エイガ・デイズ このページをアンテナに追加

「お世辞をいうのは、愛情のない証拠です。お世辞をいうぐらいなら、皮肉をいってあげた方が愛情です」(川島雄三)

2016-04-20

Kurobaku2016-04-20

[]生き残った者の掟(仏1966 ジョゼ・ジョバンニ監督)

ロベール・アンリコ監督の名作『冒険者たち』の原作の続編にあたる小説を原作者自らが映画化した作品。製作当時は日本未公開だったが、1989年に配給会社ケイブルホーグが『冒険者たち』をリバイバル上映した際に一緒に配給し、上映した。今回、シネ・ヌーヴォの「特集上映 フィルム・ノワールの世界」で上映されたので何となく見た(ちゃんとフィルム上映だったし)。シネ・ヌーヴォのチラシによると『冒険者たち』が気に入らなかった原作者のジョバンニが自らメガホンを取った、となっているが、製作年からすると『冒険者たち』より一年前に作られていることになる。しかしimdbでは同じ1967年作となっていて、本国フランスでの封切り日も近い。これではどちらが先に作られたのかわからない。また、なぜかどちらの作品もフランソワ・ド・ルーベが音楽を担当しているのも奇妙である(曲は違う)。

ストーリーは『冒険者たち』で描かれた金塊探しで、一人生き残った主人公ミシェル・コンスタンタンが、コルシカで仲間の墓参りするところから始まる。コンスタンタンは『冒険者たち』でリノ・バンチュラが演じた役ということだが、似ても似つかない猿顔のブ男で、落差にびっくり。でもそれはそれでいい。

で、落ち込んでいるコンスタンタンを見かねた旧友が、コルシカを離れる前にちょっと遊んでこいよと言われて、紹介された秘密の娼館に行くが、そこで出会った娼婦の女アレクサンドラ・スチュワルトに入れ込み、売春組織から強引に連れ出す。当然、組織からの追っ手がかかり…てな話。

初監督になるジョゼ・ジョバンニの演出は、いかにも初めて映画を作るぞという喜びに溢れている。不自然なズームやアップ、奇抜なカット割り、ヘンな海辺でのピストル対決。その対決などは勝新太郎が初演出した『顔役』の対決場面に似ている気がした。職業監督なら絶対こうは撮らないだろうというヘンテコさである。見る人によっては好悪が分かれそうだが、私は映像が瑞々しく感じられて好きだ。またコルシカ島周辺の次々現れる独特の景観は、少しロケハンしただけでは撮れそうもない美しい瞬間を捉えたカットが多く、さすがジョバンニ本人の出身地だなと思わせる。フィルムで見てよかったと思う。

最後にこの映画で一番の魅力は何かといえば、ヒロインを演じたアレクサンドラ・スチュワルトだろう。最初に登場したときは陰気でキツい顔立ちをした女で、とてもヒロインとは思えなかった。ところが一度抜け出そうとしたヒロインが捕まり、娼館の主である謎の男(手足ばかりで、顔を映さない不気味な演出!)の前に出されたとき、見る見る彼女の顔が青ざめ、額から汗がしたたり落ちる。ここで強烈な色気を感じた。別に何をされているわけでもないのに、まるで彼女が縛られて鞭打ちの拷問を受ける場面を見ているかのようにドキドキした(実はこの場面、最後の方で意味がわかる)。それが後半は、主人公と逃避行を続けるうちに打ち解けてきて、ずっと暗い表情だった彼女にチラチラと笑顔が生まれ始める。ついにはフザケてロバと遊んでいたりするところなど、キャッキャッと笑い、めちゃくちゃかわいい。とても第一印象とは違うのだ。このギャップにはやられた。主人公と一緒に、私も彼女に恋している?(笑) まんまとジョバンニ演出の罠に私はハマっている。

ちなみに私はこの女優さんをまったく知らなかったのだが、今調べたら、ずいぶん長い芸歴の女優さんだった。トリュフォーの『黒衣の花嫁』やルイ・マルの『鬼火』、ポランスキーの『フランティック』に出ている。つい最近もランプリングの『まぼろし』や『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』にも出ている。このうちの何本かを見ているが、うーん記憶にないなあ。

この映画の良い評判はあまり聞いたことないけど、隠れた佳作だと個人的に思っている。こういうマイナー映画を掘り出してくれたケイブルホーグという配給会社は、現在の午前十時の映画祭の数百倍偉いと思が、今はもうない。

<4/20(水) シネ・ヌーヴォにて鑑賞>