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「お世辞をいうのは、愛情のない証拠です。お世辞をいうぐらいなら、皮肉をいってあげた方が愛情です」(川島雄三)

2016-08-19

Kurobaku2016-08-19

[][]生誕百年 映画監督・鈴木英夫の全貌(於シネ・ヌーヴォ) まとめ

最後に総括的なことを書いておく。

『その場所に女ありて』のところでも書いたが、結局、鈴木英夫とは彼の好む、好まないに関わらず、サスペンスからコメディ、メロドラマ、ホームドラマ、児童ものまで何でも器用にこなす職人監督だと思った。東宝の、当時の多くの監督がそうだったように、映画作家として好きな企画を自由に撮られる立場にはいなかったように思う。

再評価された90年代にはサスペンス/スリラー映画の優れた作家として掘り起こされたようなので、それまで鈴木監督の作品をほとんど見ていなかった私は、今回サスペンス/スリラーもの的色合いを持つ作品を中心に選んで見た。しかし、ざっとまとめて見た上での感想だが、その系列の作品でも私には出来不出来が激しいように思われた。なので、正直、鈴木監督が本当にスリラーを積極的にやりたい、とか、サスペンスにこだわっている、とかいったことは私にはよくわからなかった。

さらに日本のサスペンス/スリラー映画の中でも、とりわけ鈴木監督独自の演出がズバ抜けて個性的だとか優秀であるとか、いう風にも感じられなかった。ネットのどこかで読んだ話によると鈴木監督が最初に評価されたのは監督第2作の『蜘蛛の街』(大映1950)ということらしく(今回上映なし。ぜひ掘り起こして上映してほしい)、彼の出発点がサスペンス/スリラー映画なのは間違いないが、それにしても作家として独自のカラーが出るにはもう少しサスペンス/スリラー作品の撮る本数が必要だったように思われる。優れたサスペンス/スリラーの作り手というにはあまりにも他ジャンルの挟雑物が多すぎた(まあ、中川信夫のようにフィルモグラフィーに数本しかなくても怪談映画の巨匠になってしまう場合もあるが)。

そういえば彼のフィルモグラフィーの中でもおそらくベストだと思われる『その場所に女ありて』はハードボイルドタッチではあるが、サスペンスあるいはスリラーなのかといえば、ちょっと首を傾げる。ただこれは今見ても驚くほど面白い傑作であり、このクラスの作品を何本か残していれば、もうちょっと評価も早く、自由に好きな企画も通せたと思うのだが、当時黙殺されてしまったことははなはだ残念なことである。

かように不遇な映画監督という印象が強い鈴木英夫だが、今回彼の作品を飽きずに見ることができたのは、その作品のほとんど全てに懐かしい50〜60年代の日本の情景が印象的に挿入されていたからである。『花荻先生と三太』の山奥の学校、田舎バス、河を渡す鉄橋。『彼奴を逃がすな』の黒煙をあげて走る汽車、駅前の小さな商店街、ちんどん屋の巡業。『目白三平物語 うちの女房』の下町の商店街および八百屋のやり取り。『脱獄囚』の雑木林に囲まれた静かな住宅地、注文取りの豆腐屋さん…などなど。また『魔子恐るべし』の戦後7年目の新宿周辺からはじまり、『その場所に女ありて』の銀座界隈、『やぶにらみニッポン』のオリンピック前であちこち工事中の街など、戦後の高度経済成長で発展していく東京の記録として見ることもできる。鈴木監督の作家性としてはサスペンス云々より、むしろこちらの方を高く評価するべきかもしれない。

実際、鈴木作品は製作当時を舞台とした現代劇がほとんどであったし(ひょっとして時代劇はない?)、ロケーション撮影を効果的に使いつつ、セット場面と区別がつかない演出が巧みなように思う。最近私は古い日本映画をよく見るようになったが、鈴木監督ほど当時の日本の情景を意識させる監督もいないような気がする。『その場所に女ありて』の屋上場面を当時の銀座の地図と引きあわせ、ヒロインの勤めていた広告代理店の位置を調べてネットに公開している人を見つけたときは、何かそうしたくなるような気持ちがわかるような気がした。今後は「ロケーション撮影の名手」という視点からも語られてほしいところである。

それにしてもマイナーな監督なので、映画ファン人口の多い東京では採算がとれても、関西ではさほど動員できないのではないか、と少し心配した。しかし私の見たところではけっこう客の入りはよかったように思った。特にフィルムセンターから借り出した『非情都市』はたった二回きりの上映だったので、補助席を出すほどの混雑ぶりであった。鈴木英夫特集の第二回がもしあれば、今度はメロドラマの方面にもチャレンジしたいと思う。

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