妄言銃

2017-04-22 眠る狼

[]グレン・エリックハミルトン著 山中朝晶訳 『眠る狼』


「帰ってきて欲しい」


故郷を捨てて軍人になり、世界各地の最前線で戦ってきた主人公バンさんの元に育ての親であった祖父ドノから手紙が届いた。

アイリッシュゲール語で書かれたその短い手紙から、ドノのただならぬ様子を感じ取ったバンさんは、10年ぶりに故郷へと舞い戻る。

だが古巣へと戻ったバンさんが見たのは銃撃されて倒れ伏したドノの姿だった。


誰じゃあ!どこの外道がやりよった!?


ドノはこの道40年のプロフェッショナル犯罪者

それだけ長く犯罪者を続けられているという事は当然のように慎重で用心深く、狡猾でヤバいヤマは踏まないということだ。


ドノの隣人たちも、彼の事は偏屈だが折り目正しい大工としてしか知らない。


そんな祖父が撃たれた。


おそらくは顔見知りの犯行


ドノの仕事仲間、酒場の共同経営者犯罪者、彼が関わっていたヤマ。


その何処かに答えがある筈だ。


祖父からみっちりとプロの心得を教え込まれ、戦場で鍛え上げられた主人公バンさんのアイリッシュ怒りの大追跡が始まる……!!



物語過去現在を行き来して

祖父銃撃犯を追う現在バンさんと

ドノに育てられた少年時代バンさんを交互に追う。

またこの回想シーンがいいのよね。


絵に描いたような”ザ・愛情にあふれているが不器用な男”と”最初は戸惑いつつも、愛情を受けて彼を慕う孫”の関係が色んなエピソード描写されるのだ。




タイトルの『眠る狼』っていうの読んだときにね


「まーた、肉食獣が寝たり寝なかったりする系のタイトルかよぉ〜ホントこのジャンル主人公を狩猟動物に例えたがるよなぁ〜〜」みたいなことをね、ちらっと

ホントにちらっとよ!? 思ったの。


だけど頭を撃たれておそらくは目覚めることのない昏睡状態にある祖父気遣いつつ

知ることのなかった彼の10年を追うバンさんを見てると「もう、このタイトルしかない」ってなるのよね。

原題は『PAST CRIMES』(過去犯罪)っていうらしいからこっちも渋いんだけど、わたくしこの邦題好きだわ。イカス




主人公バンさんが肉体的に超強いアフガン帰りのレンジャーであるにも関わらず

あっという間に古巣の都市に順応して、社会を敵に回さない狡猾ムーヴしか取らなくなるのも面白かったです。


マンションの駐車場の何処かに、犯人が追跡ビーコンをつけた車が停まってる筈で、俺は部外者だけどそいつを探さないといけない!

って状況でバンさんが取り出すのは手のリハビリ用ゴムボールだ。

で、ゴムボールを車の下に転がしてから這いつくばって車を調べだすのよね。


通りかかったマンション住人が「こいつ何やってんだ?」って顔で怪しみだすとボールを拾い上げて爽やかな笑顔

「こいつが転がっちまってね」って即、言い訳するの。

怪しまれない!!

僕はこの手のプロが使うチープなトリックみたいなのの描写に弱いんだ……

2017-04-11 天空の標的

[]ギャビン・スミス著 金子浩訳 『天空の標的』


迸るジャンルへの愛と満載されたガジェットでわたくしを興奮の坩堝に叩き落としたミリタリーSF『帰還兵の戦場』の続編。


地球外生命体との戦争が続く未来の地球。

戦争を影から操る腐った権力者達の野望を阻止せんと絶望的な戦いを挑んだ主人公達。


攻殻機動隊』のバトーと『X-MEN』のウルヴァリンと『プレデター』が三身合体した様な不器用荒くれ帰還兵のジェイコブ。

元少女娼婦電脳内にエイリアンの”大使”を住まわせた超級ハッカーでもあり、どんどんミートの部分が無くなってハードコアなサイバージレットになっていくヒロイン、モラグ

ともすればモラグを崇拝している様に見える元戦闘航宙管制員のウィザード級老ハッカーでドルイド僧のアイコンを持つペイガン(杖型のデッキとか持ってる)

ジャンキーイカれた皮肉屋で誰と話しても怒らせるが絶対ぶれない元従軍ジャーナリストのマッジ。

作中最強クラスの戦闘能力を持ち、モラグに忠誠を捧げる元グルカ兵ランヌー。

廃都ニューヨークの支配者で元シールズの深海サイボーグ”バロール”(モラグとの関係も含めてこのキャラクターは『スノウ・クラッシュ』に出てきたレイヴンに似ている気がする。魔眼のギミックも含めて)

マンマシーンインターフェースでマシンと自分を接続したパイロットキメラ”の兄弟ギミーとバック


秘密結社カバルの野望を暴き、実行隊長のロールストン少佐とその部下グレイレディを地球から追い払う事に成功するも、多くの仲間が倒れ

超AIの神の誕生で地球圏の人類からプライバシーと機密が失われた。

”神”はネットワークに接続された全てを監視しており、人類に奉仕するため、人々の質問には全て回答するのだ。

一方シリウス星系に逃れたロールストンはもう一体の超AI”デミウルゴス”を用いて外宇宙の艦隊制御下におき、地球を狙う。


ジェイコブ達は最新鋭の圧倒的戦力を持つロールストンの”ブラックコードロン”に対抗するため、シリウス星系への潜入を決意するが……



サイバーパンクで始まって世界をめぐり、電脳空間を疾走して軌道エレベーターを駆け上り、ついに外宇宙まで飛び出した物語の次の舞台は

ディストピアと化した宇宙植民地。

更に強化された主人公、どんどん戦闘向きのサイボーグになっていくヒロイン、2体の超AIの激突を警戒して暗躍する”ネットワークの神々”

ジェイコブさんの義手の送り主が「ヌアザ」だったり、ブードゥー系のハッカーを導くネットワークロアがいたり、物語スケールがどんどんでっかくなる。


攻殻機動隊AKIRAに対する臆面もないラブコールにニッコリしていたら唐突に登場する戦闘用ウォーカー!どう見てもバトルメック!

とか思ってたらクライマックス艦隊戦では戦艦の艦上に次々とデストロイド・モンスターが上がってくる!これ、マクロスですよねええええ!!?



パワードスーツ!巨大ロボ!自殺教徒レジスタンス! 次々に飛び出る超かっこいいSFガジェット

そして「かっけー!」って盛り上がるわたくしに「遊びじゃねえから」とばかりに冷水をぶっかけ執拗なバイオレンス描写

主人公が戦う度に誰かの家族が死に、周囲にはどでかい被害が出る、彼等は正義の為に戦っているはずだが、怪物的なテロリストにも近づいていく。

ラスボスは「結局狂った人間が一番悪い」系の狂人であったが、陳腐な設定を成立させる凄惨不気味な描写が何度も何度も繰り返される。

残酷グロテスク凄惨で、読者を疑心暗鬼不安どん底に突き落とすハードコアな展開。

ジェイコブさんはモラグの事を誰よりも愛し、何よりも大切に思い、守りたいと思っているが、彼は暴力しか知らないサヴェッジ・スピーシーズなので

守られる側のモラグ意見を聞く、という行為は思いつかない。

責められるとすぐに切れて「それをいっちゃあおしめえよ」って事ばっかりいう。

まり不器用さ、クズっぷり、何度叩きのめされても立ち上がって暴力の限りを尽くすその様は『リーグ・オブ・エクストラオーディナリージェントルメン』のハイドや

『シンシティ』のマーヴを彷彿とさせる。


裏切りに次ぐ裏切り、長く続きすぎた海外ドラマ並に煮詰まりきった人間関係絶望的状況に計り知れぬ悪意。

だが、そんな最中でも前進を止めない主人公達の姿は段々とカッコよさをまして輝くのであった。


格好いいガジェットを思いつくままにしこたま詰め込んで、アクセル踏みっぱなしで突き進むと何が起きるのか。

地球圏全体を巻き込む惑星スケールの大破壊!デロデログチャグチャネメネメの敵!対話不能の狂気!哀しみ!愛!

よくもまあ着地できたもんだという静謐さすら漂うエンディング


どこから紹介すればいいんだかわかんなくなるくらい盛り沢山の内容で文章もとっちらかったけど凄く面白いのだ。

サイバーパンクSF好きな人は必見よ。

2017-03-11 おそれミミズク

[]オキシタケヒコ著 おそれミミズク


関西の何処か。

過疎化が進む小さな田舎町。

無茶苦茶怖がりな青年ミズキは、毎週座敷牢に囚われた少女ツナの元へと怪異譚を語りに通う。

彼をミミズクと呼ぶ座敷牢少女ツナは一体どんな素性を持っているのか

何故、囚えられているのか

何故怪談を好むのか

全てが謎に包まれたまま、この習慣は10年に渡って続いていた。


心身を擦り減らすこの奇妙な語り部を、ミズキは何故続けているのか。

慕情かはたまた友情か。

あるいは社会に馴染めぬ孤独青年依存に過ぎないのか。


拝み屋を探す奇妙な男が街に現れたのをきっかけに、全ての縁が収束していく。





文章も内容も丁寧で誠実なお話という印象だわ!

もちろん怖い。ホラーよ。

ミズキが集めた様々な怪異譚として披露される恐怖と

終盤の全てが明らかになった後に明かされる恐怖の毛色が違う(と思ったのよね)のが面白かったわ。


主人公が状況に翻弄される怖がりなので、京極夏彦百鬼夜行シリーズみたいな匂いちょっとする。

真実の断片が色んな所に散りばめられていて中盤以降一気にそれが収束していくのも推理小説っぽい読み口ね。

でもそこからもう一歩踏み込んでSFまで転がり込んでいくのが凄く楽しかったのだ。

謎が解かれた後の穏やかな読み口

「つまりこういう事だったんだよ。脅かしてすまなかったね」的な雰囲気からさらに一転して

「ほうら!これが君に話していなかったもう一つの真実さ!バア!」ってなるのもよかった。

陰鬱ホラーとして始まるんだけど、どろどろしたものがなくて無茶苦茶爽やかに終わるのもよい。

グッドブック。お薦めよ。

2017-03-01 マイルズの旅路

[]ロイス・マクマスター・ビジョルド著 小木曽綾子訳 マイルズの旅路

皇帝聴聞卿として訪れた人体冷凍保存技術が主要産業の星でいきなり拉致され、冒頭から薬物の幻覚に苦しみつつ広大な冷凍保存施設彷徨マイルズさん。

周囲には未来での復活を信じて冷たい眠りについている人々の列が数キロに渡って続いている……

いきなりキャッチーなホットスタートにぐっと来るわね!

悪いメガコーポ、陰謀邪魔者を消すために利用される広大な冷凍施設……そして眠り続ける人々の権利を利用した惑星の無血占領計画


超かっこいい背景設定で物語淡々と進み……そしてヴォルコシガン卿は静かに主役の座を降りる。


読者はみんな薄々覚悟していた展開がついにインカミングして、物語は大人ワールドへ踏み込んでいく。


マイルズさんは死なないけど、冒険小説主人公としての時代が終わりを告げたのだと感じたわ。

もはや彼は無能な跡継ぎではなく、帝国で最も有能な男であり、祖父に疎まれる孤独少年ではなく愛する妻と4人の子供を持つ父親であり、その肩に責任が伸し掛かるのよ。


次回はマイルズさんの母君コーデリア(作者の分身とも言われ、作中のヒエラルキーで最強を誇った無敵存在)が主人公お話が来るらしいけど

おそらく息子のシリーズが続いていた間持っていたコーデリアさんの無敵っぽさは失われるし、物凄い高圧のドラマが展開されるんじゃないかしら。

楽しみだけど、ドキドキするわね。

2017-02-26 裏世界ピクニック

[]宮澤伊織著 裏世界ピクニック


捻くれてて居場所がない大学生の紙越空魚(そらを)が廃墟探検最中に見つけた<裏世界>で行方不明の友人を探す美女、鳥子と出会う。

素っ頓狂な鳥子のペースに巻き込まれるまま、半ばカネ目当てで裏世界に潜り始める空魚だったが……


くねくね」とか「八尺様」とか「きさらぎ駅」とか「猿夢」とか「時空のおっさん」とかが出てくるのだ。

そして<裏世界>はそんな危険存在が徘徊し、人を襲い、『STALKER』みたいな捻れた時空による不可視の罠”グリッチ”a.k.a”アノマリー”が点在し、迂闊に触れたものを酷いことにする(ミンチとか)

だが、この世界でしか拾えないブツは好事家に高く売れるし、迷い込んだ軍隊が落っことしていったのか、銃なんかも割と落ちてる。


この領域踏み込み、無事に戻ってくることが出来れば儲かるのだ。なんてイカス舞台!!


死と危険と恐怖に満ちた不穏なワールド楽天主義ぼんやり顔とやたらに透き通った憧れと苛立ちと処理できない諸々の感情で駆け抜ける、グッドアドベンチャー

この世界観ゲームしたいわね。

シリーズで読みたいわ!

BoeqBoeq 2017/02/27 22:31 神々の歩方の作者が何か出してないかなーと1年毎に探してたらすんごいのを出してたというね。
キンドル来るのが楽しみ!