、ムササビはもう来なかった。となりの森に、自分もいけるだろうか……?

 そんなことはできない。彼は首を振った。ムササビをほおっておけばよかったのだろうか? 彼にはそうは思えなかった……。

吾輩はハトである

15:02 | 吾輩はハトであるを含むブックマーク 吾輩はハトであるのブックマークコメント


 「ポッポッ」

 私はハトである人間など、えさを落としていく奴隷にすぎない。


 愚かな生き物だなあ。もっと我々のように、高度な進化を、すればいいのに原始的な生き物だな人間は。


 人間は、歩き回っていた。群れであるいて、ぶつかり合い、喧嘩をし、パンをまき散らす。どう考えても、正気ではない生き物だ。人間たちが鳴いている。「アホだよ」「アホだよ」と鳴いている。

「なあ太郎や、どうして人間は、あんなに哀しそうなんだい」

「そうだのー、つらくてきびしいのだろう。誰も人間なんかには生まれたくて生まれないのだろうから

「あっまた、うまい棒を落としていったな」

「注意力の少ない生き物なんだな」

「そうだな」


 つっつん、つっつんとうまい棒を拾っていると、アメも落ちていた。アメは大きくて食べられないな。どうするかな。つっついても、小さくならないな、と思う。でもつついていれば、幸せ気持ちになれるのだった。


 「ポッポッ」

 あっちのほうに、人間が沢山の食べ物をおいていったぞと聞いた。

 言ってみると、ハト吉たちがいた。あれは人間が吐いたゲロのようだ。ハト吉たちは目を真っ赤にしてそれをついばんでいる。ああはなりたくないな、と思う。ああなったら、もうハトではない。人間たちが集まってエサを食べる小屋の前に、ビニール袋にはいっておいてある食べ物があった。カラスがそれをやぶっておいしいところを持っていったあとだ。あれならまだ、マシだろう。

「あっちにもあるようだ」

「いってみるべ」

「よかったな」

「うんむ」

 どこにいっても、食べきれないほど夢がある。なのに人間たちはどうして、あんなにつらそうにしているのだろうなあ、と気の毒になった。

うぬぼれ男

17:21 | うぬぼれ男を含むブックマーク うぬぼれ男のブックマークコメント

 うぬぼれ男がいた。

 世界はおれに嫉妬している。おれは天才、おまえは命をおとすぞ、と彼は言った。


 世界中の女たちが彼に欲情している。コンビニエンスストアで、彼は女子高生を目で犯した。ジロジロとみつめると、女子高生はぐっしょりと濡れてしまう。彼は出口で待ちぶせて、口説き落とす。ラブホテルで高い声が響く。東京大学首席で出た彼は、ノーベル賞候補だ。テレビ局に追い回され、将来は政治家になるのだろうか。

 あらゆる男を論破して、あらゆる女を妊娠させると言われた彼は、部屋に戻る。


 そこは四畳半のボロアパートだ。自分世界と戦っている。ここはゲリラの隠れ家だ、と彼は思う。

 人生無限闘争だ。


 そしてこれは情報戦だ、と彼はつぶやいた。ネット掲示板で、あらゆる男を論破して、あらゆる女にセクハラをするのだった。世界中自分に注目しているぜ、と彼は思った。自分VIPアメリカ合衆国に命を狙われる立場だ、と。

「わるいことは、よしなさい」

 と、言う者がいた。「何を言っているのだ、おまえは敵だ、悪の秘密結社か」と彼は悪態をついた。「私に嫉妬するのはよせ、おまえが思う通り、私は天才であり、あまりにも魅力的で、人類の宝だ、だからといって、嫉妬するな」と彼は言った。


 ある日、悪の秘密結社が現れた。窓の外から祈祷の声が聞こえ、身を乗り出すと、ミステリーサークルが出来ていた。それを取り囲む白装束集団がいた。何をやっているのだ、よくわからない奴らだ、と思っていたら、待ちゆく人々がみな白装束をまといはじめた。テレビをつけると、キャスターも、タレントも、みな白装束をまとっていた。どこへいっても白装束に取り囲まれる。


 一体どうなってるんだ、と思う。悪の秘密結社が苦しめようとしてくる。悔しいが警察に駆け込もう。すると警察署には白装束警察官たちがいた。失意に駆られ、帰宅して閉じこもる。すると呼び鈴がなる。

「私はあなたの味方です。一緒にあの悪の秘密結社を、打ち倒しましょう」ドアを開けると、白装束少年少女たちが待ち伏せていた。

「やめろ! おれは天才だ! 命をおとすぞ! くるなー!!」

 彼が叫ぶと、一気に白装束の人たちは取り囲んだ。「やめろー!」

 もっともっとだ、もっと苦しむがいい、おまえが苦しめば苦しむほど、世界がよろこぶのだ、と彼らは言った。

くやしがり屋

17:30 | くやしがり屋を含むブックマーク くやしがり屋のブックマークコメント


 悔しくて悔しくてたまらない。

 ムッとなり、プンスカ無言となる。


 老若男女問わず誰もが、颯爽としているこの世界で、太郎はクヨクヨとしている。颯爽としやがって。おれのほうが、颯爽としてやるぞ、と太郎は思った。


 太郎は厳しい修行を積みかさねた。一人でコッソリ努力をしたのだ。がんばりを発揮し、いよいよ颯爽としてやるぞ。


 彼が赤道直下熱帯雨林での厳しく孤独な訓練から返ってきた。そして、おもむろに颯爽としはじめたのだ。

 彼の颯爽とした身のこなし。風のように舞い、蜂のように焼き鳥を刺す。どうだ? ほれぼれすらあ、と彼は思った。誰かがみてるかな? 惚れてまうか? と振り返る。すると、一人の女がみていた。

「やあお嬢さん、私の颯爽とした姿は、どうでしょうか?」


おっさん、いい年こいて、一人で何やってんの」

 女はゾッとしたものを見る顔をしていた。そして、となりの男に腕を回した。男は、シュッとしていた。いつのまにか時代は、颯爽とした時代から、シュッとした時代に移り変わりつつあったのだ。一人ぼっちで戦ってきたのに、悔しくて悔しくて、たまらない。

 ムッとなり、プンスカ無言となってしまうのだった。

「颯爽としてるのって、ダサいよね」ととなり男が言った。

「そんなことはない」と彼は言い張った。かつて自分が颯爽としていないことが、太郎にとっては劣等感だったのだから。今や世界でただ一人、彼だけが颯爽としている。

 彼は、颯爽と立ち去った。

ダサいよね」と女が言うのだった。

2018-04-14 飛ぶように過ぎ去っていく季節の中に このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 彼女さんと出会って9カ月が過ぎた。一緒に暮らすようになって半年になる。あまりにも時間はあっという間に過ぎていく。

 日々が新しい思い出の連続であったように思える一方で、今までの人生の延長線上に今があるということを上手く呑み込むことができずにいる。

 エロい映画台詞に、「幸せにして」というのは聞いたことがない。あるのは「忘れさせて」だ。

 自分はそれまでの自分自身を忘れてしまいそうになる。自分人生若いころのどこか致命的な間違いによって迷走に満ち満ちていたが、彼女時間を巻き戻して僕を思春期から育てなおしてくれているのではないか。その道程で私は、それまでの無知蒙昧な誤謬に満ち満ちた誤った人格を「忘れ」ていくことになる。


 思い出というのはいつもどこか寂しさや哀しさが付きまとう。この9カ月の中にそんな瞬間が一瞬もなかった。どんどん自分もっと昔の記憶を「忘れ」て、「現在」に目を向けられるようになっていくだろう。本来自分は、そういう人間だったのかもしれない。


 それまでの自分自身の考えへの執着からふと自由になって、無重力を感じるとき、もちろんそこには新しい苦悩や、新しい試練もあるに違いない。しかしそれは、一歩も前に進めずにいた長い迷走と比べれば、何かしら確たる変化を自分にもたらしもする。

D


 ところで、一体、幸せというのは、記憶できるものなのだろうか。若いころ、エロ本の表紙を写真のように記憶して、エロ本を買うという恥ずかしい思いをせずに思春期欲求解決できるように訓練を試みてみたことがある。当然、その営みの終着点には、自慰行為快感そのもの記憶して、自慰行為に耽りさえせず快感だけを記憶から再現して追体験しつづけられる能力を得ることができないだろうか、という地点が見えていた。だが、他の人たちはどうかしらないが、自分場合は、性的快感であれ、美味の感覚であれ、快感というものを完全に記憶して脳内で正確に再生することがかなり難しいようだ。

 それはそうだ。そのようなことがもしできたとしたら、人は生き続けるために食事を取ることも、繁栄の為に繁殖することも止めてしまえていただろう。快感記憶できないというこの欠陥があるがゆえに、人類はなんとか滅亡を免れて来れたに違いない。


 いや、正確に思い出す事はできなくても、目の前に快感がないときに、その存在想像したときによだれがこぼれるような妄想というもの可能だ。

 いつの日か、私は今の幸せを失った時、この日々を思い出して、涙を流したり、打ち震えたりするだろうと思う。そこには寂しさや哀しさもあるだろう。懐かしさも。幸せ経験するという事は、やがてくるそんな辛さの準備なのかもしれない。そういう臆病さについて、これからは考えてみる必要があるのかもしれない。


D

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2018-04-11 おい新之助 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 人がいた。みじめに横たわっている。閉鎖病棟の薄汚れたボロ雑巾に似た何かにくるまって、床に掘られた便器の脇に横たわっている。そうだこれは俺だ、と新之助は思う。

 その人の半生が、見えてくる。

 彼は今死のうとしているのが分かる。


 フィリピンから出稼ぎに来ていたパブの女と、炭鉱労働者であった前科持ちの男、その遺伝子を掛け合わせて生まれた人間。生きる事は恐怖の連続に過ぎない。自分は初めから異端者だった、とその独白が語る。

 溶け込まなければという強迫的な衝動を覚えたのはまだ五歳にも満たないころからだった。自分はまわりの子に似ていない。似ているふりをしなければ、幼い力では数の暴力につぶされてしまう。そうして彼は、たった友達を敵に売った。幼児向けのスイミングスクール教室で、彼はブラジル系の友達の隠れ場所いじめっ子たちに教えた。

 いじめっ子たちがその子ボコボコにしおわった後、彼は「だいじょうぶか」と言って彼のもとに現れた。「俺のそばを離れるな、彼等から、守ってやるぞ」

 

 やがて彼は思春期を迎えた。

 中学時代に、レイプ事件を起こした彼は、それなりに反省したのか一見しただけではかなり奥手な人間のように見える。そんな高校生になっていた。


 彼はみた。休み時間のことだった。

 女子生徒たちが、一人の冴えない男を囲んでからかっている。

「ねーねー、今日ちゃん教科書もってきたんでしょうね?」

「あー、もしかしてワザとやってるでしょ」

「いいんだよ〜、別に、あたしのならね」

「……チゲーよ、うざい、もうあっち行ってよ」


 そんな光景が、確かに見えた。その光景を見ている男の目に、新之助は一体化していた。

 あいつらは一体、どうなってるんだ? イチャイチャしやがって、許せない。あんな男よりも、おれのほうが、いい男だろうが……。


 ”新之助”はモヤモヤとした気持ちを覚えたが、その場を堪えた。自分はただ傍観しているだけだ。関係がない。嫉妬などしていない……。帰り道、新之助黄色レター用紙を買った。そしてそこに愛のポエムを書き記した。あの時、男を囲む女子生徒たちの一人の笑顔が、眩しすぎて目が眩んでしまった。目が合って気づかれるのを恐れて目を背けてしまった。何かわけのわからぬ事がレター用紙に記されている。本当に自分が書いたのだろうか? と新之助は思う。


 そのレター用紙は、いつのまにか消えてしまった。無くしたんだ、と新之助は思う。

 そんなある日、

 女子生徒たちがけらけらと笑っているのが見えた。「良子の下駄箱に、入ってたんだって〜」

 黄色レター用紙がひらひらとひらめく、ゲーッとかウゲーという声が聞こえる。新之助は凍りついた。女子生徒たちは横目でチラチラとこちらを見ていた。

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