AFTER★SE7EN このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-10-23 あるお話その29 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 Kは事件についてのワイドショーを来る日も来る日も見続けた。そうしていつのまにか、その事件が、自分が犯した事件のように思え始めるまでになった。コメンテーターや、元FBI捜査官は、犯人は裕福な家庭に生まれ育った中年だと予想していた。だが、Kはそうは思えなかった。この事件は、知らない間に自分が犯した罪なのかもしれない。Kは怯えながら眠った。今にも特殊部隊が窓を突き破って催涙弾を打ち込んでくるように思えた。煙の中からスマスクの屈強な男たちが現れ、自分を滅茶苦茶にするのかもしれない。どのようにすれば助かるのか、まったく分からない。ただされるがまま、連れ去られるしかないのだろうか……?

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Kow/20171023

2017-10-22 あるお話その21

 その週の土曜日に、祖父に連れられ、父とKは病院にお見舞いに行った。

 祖母は、お見舞いには来れないそうだった。車に乗り込むと、どこをどう走ったのだろう、静かな場所へと車は停車する。祖父も父も沈黙したまま車を降りるKも後へと続く、どのような建物だったのかKの記憶にはない。ただ、闇の中に入口が光っていた。光をくぐるとそこに、電気仕掛けの電話ボックスのようなものがある。電気ショックを与える装置のように思えた。狭い廊下は何度も迂回し、階段の踊り場という踊り場に、太い鉄格子が降りていた。Kがそれまで知っているどのような絶望的な世界よりも、そこは絶望的な空間に思えた。映画でみる刑務所よりも、はるかに恐ろしい空間に思えた。すくなくともKは、そこが病院だとは信じられなかった。

あるお話その22

12:00 | あるお話その22を含むブックマーク あるお話その22のブックマークコメント

 先導する案内係の後に祖父、父、そしてKは従った。階段上り廊下を抜ける。そのわきにある部屋には、何かノコギリが取り付けられた無数の机が見えた。Kはそれがなんなのかわからなかった。ここでは、木こりの似た何らかの作業が、行われるのだろうか。それはわからなかった。そしてまた鉄格子の扉をあけ、階段を上がると、そこに、白い装束を着た無数の人が、立っていた。「K、来てくれたのけ」と母の声がし、Kは目を凝らした。どこから声がするのだろうか。その声は、白い装束を来た人並みの中にまぎれていた。ほかの人々と同じように、髪を坊主頭に駆り上げられ、どこか爛々とした光った眼をかがやかせて、母ににたその人物が前に出た。Kは、何か暗い闇の中に自分の心が閉ざされていくのを感じた。Kは返事ができず、その人物母親だと思えなくなっていく。変わり果てたと思えたからなのか、それとも、急激に変化する現実に心が適応できなかったからなのか、彼自身はわからなかった。Kの母は、何かをしゃべっていた。しかしKは何も聞こえなかった。そして何がどうなったのか、わからなかった。その後何があったのか、わからなかった。

あるお話その23

13:33 | あるお話その23を含むブックマーク あるお話その23のブックマークコメント

 ある時美術教師に呼ばれ、Kは職員室を訪れた。そこでKは、おまえはやる気がないのか、と聞かれ、当惑した。職員室の脇の、応接机のようなところに通され、ドアは閉められている。Kは美術教師の顔を見上げた。教師は諦めたような眼差しでKを見下ろしている。出来損ないの生徒を見る眼差しそのものだった。Kは首を振った。言葉が出てこないかった。これは何だ、と出されたのは、Kが授業で書いた絵画だった。Kはまじめに授業に取り組んだつもりだったし、その絵画がなぜ問題なのかわからなかった。真剣にやらないなら、授業の邪魔だ、こなくていい、と教師は言った。Kは、わかりましたと言って、そのまま帰宅した。

あるお話その24

14:11 | あるお話その24を含むブックマーク あるお話その24のブックマークコメント

 自分の絵に何か問題があったのかどうか、Kは分からなかった。帰り道、Kは信号待ちで矢吹に出くわした。赤信号を待っていると、矢吹が後ろからやってきたのだ。矢吹というのは、Kがなんとなく意識するようになっていた女子である。何か言わなければならないという気がしたが、矢吹はそっぽを向いている。信号が青になる。矢吹自転車が勢いよく発信する。その背中にむかってKは「さようなら」と言った。すると矢吹は急停車して、Kを見た。誰だ? という顏をして振り返ったのだ。そして、「挨拶なんで、しなくていいから……!」とあきれた様子で、怒った。Kは、何も思いつかず、返事もできず、ただ、立ち止まった矢吹を追い抜いて信号を渡った。軽いめまいのような感じが、ずっとKを苛んでいる。Kは河を渡る橋の上に自転車を止め、そこから河を見下ろした。あきれるほど巨大な錦鯉が、野生化して水面に揺れている。ゆっくりと、ゆらゆらとその豊満な肉体をもてあましている。それは目の前にありながら、ずっと遠い世界現実のようにも見える。スーパーの袋を抱えた買い物帰りの老婆が立ち止まり、Kが見ているものを見ようとした。しかし老婆は、いぶかし気な顔でKと水面を見比べると、そのまま行ってしまった。最近若い子は……と呟いたかのようにKには聞こえた。そして水面に小さな波紋が広がり始める。雨が降り始めたのだった。Kは雨の中ずっと、川面を見つめ続けていた。

あるお話その25

14:24 | あるお話その25を含むブックマーク あるお話その25のブックマークコメント

 ある時、急に家に母親が帰ってきた。外泊の許可をもらったとのことで、病院から一時的に自宅に戻ってきたのだったが、それから母親はもう病院に戻るのを嫌がった。Kは母親がもう以前の母親と同じ人物なのかどうか、よくわからなくなっていた。何もかもが、少しずつ、違うように思えて、目を合わせるのが怖くなった。母親自分に向かって話しているのか、独り言を言っているのか、分からなくなった。学校へはもう行かない、とKは言った。そうか、と母は独り言のように言った。学校へ行けという父に、Kは急に激怒してつかみかかった。しかしKがどれだけ踏ん張っても、父の体はびくとも動かなかった。父がこれほど屈強な肉体をしていることを、そのときKは初めて思い知った。そして父が殴りも、怒りもしないことが、Kを一層みじめな気持ちにさせた。今日は休め、と父は言い、仕事へ出ていった。Kは部屋に閉じこもった。母はレトルト食品をもってきた。Kは食卓ではなく自室でひとりでそれを食べた。食べる時以外は、ずっと布団にまるまるようにして、寝ていた。

 先生に頼まれたのか、昔の友人が尋ねてきて、よくわからない事をいって布団をひきはがそうとした。Kは黙って怒りに震えて、頑なに身を守った。母の昔の友人だと言う見知らぬ人物が、尋ねてきてなれなれしい事を言ったときも、布団をかぶってKは耳をふさいでいた。どこへ行ったのか、母が外出したとき、入れ替わるように祖母がやってきて、Kを祖父母の家に連れて行った。

あるお話その26

14:49 | あるお話その26を含むブックマーク あるお話その26のブックマークコメント

 Kの祖父母の家は、片田舎ありがちな、ただっぴろい巨大な屋敷だった。居間にあるテレビが巨大で、Kはそのテレビゲーム機をつないで、夜中中ゲームに耽り、学校に行く事を頑なに拒んで、祖父喧嘩になり、祖母口論になった。将来のことは、何も考えられなかった。世界は今にも滅亡しそうに思えた。愛すべき人間も、分かり合える関係も、ゲーム漫画の中にしか見つけられなかった。ゲーム漫画に描かれているような世界暮らしたかった。まったく別の人間として活躍できる別の人生をやりなおしたかった。時代は変わりそうに思えた。自分にとって生きにくい世の中は崩壊し、いつかやがてすべてが逆転するときがくるように思えた。そうなるときに役に立つのは、きっと学校で教わることではないはずだと、Kは信じた。部で教わった違法サイトめぐり、夜中はゲームに耽る。何者なのかも分からない人々にむかって、ネット自分感情吐露する日々が、ずっと続いていった。

あるお話その27

15:02 | あるお話その27を含むブックマーク あるお話その27のブックマークコメント

 Kはゲーム攻略サイトを作り始めた。ウェブサイト制作の本を立ち読みし、書いてあることをその場で暗記して自宅で試す。そうしてできたサイト訪問者の二人と、連絡先を交換し、春休みに会おうと約束をした。璃音とはるまきというのが二人の名前だった。璃音はKと同じ年齢の学生だった。はるまきは少し年上で、女子大学生だった。Kははるまきがどのような人物なのか、ずっと想像を膨らませ続けた。メールの返信が来るまでの間、ずっと会う日のことを想像しつづけていた。やがてKは、三人の約束の日を待ちきれず、夏に、会いたいとはるまきに伝えた。二人の住んでいる地域は遠く離れていて、間にある駅で、待ち合わせることになった。そのことを祖母に告げ、Kは車で駅前まで送ってほしいと言った。祖母は、怪訝そうに応じた。駅の待合室で、Kは目印となる雑誌を広げて、待っていることになっていた。何度もトイレに行った。その初めて横分けにした髪型が、気になってしかたがなかったのだろう。やがてはるまきがやってきて、K君だよね、と言った。行こう、と。Kは想像とは違い、思っていた言葉を何も話せない自分に苦しんだ。その街を歩きながら、はるまきの言葉にほとんどどもったような答えを返していた。はるまきの背中からメートル遅れて、その後姿をおいかけるようにしてKは歩いた。Kにははるまきの緑色のセーターから伸びる二の腕の白さが、印象に残った。顔は、ほとんど思い出せない。やがて駅にもどってきたとき、Kはアッと驚いた。地元駅前で別れたはずの祖母が、なぜか駅にいるのを見つけたのだ。Kは、走って祖母の元に駆け寄ると、そのまま祖母と共に、帰りの電車に乗った。自分の行動が、Kにはよくわからなくなっていた。

あるお話その28

15:09 | あるお話その28を含むブックマーク あるお話その28のブックマークコメント

 サイト上で再開したはるまきは、Kに対して激怒した。そして、はるまきの兄という人物が出てきて、Kの行動を激しく責めた。Kは自分が悪い人間なのだと言われていることを知った。なぜそうなったのかも、自分気持ちも、まったく説明できなかった。逃げ出すように連絡先を消し、Kはそのことを忘れようとした。はやく世界が滅亡しないかな、と思っていたら、テレビ殺人事件報道された。自分もそういうことを、やるかもしれないな、自分は悪い人間からな、とKは思った。

2017-10-21 あるお話その18

 Kは立ち上がり、図書室を後にした。教室には何人かの生徒が残っていたが、Kがどこにいたのか誰も気にする様子はなかった。席にあるカバンを握り、Kはなんとなく、部室へと向かった。

 部室はなぜか、閑散としていた。部員の一人なのか、無言でパソコンにむかっている男子が奥のほうにいるだけだった。荒木の姿もない。Kは、空いている席のパソコンを借りた。そのブラウザブックマークに、色々な違法サイトが入っていた。そんなサイトをながめているうちに、すっかり日は暮れた。おつかれ、カギよろしくと言って奥にいた男子も去っていった。

 男子テーブルの上のカギを指さしていた。部室のカギをかけて、そのカギはどこに返せばいいのだろう。

ちょっとまって」と振り返った時、すでにドアはバタンとしまった。

 Kがたどりついたサイトには、不思議メッセージが散りばめられていた。ジョージオーウェルが「1984」に描いたような社会が到来する、支配から逃れ自由を得るための力がハッキング技術だ、というメッセージだった。部室のパソコンにこんなサイトばかりブックマークされているのは、普通の事なのかどうかわからない。ただなんとなくKは、好奇心を感じずには、いられなかった。しかしそこに書かれている内容は難しすぎて、先輩らがそれを知っているのであれば、是非教えて欲しい、と思った。真っ暗な部室でずっとそんなサイトを調べていた。外はすっかり夜になり、物音も聞こえなくなった。

 どれくらいの時間がたっただろう、ドアが開いて、部屋の照明がついた。

「お、おまえまだいたのか」

 仮入部の時に見かけたホストのような先輩だった。お互い決まりの悪そうな表情を浮かべてしばらく黙っていた。

すみませんでした、今帰ります。カギをどこに返せばいいのか分からなくて」

「いや、やっとくからいいよ。それより……」

面白そうなサイトですね、ブックマークに入ってました」

「あ、ああ……まあな」

 席を片づけ、Kは部屋を後にしようとした。

メールアドレスを書いてくれ。本当に興味があるなら、部の掲示板をみるといいぞ」

「え、……」

 Kは少し迷ったが、渡されたメモ用紙にメールアドレスを書いた。

「それじゃあな、ネットで会おう」

 そしてKは、暗い夜道を自転車で帰った。

あるお話その19

15:27 | あるお話その19を含むブックマーク あるお話その19のブックマークコメント

 自宅に帰ると、祖母はいなくなっていた。父はただ黙々と食器をかたづけていた。

 Kの文の食事が用意されていたが、父がつくったものだった。「ばあちゃんは?」とKは父に尋ねた。「ああ、帰ったよ」と父は言った。それ以上のことは、何もわからなかった。父と二人だけの自宅には心細い静けさがあった。Kは部屋に戻って、ケータイ確認した。メールが届いており、そこにパソコン部の掲示板アドレスが書かれていた。顔と名前が一致しておらず、誰が誰だかわからない。しかし、そこでは誰もが、学校では見せないもう一つの顔をもっていた。何か哲学的書き込みを書いている人がいて、その議論にKは、質問をぶつけた。けむにまくような返答が返ってきて、Kは興味をひかれて議論にのめり込んでいった。何気なくつけていたテレビ番組は、深夜の過激映像が流れ始めていた。Kはケータイを置いて、映像にのめり込んだ。

 黒いガーターストッキング姿の女性同士が、艶めかしく絡み合っていた。Kは思いがけず、自慰に耽っている自分に気づいた。やがて腰のあたりから熱く痺れ、痺れはやがて股間の先と、身体の芯を通じて脳に響いてくる。そして、唐突に腰が痙攣したように意識を離れて痙攣し、Kは射精した。

あるお話その20

18:21 | あるお話その20を含むブックマーク あるお話その20のブックマークコメント

 Kは掌に射精していた。その手の平にべっとりこびりついた精液に、ふと何か黒いものが落ちてきた。羽の生えたアリだった。目を凝らすと、羽の生えたアリは床にも這っていた。見上げると蛍光灯に何匹もたかっているようだった。椅子に乗り、蛍光灯確認すると、そこでたくさんのアリが、熱で死んでいるのを発見し、ゾッとした。なぜこんなにアリがいるのかわからない。どうする気にもなれず、Kは一階の洗面所で手だけを洗い、そっと部屋に戻って灯りを消した。翌朝目が覚めると、父親の作った朝食を食べた。妙な息苦しさを感じ、先に家を出た。赤信号自転車を止め、ふと歩道舗装を見下ろすと、朝日が照り付けた舗装が見慣れない輝きを放っているように感じられ、このままここにいたいとKは感じた。信号が変わり足はペダルを漕ぎはじめる。校門までくると、ふいにKは、ここではないどこかに行きたいと思った。忘れ物をとりにでもかえるかのように、そのまま道を引き返す。先ほどの歩道の辺りに自転車を止める。しか舗装はもうさきほどの輝きを失っている。一体なんだったのだろう。自分はどこへいきたいのか、どこへいけばいいのか、Kは傍らを走る数々の自動車の車窓をなにげなく見た。彼等はここではないどこかに向かっている。自分の知らない人生を送っている。そういう気がした。彼らになりたい、こんな自分ではない、違う人生を生きる誰かに

2017-10-20 あるお話その17 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 Kがふと目を開けた時、辺りはシーンとしていた。いつのまに眠ってしまったのだろう、すでに休み時間は終わっていた。

図書室はシーンとしている。しかし、立ち上がると、本棚の隙間から、人がいる気配があった。

誰かが本を手に取っている。さるのこしかけという背表紙が見える。その女子はそこで、本を読んでいた。

休み時間が終わっても、彼女はずっとそこにいた。

 Kはまた黙って目を閉じた。ここにいよう、と思った。理由はわからないけど、ここにいるのは自分だけではないのだから

そうしてその日は時間が過ぎ、やがて窓の外から夕陽差してきた。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Kow/20171020

2017-10-19 あるお話その16 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 翌朝、朝食はいものように父が作った。Kの家庭ではそれはいもの事だった。

 祖母は、母方の祖母のため、そんな風に父が朝食を用意することを知らなかったが、

それよりもむしろ、父の料理自己流に過ぎることに、腰が抜けるほど驚いたようだった。

「これは何ていう料理ですか? 食べられるのですか?」と言った。

 Kは、そのことに何か奇妙な壁を感じた。当たり前だと思っていた日常の外側から

祖母は「明日から朝食も作ります」と言うのだった。


 自転車で登校し、授業を受けた。荒木は何かを察してくれたのか、それとも話しかけづらなかったのか

何も言わなかった。昼休みには食事を取らず、図書室に行った。そして、奥の方の本棚の裏に座り込んで、Kは目を閉じた。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Kow/20171019