エイガ・デイズ このページをアンテナに追加

「お世辞をいうのは、愛情のない証拠です。お世辞をいうぐらいなら、皮肉をいってあげた方が愛情です」(川島雄三)

2016-07-29

Kurobaku2016-07-29

[]シン・ゴジラ(日:東宝映画ほか2016 庵野秀明総監督、樋口真嗣監督・特技監督

昨年の暮れあたりからシネコンで流れた特報を見たときは不安だった。「逃げろ、逃げろ、逃げろ!」と若者たちがバスの横を走り回り、その様子がグラグラ揺れる手持ちのビデオカメラで撮影されている。おいおい、今さら『クローバーフィールド』のPOV映画に逆戻りかよ、と。加えて、発表されたキャストが長谷川博己石原さとみというのは悪夢の『進撃の巨人』からの引継ぎだし。それでもって7月には「怪獣映画ならぬ会議映画」だって噂は出てくるし…本当に大丈夫なのかと心配した。

カリハ「ところが初日に映画を見に行って、あまりの面白さにびっくりしたんですよね。終映後、しばらくずっと興奮状態でしたよね、くろばくさん?」

誰だ、きみは?

カリハ「お久しぶりです。もうお忘れかもしれませんが、エイガ・デイズのイメージキャラクター担当のはずが、たった一回で終わったカリハ26才♀です。あれは2005年の『電車男』のレビューでした」

前回が2005年だとすると、あれから11年経っているから、もう37歳か。

カリハ「いいえ、私はイメージキャラクターなので、齢はとりません。だから永遠の26才ですけど、そんなことはどうでもいいんです。映画はどうでしたか」

うん。これはもう庵野=樋口両監督の集大成であり、二人の最高傑作と言っていいね! 『ナウシカ』の巨神兵、『トップをねらえ!』、平成『ガメラ』シリーズ、『新世紀エヴァンゲリオン』…すべて総ざらえ感がある。さらには二人が影響を受けたもの、『ゴジラ』シリーズはもちろんのこと『ウルトラマン』シリーズや『機動警察パトレイバー the Movie』などいろんなものが入っていた。あのね、ちょっと詳しく語っていい?

カリハ「どうぞ。更新が遅いから、どうせもう誰かに同じことを言われてるでしょうけど、一応がんばってみてください」

相変わらず口が悪いなあ。あの、米軍の爆撃機が地中貫通爆弾でゴジラを攻撃する場面があるけど、爆弾を受けたゴジラがプール一杯分ぐらいの大量の血を流す。ああいう表現は庵野が『新世紀エヴァンゲリオン』で攻撃されたシトが盛大に血を流していたことを踏まえてのことで、おそらく庵野監督以外、誰もやっていないと思う。

そのあと、ゴジラがいよいよ背ビレを光らせて、放射能を吐くという展開になるんだけど、これまた描き方が従来と違って、口が三つに割れたりする。さらに炎からビーム光線状に変化するのも新機軸で、何キロ先まで一瞬で焼き尽くす描写などは間違いなく『風の谷のナウシカ』の巨神兵庵野の原点だなあ、と感激した。そのあとの背中の四方八方から光線を出して爆撃機を撃ち落すのは、『伝説巨神イデオン』の全方位ミサイルを思い出させる。狙ったのか、偶然なのか、巨神兵も伝説巨神も、ゴジラと同様「神」という単語が入っているしね。

しかし何といってもあの光線に捧げられているのは『ゴジラ』シリーズをはじめとする円谷特撮なんだよね。つい最近も『光線を描き続けてきた男 飯塚定雄』(洋泉社)という本が出ていたけど、あの光の美しさはもう特撮映画そのもの。今回は光学合成じゃなくてCGだろうけど、それでもやっぱり美しい。この場面の最終カットは口から炎を吐いて、東京を焼き払うゴジラのロングショットになるんだけど、あれと同じ構図が1954年版の『ゴジラ』にあったと記憶する。ここをわざわざあの構図で終わらせたのは、『エヴァ』だの『ナウシカ』だのいろいろ引用して新しいゴジラを作ったんだけど、やはり最後はオリジナル『ゴジラ』じゃないと、っていう庵野監督の敬意の表れだよねえ。それだけで涙腺が緩んで…うう。

カリハ「…もう気が済みましたか」

まだまだあるけど、あと誰も言ってなさそうなのを一つだけ。蒲田に現れた最初のゴジラが水路を進むというのは、『ラブ&ポップ』のヒロインたちが渋谷の水路をつき進んでいくイメージとカブると思うんだけど、どう思う?

カリハ「コジツケですね(キッパリ)。しかしまぁ、この『シン・ゴジラ』が怪獣特撮映画の集大成であり、いかに優れているかということはよくわかりました。ところで今回のゴジラは、実際に巨大生物が現れたときの政府の対処法をかなりリアルにシュミレーションした作品ということでした。またオリジナルの『ゴジラ』が第五福竜丸および原水爆、東京大空襲の記憶を基にして作られていたように、今回は東日本大震災および福島第一原発事故の記憶を基にして作られているかと思います。それらについてはどう思いますか」

巨大生物に対応できる条文が憲法になくて、あーでもない、こーでもないと憲法の条文が画面いっぱいに表示される場面があるけど、あれを見て庵野は改憲を支持しているとか、全体的に自衛隊を賛美して描いているとかいうのは、娯楽映画に対してヤボじゃないかと思う。

カリハ「お言葉ですが、今回のゴジラ映画を作るにあたって、シュミレーションとか東日本大震災とか現実の方に擦り寄ってきたのは庵野監督の方ですから。都合が悪くなると、これは娯楽映画だから、とか逃げを打つのはおかしいと思います」

うちのイメージキャラクターが失礼なことを言ってるけど(笑)、庵野監督にそんな政治的な考えがあってこの映画を作ったとは思えないんだけどね。

カリハ「私は尾頭ヒロミかー! 確かに改憲支持だとか、自衛隊賛美は私もないと思います。けれども、最後のヤシオリ作戦で、長谷川博己が作戦実行をする自衛隊隊員たちに向かって演説をするのは、戦時中『君たちはお国のために死んでくれ』とか言う日本軍に似た危険性を孕んでいると思います。そのあと実際に、作戦に参加した第一陣がゴジラの光線によって壊滅しますし…」

ヤシオリ作戦は、福島第一原発事故の対応に当たった政府関係者および東京電力の現場作業員の姿とダブらせているんだよ。ゴジラの口に血液凝固剤を投入するというのは、メルトダウンに向かう原子炉に冷却水を送り込む作業を思わせるわけだし。実際にその作業で命を落とされたり、被爆された人もいるわけで…そう考えるとよくここまで描けたな、よく東宝はOK出したなと逆に感心する。

カリハ「確かにそれは凄いことだと思いますが…。『シン・ゴジラ』を見たあと、『太陽の蓋』(佐藤太監督)という福島第一原発事故が起きたときの政府の対応をドキュメント風に描いた映画を見たのですが、そこで描かれる政府の混乱ぶりはまるでこの映画そっくりです。政府は最悪の場合、東京を捨て、都民を避難させる覚悟までしていたようなんですが、もうまんま『シン・ゴジラ』ですね。『太陽の蓋』は演出力、資金力が足りなくてそれほど優れた映画とは言えないのですが、内容の衝撃度と原発事故を描く真摯な姿勢は『シン・ゴジラ』に拮抗していると思います。現実の原発事故から見れば、やはり『シン・ゴジラ』は弱いですよ。在来線爆弾とか怪獣ごっこしてふざけているとすら思います」

えー…うちのイメージキャラクターが再度失礼なことを言ってるけど(笑)。一応、平泉成の新総理はこの作戦の責任をとって内閣を辞職するんだよね。最初からそういう腹づもりだったみたいだけど。ちゃんと庵野監督も考えて作っているかな、と。

カリハ「だったら作戦の陣頭をとった長谷川博己も政治家を辞めるべきです。巨大怪獣と対峙した政府をリアルに描いたのなら、そういう人間ドラマ面もリアルにした方が、バランスがいいし、映画に深みが出たと思うんです。この国を復興させるまでとか、最後にキレイ事を言うのもどうかと…ましてや石原さとみと将来はお互い国のトップになろう、と言い合うなんて、あまりにも楽天的過ぎます。ある意味、政治家のズルさを描いた映画だったのかと思うくらいです」

確かに竹野内豊の存在など、そういう一面を描こうとしたフシもあるんだけど、あまりうまくいってないような気がした。主役は政治家じゃなくて、あくまでゴジラだからね。

1954年のオリジナル『ゴジラ』と今回の『シン・ゴジラ』との大きな違いは、ゴジラの犠牲となる一般国民が描かれているか、いないかだと思う。オリジナルでは「もうすぐお父さまのところに行けますからね」という会話をする逃げ遅れた母子をはじめ、ゴジラに自分のいる鉄塔を襲われても最後まで実況を続けるアナウンサーなど、犠牲になった一般の人たちの姿が描かれている。私が印象に残っているのは、燃える街を遠巻きに眺める人たちが誰彼ともなく「…ちきしょう」「ちきしょう」と声を上げ始める場面。思わずもらい泣きしそうになった。こういった視点が、最後、平田昭彦扮する芹沢博士がたった一人でゴジラの犠牲となってすべてを終わらせることと繋がっている。おそらく映画の作り手は、もうこれ以上日本国民に犠牲を強いるようなことをしたくはなかったんだろうと思う。

一方の『シン・ゴジラ』はゴジラの犠牲になる一般国民を最低限しか描かず、あくまでゴジラ対策を講じる政府閣僚や自衛隊関係者の視点で映画を展開させた。少しでも湿っぽくなるようなものは極力排除しているようにも思える。オリジナルと同じことをやってもしょうがないのはわかるし、その思い切りのよさを評価する向きもある。しかし震災や原発事故も、戦争や原水爆と同じくらい恐ろしいことなのだから、もう少し死んでいった者たちの視点に立って、平和への祈りが感じられるような重さが、ラストに必要だったかもしれないね。

カリハ「政治家だけの視点だと、どうしても大義名分を言ってるだけに思うんですよ。それに岡本喜八監督の写真を引用してオマージュを捧げていますが、岡本監督は政府閣僚が主役の『日本のいちばん長い日』に不満を感じてて、その反動で、ただの一兵卒が主役である『肉弾』をATGで作ったんです。一般人の犠牲者の立場を描かないのは岡本監督の精神にも反していると思います」

いやいや…どちらも岡本喜八の作品だし。反している、は言いすぎだよ。ちょっと水でも飲んで落ち着け(笑)。

カリハ「また引用が…。ただ私が言いたかったのは、娯楽性を重視するあまり、この題材を扱った限りは、決して飛ばしてはいけないものまで飛ばしてしまったのではないか、ということです。ま、こんなことを書いても、どうせ、ケムたいことを書くな、素直に映画を楽しめばいいんだ、なんて言われるんでしょうけど」

どうして君はそんな喧嘩を売るようなことばかり言うのか。怪獣特撮映画として楽しんだ上で、背景に描かれている震災や原発問題にもちょっと考えをめぐらせる、で別にいいんじゃないのかなァ。

とにかく才能はあるはずなのに、ずっと低迷し続けていた庵野=樋口両監督がようやく本領を発揮した映画を作ったということで、私は大いに喜びたい気持ちです。これは本当。

<7/29(金) TOHOシネマズなんば スクリーン2、座席R−12にて鑑賞>

<9/1(木) TOHOシネマズ梅田 スクリーン3、座席N−10にて鑑賞 ※2回目>

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Kurobaku/20160729/p1