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「お世辞をいうのは、愛情のない証拠です。お世辞をいうぐらいなら、皮肉をいってあげた方が愛情です」(川島雄三)

2016-08-18

Kurobaku2016-08-18

[]爆笑野郎 大事件(日:東宝1967 鈴木英夫監督)

鈴木英夫最後の劇場用作品で、内容は60年代に活躍した晴乃チック晴乃タックの漫才コンビを主役にした東宝得意のサラリーマンもの。他愛のないプログラムピクチャーといってしまえばそれまでが、なかなかどうして私にはけっこう楽しめた。

ストーリーはチックとタックの営業マンコンビが結婚生活を前に命じられた九州出張で、最後の女遊びと張り切るが、いつもいいところで邪魔が入り…というお約束を繰り返すというもの。男女差別だとか言って自主規制され、その結果、ガキ向け映画が氾濫してしまった今と違って、明らかに大人向けの内容で娯楽映画が作られていて、個人的には好きである。

その一方で博多から始まり鹿児島まで行く九州縦断のロードームービーであり、その旅先のエピソードごとに女優(春川ますみ桜井浩子、北あけみ、久保菜穂子、沢たまき、三浦布美子、浦山珠実など)をはじめ、名優・名脇役(有島一郎、石山健二郎、千石規子中村是好堺左千夫、沢村いき雄など)、当時売れていた芸人(桂米丸桂歌丸三遊亭歌奴圓歌牧伸二、トリオ・ザ・パンチ)などが次々顔を出す。60年代の東宝および日本映画ファンなら大喜びの豪華さである。

ことに桜井浩子の登場は円谷特撮ファンには嬉しいサプライズだ。友達とバーで飲んでいるところをタックに口説かれる役で、セリフはあるが出番は短い。ネットで調べていて知ったのだが、晴乃チックタックのコンビは『ウルトラQ』(1966)の放送前特番「ウルトラQは怪獣の世界」の進行役を任され、さらに本編でも第七話「SOS富士山」で作業員役としてゲスト出演している。ひょっとしたらそのお返しで『Q』の桜井はこの映画に出たのかもしれない(東宝の専属女優なのでただの偶然だと思うけど)。いやー、昔のことは調べれば調べるほど面白い。またこの桜井さんが真っ赤な服でオシャレしていて、滅茶苦茶かわいい。『ウルトラQ』の報道記者や『ウルトラマン』の科特隊員とはまた違う、普通の女の子を演じているのが新鮮なのかもしれない。他にも有島一郎は恐妻家の専務を、もはや名人芸を見せるかのようにおっかしく演じているし、トリオ・ザ・パンチのフリップを使ったコントが劇中でほぼ最後まで収録されているのも当時の芸能的記録として貴重だ(今見たら面白さがわからないが、内藤陳の芸人時代を初めて見た)。

途中で挿入される主題歌「チック・タック・ゴーゴー」というのも当時の東宝プログラムピクチャーならではの楽しさ。歌詞から二人のコンビ名が時計の針の長針・短針(長身・短身)から来ているというのもわかった。作曲は神津善行だが劇伴も担当し、明るくかっこいい曲を提供している。

本作は鈴木監督の最後の劇場映画ということで、こういうお仕着せの仕事に嫌気がさしてTVに移ったとか、鈴木英夫のやっつけ仕事の最低作とか批判されることが多い。しかし先に書いたような時代風俗的な面白さを差し引いても、プログラムピクチャーとしては及第点だと思う。ラストの、シネスコ画面にホテルの窓が二つ並び、パッと電気が消えてエンドマークが出るなんてかなり洒落た趣向で、そんなにやる気がなかったとも思えないけどね。

そもそも本作は1966年から始まる『落語野郎』シリーズ(全四作)の姉妹編として企画され、『落語野郎』が主役がその都度変わる時代劇であるのに対し、こちらは晴乃チックタックが主役の現代劇で、シリーズ化も予定されていたとのこと。東宝の流れ的には明らかにクレージーキャッツの『無責任』シリーズから始まる現代サラリーマンコメディの系列であり、鈴木が『その場所に女ありて』を発表した同じ年に明暗を分けた因縁があるわけだが、それを職人的に割り切って、いかにも東宝サラリーマンコメディらしいプログラムピクチャーとして仕上げたのはやはり凄いことだと思う。本作が興行的に成功していたら、きっとシリーズの監督として二作目、三作目と任されていたと思うのだが、そうならなかったのは、その頃すでに東宝サラリーマンコメディが下火であったからだろう(そもそも日本映画自体も下降していた)。

晴乃チック・タックの主演作は結局この一本で終わり、1969年にコンビを解消する。ちなみに1970年生まれの私はこの落語家コンビをまったく知らない。鈴木英夫はこのあとTVドラマ方面に進み、『恐怖劇場アンバランス』や『傷だらけの天使』などで少しは名を残すも、劇場用映画に復帰することなく2002年に八五歳でこの世を去った。

<8/18(木) シネ・ヌーヴォにて鑑賞>

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