妄言銃

2016-08-25 弐十手物語

[] 小池一夫原作 神江里見作 弐十手物語

弐十手物語1 狼の睾丸

弐十手物語1 狼の睾丸

kindle unlimitedで定額読み放題になっていたので何気なく読み始めたら止まらなくなって全部読んでしまった。


連載開始時は主人公が別人だったり、明らかに二人の十手持ちを主人公にしたバディ物のつもりだった様に見えるが


途中で出て来た菊池鶴次郎のエピソードが決まり過ぎたせいか、はたまた予定通りの結果か主人公が交代する。(以後、前主人公は徐々にフェードアウトし、その行方はようとして知れぬ。


作品の前後は不明だが、他の小池劇画の展開と非常に似たシチュエーションが何度も現れる。何しろ25年連載、単行本にして110巻。


鶴次郎が満足のいく最後を遂げさせるために心を砕いた死刑囚の首をはねる男はどうみても首切り朝だし、囚人の首が落ちて終わるこのエピソードの展開もほぼ『首切り朝』だ

一人身の同心が悶々と過ごすうちに女盗賊と心を通じて夫婦になる展開も、やっぱり『首切り朝』にある。(河童の刺青がある女白波(おんなしらなみ)が出るところも共通している)

その女盗賊がいきなりつかまって磔獄門になり、主人公の心が壊れる展開は『春が来た』だ。

エピソード毎に増え続けるヒロインを次々と恋人にしていったら最終的に十指に余る女性と同居する羽目になるのは『オークションハウス

江戸時代という時代設定故に、決して逆らう事の出来ぬ封建主義最後最後に立ちはだかるのは『子連れ狼』だ。

(たぶん『御用牙』や『乾いて候』もあると思うんだけど読んでないのでその辺は曖昧にしてごまかします


だが、主人公のつるじろうさんは最終的に他の作品主人公が陥った絶望や死を全部回避して成長し続ける。


鶴次郎が最初に心を通じた女白波は彼の目の前で愛を叫びながら無残な最期を遂げ、小賢しい新米同心だった鶴次郎は打ちのめされるが

鶴次郎は彼女面影を心に抱き、すごい勢いでレベルアップする。

罪を憎んで人を憎まず、自らの命を江戸の人々を不幸から救うことに捧げ、どんな危険立場に追い込まれても「よし、死のう」とばかりにアクセルを踏み込む。


隆慶一郎作品の”いくさびと”と同質の強さがある。



話の展開は基本的にいつも同じだ。


事件が起き、それにかかわる悲しい女達が鶴次郎の前に現れ、敵対したり救いを求めたりする。


鶴次郎は「よし、私の命を上げよう」と全力で相手を救おうとするのでヒロインは全員べたぼれになる。


オークションハウス』では同じパターン主人公リュウ・ソーゲンに惚れたヒロインが全員同居し、お互いに煮えたぎる嫉妬心を抑えられないので

月に一回、全力で喧嘩していい日を設けてフラストレーションを発散していた。


だが、流石のリュウ・ソーゲン辟易したのか女達全員を集めて汽車で乱痴気騒ぎを繰り広げた挙句「時には全てを捨てて旅に出たいこともある…」

とカッコよく言い残して女達の乗った列車を切り離し、一人湖に突っ込んで(正確には違うのだがややこしいので省く)自殺を試みたりした。


ところが鶴次郎はあまりにも凄まじい人格者であるため、彼に惚れた女達は喧嘩をしない。

「お互いの為に命を使い、死んでも共にあると決めた仲」なのでひたすら仲が良く献身的だ。

5秒目を離すとすぐ新しいヒロインをひっかける鶴次郎を怒るどころか、「それが旦那様…」とナンパの手伝いをしたりする。



初期の頃は救ったヒロインは大抵話の最後幸せを感じながら死んでいた。

まり連続ヒロイン死ぬので鶴次郎についたあだ名が”死神である

わたしは本当に死神なのかもしれない……」と泣きながら”凍て鶴”のポーズでどうしようもない悲しみを表現するのがお決まりであった。

なにしろ話の展開上クローズアップされたらほぼ死ぬ

登場エピソードを生き延びても油断はできない。

死ぬ前に別れたらそれっきり行方知れずになってなんとなく死んでるっぽい扱いから、死んだことにされちゃったパターン

島送りになった先で鶴次郎を待ち続けるモードに入り、これなら安全だろうと思ってたら再度島が舞台になった時には病死していたパターン

忘れられた頃に再登場してなんとなく巻き添えで殺されるパターンもあった。

流石にいくら何でも生き残らなさすぎだと思ったのか、いつの頃から一定数のヒロインが生き残り、時折数人が死んで新しいヒロインが補充されるスタイルになっていく。


ここにきて

”出てくると絵面が面白い”(3人姉妹放火魔背中不動明王の刺青がある)

”有能である”(幕府隠密のくノ一)

権力がある”(吉原の元締め)

”単純に戦闘能力が高い”(作中最強クラスの武芸者)等の特徴を持つヒロイン達はある程度長生きをするようになったが

小池劇画の特徴は安定した人間関係をぶち壊して怒涛のクライマックスに流れ込む情け容赦のなさである

敵が巨悪であるパターン権力タイプのヒロインは死に

パワーレベルがどんどん上がってきて柳生烈堂の孫みたいなヒロインが参入した時点で武芸者ヒロインも枠被りから死亡した。

誰が死んで誰が生き残るか全くわからない地獄ヒロインレースも見どころの一つである


なにしろ油断してるとさくっと心臓に短刀が刺さって死ぬので、1ページ抜かしただけで人ひとり消えることがあるのだ。



さて、そんなヒロイン達の屍山血河を築きながら歩き続けた結果、臆病でスケベなへっぽこ同心は無敵の聖人へと成長する。


ヒロインをたぶらかす度に追加される権力


彼の女達への共感献身に、感動した吉原の忘八やくざものは鶴次郎の為には命も投げ出すようになり

幕府の隠密も頭領が鶴次郎の妻なので彼が「やりなさい」って呟いただけで陰からWizardry』のマスターニンジャみたいなのがシュバババッ!って現れる。

江戸市中の市民や夜鷹達も勿論味方なので、事一朝事あらば大名屋敷に火のついた松明をボンボコ投げ込むくらい朝飯前だ。

8、9代将軍も鶴次郎を最大の親友として扱い

水戸黄門とも”つるさん”、親分と呼び合う仲。

果てはどう見ても柳生烈堂(子連れ狼ラスボスだ!)みたいな爺も鶴次郎に「柳生は任せた…」とか呟いて腹を切っちゃったので

100巻過ぎ辺りになると鶴次郎が「やりなさい」って呟いただけで御庭番と虚無僧姿の柳生暗殺剣士が1ダースくらい敵を取り囲む。

将軍以外男子禁制、立ち入ったら死罪は免れぬ大奥フリーパスで入り込んで普通にでてきたりする。時代劇なのに!


こんなのに絡まなきゃいけない悪党の方が不運だ。




勿論、楽にここまで来たわけではない。

十手に全てをささげた鶴次郎は、仲間の奉行や同心、果ては幕府の大物や次期将軍が腐敗して汚職をしたり辻斬りをしたりする現実を前に何度も十手を捨てようとする。


ここで実際に捨てちゃって死に場所を探す無敵モードに入ったのが『春が来た』の鯉太郎兵衛であった。


だが、鶴次郎さんの人間的器は異様なまでにでかいので、絶望的な状況下でも命を捨てて正論を吐きまくり、自分を殺しに来た隠密を女房にしちゃったりする。


恐れ多くも八代目征夷将軍のあたまを2、3発どついて説教したりするので絶対的身分制度も木っ端微塵だ。


口を利いたら魅了される、魔物の如き人たらしなのだ





さらに特筆すべきは25年の連載中に次々と死んでいったヒロイン達の扱いである


連載中盤頃までは鶴次郎の言う「私には死んでいった妻たちが憑いています…」というのは


ハードボイルド的な意味での決め台詞であった。


だが、陰陽師や天竺の怨霊と戦ったりする超自然要素がしれっと登場するようになり、運を天に任せるしかない状況では


死んだ妻たちが助けてくれたかの如き演出が用いられるようになる。


まり偶然矢がそれたり、毒の入っていない方の酒を選んだり、命を懸けたサイコロ博打にあっさり勝利したりだ。


その演出とセリフが多用された結果、70巻ごろから鶴次郎を見た坊主山伏がガクガク震えて畏怖の言葉を吐く演出が現れる。


「なんという数の霊を背負っておるのだ……」


やがて水面に映った鶴次郎の周囲に異形の影がうごめく様になり


彼の背後で泣きわめいて渦を巻く人の姿を失った妻達が描写されるようになった。


この辺りの絵面はホントにかっこいい。


自分で殺しておいて鶴次郎に殺人の罪を擦り付けようとした同僚に対して

あなた、影が4つありますよ。殺した人の影がついています」と言い放つ鶴次郎のパワーレベル夢幻紳士匹敵する超人度だ。


そして90巻を超えたあたりでついに死んだ妻たちが実体化を始める。


鶴次郎に放たれた矢を跳ね返し、海に落ちればこれを引き上げ、雷をそらし、呪詛を跳ね返す。


ついには大奥女中達に憑依して鶴次郎を匿うまでになり、ここに至って


隠密と柳生と忘八を配下にしたうえ死霊自在に操る

ネクロマンサー南町奉行所定廻り同心、という『天下繚乱』みたいな生命体が完成する。


生死を超越した彼岸に立ち、彼の言葉を無視した悪党は大抵非業の最期を遂げる。


最早くだんか、ヒトコトヌシかってレベル神話存在に足を突っ込んでいる。


「生まれてきた以上は使命があるから、そのために生かされている」と常々口にする鶴次郎は自らを支える神話ルール意識的であるように見える。


ジョーゼフ・キャンベル先生の『千の顔を持つ英雄からパクって言えば、召命に対して抵抗せず、全てを差し出すが故に全てを得る英雄


物語の大波に逆らわず、モチベーションやよって立つ設定の喪失すら恐れぬが故に波を乗りこなすことができる、そういう類のマンだ。


第一部(110巻やってやっと、第一部完なのだ!)終盤の鶴次郎は他者に対して「悔い改めなければ死ぬ」「助かりたければ捨てるしかない」などと預言者の如き言動を見せており、キャラクターを立て続けた結果


あらゆる物語を制すまでになった凄みがある。



そういえば『子連れ狼』の終盤に、自分愛人を次々と刺客に放ったり、盾にしたりで使い捨てにする悪役公儀御口唇役、阿部頼母という怪人が出てきたけど


鶴次郎は正邪反転した阿部頼母っぽくもある。

なにかっていうとすぐ愛人と一緒に服脱ぎ始めるところとか。





ここまでストーリーの話ばっかりしてきたけど、絵の話もしたい。


なにしろこの漫画は絵が凄い。


子連れ狼を読んだとき、その絵面のカッコよさに「ハァー、こりゃ流石にフランク・ミラーリスペクトするだけの事はあるぜ小島剛夕せンせい……!」って思ってたけど


神江里見先生の絵も無茶苦茶かっこいい。


特に隠密と柳生が登場するシーンはカッコよすぎて(これ、絶対パクろう)って握り拳を作るくらいかっこいい。


時と共に冴えわたる筆致は流れるような線を描き、踊るが如き画面が展開する。


そして僕は何かを思い出す。


ふ……フランク・ミラーの絵そっくりだ……


髪も眉もそり落としたくノ一、襲い来る爬虫類の様な人斬り、とどめは”暗所に目を慣らしておくための木眼鏡”を着用した風魔忍軍の登場である


僕はこの人たちを見たことがある。


バットマンダークナイトリターンズ』と『シンシティ』で……!!


この辺、どういう影響と因果関係なのか非常に興味があるわね。


神江里見先生の絵がアメコミじみてくる時期は単行本の80巻辺りから


1978年から2003年まで続いていた連載なので単純計算しても90年代末ごろ。


フランク・ミラーは『子連れ狼リスペクト公言しているから、同じ作者の最長作品である弐十手物語』を読んでいないはずがない。


だが、『ダークナイトリターンズ』は86年の作品でその続編『ダークナイトストライクス・アゲイン』は2001年



たぶん、何らかの交流があったのではないかと勝手想像するけど実際のところはどうだったのかしらね




90巻超えたあたりの面白さに悶絶して海老反りになったのでついつい興奮して長文書いちゃったわ。

2016-08-03 暗殺者の反撃

[]マーク・グリーニー著 伏見威蕃訳 暗殺者の反撃

コートランドジェントリー。元CIA非合法部隊通称”グーン・スクワッド”所属工作員

コールサインは”シエラ・シックス”。

暗号名:ヴァイオレーター。

またの名を”グレイマン”(誰でもない男)


凄腕の非合法工作員だったグレイマンさん。

だが、ある日身に覚えのない罪で彼の住居をチームメイト達が襲撃した。


発見次第射殺命令


まりにも苛烈運命が彼を襲ったがグレイマンさんは何しろ凄腕なので襲ってきた凄腕のチームメイトの大半をぶっ殺して闇に消えた。

影の世界にその名を轟かせる暗殺者”誰でもない男”の伝説の始まりである


グレイマンさんは愛し、忠誠を誓った母国脱出し、フリーランス暗殺者として活動を始める。



恩人に裏切られ

ロシアンマフィアを壊滅させ

独裁者を拉致

うっかり人助けを我慢できなくて麻薬カルテルを敵に回したり

CIAのキラーエリートに付け狙われたりする。


毎回毎回、ズタボロになり、傷が原因の高熱にうなされ、応急手当と仮眠だけでHPを無理矢理回復して悪を倒す。


そう、グレイマンさんはグッド属性暗殺者なので悪党しか狙わないのだ。

殺す相手は彼が悪党と認めたワルだけだ。

おいおい、マジかよ。21世紀にそんなシンプル独善成立するのかよ。

無論しない。


敵はみんなグレイマンさんのグッドガイ主義をちくちくちくちく突く。

恩人の孫娘を誘拐して裏切らせたり

口を利いただけの市民誘拐して彼をおびき寄せたり

そもそもお前の正義って都合よすぎるよな?お前は独善的で滑稽なカウボーイだぜ?と

嫌味を言いまくってグレイマンさんの心を苛んだりする。



グレイマンさんはシンプルアメリカ人だ。


アメリカ理想正義を信奉している。


非合法工作員要求される技術は全て習得しているし、バックアップなしのたった一人でも作戦遂行できるスーパースター級のエージェントだが政治的な事はあんまり考えてない愚直マンだ。


だが、そんな愚直マンシンプル理想だけをぶん回してあらゆる罠を潜り抜けてジリジリと陰謀真相に迫っていくところが最高にかっこいいのよね。


2巻以来の再登場となる好敵手、元”グーンスクワッド”上官のザック・ハイタワーさんや上司のマット・ハンリーも登場してついに謎が明かされる第五巻。


『ボーン・アイデンティティー』で始まって『コールオブデューティー・モダン・ウォーフェア』を経由し、『ヒットマンコード47』に着地した感がある。

(作中で遊ばれてたゲームメダルオブオナーだったけど)


20年会ってない父親CIAの手が伸びるのを心配したグレイマンさんがシャツジーンズキャップを被ってピックアップトラックを運転し、地元の農夫っぽい恰好をして故郷に帰るシーン

”誰でもない男”として世界中のありとあらゆる人種身分職業偽装をこなしてきたが、アメリカ人の役は初めてであり、居心地が良かった”みたいなモノローグがお気に入りです。


シリーズは新展開で続刊するらしいのでのんびり続きを待つわ。

2016-07-05 想像力の帝国

[]マイケルウィットワー著 柳田真坂樹,桂令夫訳 最初RPGを作った男ゲイリー・ガイギャックス〜想像力帝国

D&Dの生みの親、世界初RPGデザイナーにしてキング・オブ・ぼんくら、ゲイリー・ガイギャックスおじさんの伝記。

子供の頃からイマイチ社会に馴染めず、想像力逞しく、冴えない感じの少年だったガイギャックスおじさんが(でも徒党を組んで喧嘩したり親の車を無断で乗り回したり海兵隊に入ったり19歳で結婚したりはしてる)

狂った様にゲームを遊び、パルプ雑誌に耽溺し、そしてまたゲーム遊び、ゲームコミュニティーの中心になり、そこから生まれてきたアイディアをまとめ上げてついにはRPGという遊びを作り上げ

それによって世界エンターテインメントのあり様を変えてしまう話。


まーあ、妻子があるのに寸暇を惜しんでゲームして切れた妻が浮気を疑い、ゲーム会場に殴りこんでくるわ

ゲームに熱中しすぎて会社の設備同人誌(意訳)を作ってクビになるわ

娘のボーイフレンドまで次々とキャンペーンに引きずり込むので、娘と別れた後も元ボーイフレンドが頻繁に家に来るわと

三千世界に響き渡るぼんくらムーブアクションの数々。

一発当てた後にD&D映画化企画を進めるためハリウッド移住し、金に糸目をつけずに1流プロデューサーや監督に依頼して周り

コカインをキメて女優志望の美女達をはべらせ、どでかいダークブルーキャデラックナイトクラブハシゴする段に至っては最早

スゲエ……すげえよゲイリー……映画に出てくる”事業で失敗する人”みたいだよ!って感動に打ち震えるしかなかった。

その後、不仲だった共同経営者の離反で社を追われる所まで完璧すぎる。


ゲイリー・ガイギャックスという人はRPG大好きマンであるわたくしにとってとにかく偉大なデミ・ゴッド枠の人なんですが

同時に彼の作った初期のダンジョンモンスター、彼の家に集ってD&Dプレイしていた人々の語る逸話苛烈極まるダンジョン(恐怖の墓所)の罠を避ける為、プレイヤー達が牛を買ってパーティーの先頭を歩かせた)

そして『D&D Online』でゲイリー・ガイギャックス謹製ダンジョンマスターナレーションもゲイリー本人!

と謳って実装されたダンジョンあんまりプレイする人のことを考えない難易度雑魚が皆ダメージ抵抗持ちでラストにわんさと出てくるブラックスケルトンを殴り続けた前衛武器はみんなへし折れる)

からして、「これはもしかすると相当ぼんくらな人なのでは……」という印象(馴れ馴れしくはあるが”親しみ”、と言い換えても可)を抱いていた。

この本読むと割と寸分違わずその通りというか、イメージがさらに補強されたわ*1

面白かった。

*1:ところで作中でガイギャックスが友人達と会話をするシーンになると口調が全部翻訳者桂令夫さんの喋りそのままなのが無茶苦茶面白かったです。つまりそれはD&D日本語版プレイヤーにとってはルールブックでお馴染みのあの口調ということなのだ

2016-05-17 『帰還兵の戦場』『ラスト・ウィンター・マーダー』

[]ギャビン・スミス著 金子浩訳 『帰還兵の戦場』


三ヶ月連続三部作連続刊行第一弾。(調べたら三部作じゃなくて三分冊だった)

遥かな未来。『スターシップ・トゥルーパーズ』よりちょっと先くらいの未来

人類は外宇宙に進出し、活動の場を銀河系外にまで広げていた。

だが、シリウス星系で出会った異星起源存在

コミュニケーション不能、共存不能の人類絶対殺す星人との間で宇宙戦争が勃発し

その戦争は長引き、人類を疲弊させ、地球はサイバーパンクSFによくある感じのディストピアと化した。


主人公の元特殊部隊員ジェイコブさんは最前線帰りの重サイボーグであり


不名誉除隊となった後は故郷のスラム街(廃棄された会場プラットフォームを利用して作られている)で酒と煙草と仮想現実に溺れながら日銭を稼ぐどん底の日々を送っていた。


そんな彼の元にかつて彼を切り捨てようとしたいけ好かない上官が現れて特殊任務要求する。


「軌道警戒網をすり抜けて地球に降下した異星体のスパイを探しだせ」


売春窟の奥深くで首尾よく標的を見つけ出して破壊しようとする彼の前に一人の少女娼婦が身を投げ出し、それが「大使」であること。平和最後希望であることを告げる。


ジェイコブさんは彼女を信じた。


かくしてジェイコブさんと少女娼婦ラグ、異星の大使は苛烈極まる政府権力から追われる逃亡者となった。


手段を選ばぬ恐るべき追手を逃れ、彼等は行く先々に厄介事を振りまく疫病神としてロードムービーを展開するのだ。



というのが基本のあらすじなんだけどもこの作品のすごい所はここじゃない。



ガジェットよ!!



オマージュよ!!


臆面もないパスティーシュよ!!

パスティーシュって言葉は初めて使うからあんまり自信がないけど後でググるわ。ひょっとしたら投稿した時にはてなキーワードで解説出るかもしれないし!!


まず主人公の帰還兵ジェイコブ(ジェイク)・ダグラス軍曹の造形から


彼は宇宙の最前線帰りの元特殊部隊員であり、当然の事の様に物凄くバッキバキにサイバーウェアで強化されている。

彼の掌にはスマートリンクコネクタが埋設され

からプレデターのプラズマキャノンみたいな半自立型のレーザーキャノンポップアップ

両手の甲からウルヴァリンみたいな強化セラミック製の4本ブレードが飛び出す。プレデターも爪で戦うけどあっちは2本なのでウルヴァリンモチーフであってると思う。

鋼化神経により反応速度は限界まで高められ

両目は黒いレンズ型のサイバーアイに換装されている。赤外線視覚と、視界内ディスプレイ、スマートリンク制御機能等がある。

皮膚科装甲が埋め込まれた肉体は黄褐色の装甲レインコートで包まれ

砂色の髪を後ろで短いポニーテールにまとめている……ってそれ首から上は『攻殻機動隊』のバトーですよね?


お砂糖スパイス、男の子の好きなものい〜っぱい煮詰めたら強力無比でハードボイルド主人公が出来上がった感じ。


まりに強力な戦闘能力故にインプラント機能制限されており、依頼を受けるのと引き換えにそれを解除してもらえるって始まり方は


サイバーパンク好きには非常に馴染み深いあれよ。『ニューロマンサー』の主人公ケイスよ。


任務終了後に地球に捨てられてスラムを彷徨いている重サイボーグっていうのは

エリジウム』のM・クルーガー(役名)や『JM』のドルフ・ラングレン役者名)*1と同種のアレね。『エリジウム』は2013年映画から2010年に書かれたこっちのほうが先だけど。


シリウス星系(「なんか外宇宙」くらいの認識)での戦闘から戻ってきたという事は多分、オリオン座の肩の近くで炎を上げる戦闘艦や暗黒に沈むタンホイザーゲートのそばで瞬くCビームも見てそうなので

ブレードランナー』のルトガー・ハウアーみたいな経験もしている。


あとタイ系の母親から習ったムエタイも使う。

スラムから始まるサイバーパンク主人公が”ジェイク”って名前だと僕はSFC版の『シャドウラン』を思い出して勝手に嬉しくなる。

作中で本人は「”ジェイク”と呼ばれるとアメリカ人みたいな気がするから嫌だ」って言ってるけど。

ジェイコブさんは元SASなのでイギリス人だ。




そんな彼が耽溺する仮想現実は法外な接続料金を取って一定時間望みの幻を見せてくれるスタイル


ここまで技術が進んでいるのならそういうのはオンラインか埋込み型のチップになりそうなものだけど、仮想現実ルーム描写


受付で金を払ってブースに入り、中で寝台に寝て自分ジャックに結線するスタイル


なんかこれどこかで見た感じだな……『ハードワイヤード』かなあ……って思ってたら


いけ好かない元上官が主人公を脅すためによこした監視役、軍在籍時代から処刑人として特殊部隊員達から恐れられていた女スナイパー”グレイレディ”ジョゼフィン・ブランの登場で


Avalon 灰色貴婦人』のオマージュに違いない!って思うようになりまんた。


女スナイパーでコードネームがグレイレディで、名前がジョゼフィン・「ブラン」*2


これだけ要素が揃うと押井守監督映画Avalon』の主人公伝説ソロプレイヤーにしてスナイパーのアッシュを思い出す。


イギリスから始まる話なのでアーサー王伝説をモチーフにしてるのはおかしくないんだけど彼女の外見が「どこにでもいるような平凡な姿に整形したという噂もある」って書いてあるのよね。


攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』の主人公草薙素子少佐と『Avalon』のアッシュの外見はだいたいおんなじであり、草薙素子はわざと目立たない普及型義体の外見を使用しているって設定があったから多分間違いないと思うわ。


本作の”グレイレディ”は感情が読めないわ、主人公死ぬほど怯えさせるわ、目撃者は呼吸するかのように殺すわ、最初狙撃がいきなり衛星レーザーだわで


ソロプレイヤーってよりはポストヒューマン処刑マシーン*3みたいな感じね!



そして色々大盛りの主人公達が動き始めると、今度は物凄くサイバーパンクRPGみたいな展開になってくるのだった。


ダグラスさんが殴りこむ酒場の客達。


刀を携えた「企業剣士」のサラリーマン

ストリートネームを名乗るブースギャング若者

トーキョーN◎VA』か『トワイライトガンスモーク』かって雰囲気

「大使」の声がモラグには聞こえてダグラスさんには聞こえない理由

「肉がほとんどないからエッセンスが削れ過ぎてるってこと?『シャドウラン』なの?

ネットの神々への言及

仮想現実上の聖堂、狂ったハッカーが説教する教会。

腐った都市を出て郊外のタウンで暮らす人々。いい感じに汚染された環境と折り合いをつけ、自然派の暮らしを営む。

そこを襲う権力ウォーカーマシン!

メタルヘッド』っぽい!


唐突に現れる強敵武器はモノフィラメントウィップ!

マシンと結線して制御するパイロット達は「キメラ」って呼ばれている。かっこいいネーミング。


そして物語は、水没し海賊都市と化したニューヨークへ。



帯には”英国冒険小説系譜を継ぐ迫真ミリタリーSF!”って書いてあるけどわたくしはサイバーパンクだと思いまんた。


おっと、何がサイバーパンクで何がSFでどこに埋没したジャンルかなんてジャンル分け定義戦争は御免よ!


こういう『トーキョーN◎VA』で遊びたいなあってゲーマーが思うようなイカスお話くらいの意味よ!


ずらずら並べた作品タイトル群が好きな人はきっと楽しく読めると思うわ!



わたくしはすっごく好きです。


あと、表紙イラストかっこいい。

[]バリー・ライガ著 満園真木訳 『ラスト・ウィンター・マーダー』


シリアルキラーエリート教育を受けて育った全米最悪の殺人鬼の息子が、父親を追う。


行方不明母親果たして生きているのか。


連続殺人の裏に見え隠れする共犯者”みにくいJ”とは誰なのか。


謎が謎を呼び、急転直下の展開を見せる三部作完結編。



とんでもないぶった斬り方で終わった前巻の直後から物語は再開し、最初からトップギアで突っ走る。


前回僕を戸惑わせた登場人物達のホルモンに惑わされた愚かな行動も減り、物語は謎の解明と主人公ジャズ選択を中心に展開する。


心理的にも肉体的にも社会的にも追い詰められ、それでも追跡をやめないジャズは実に格好いい。


読み始めて一気に最後まで読める面白さであった。


どんでん返しもきちんと用意されて、期待を裏切らない作り。


でも何故かわたくしの心にはなんとなく釈然としない感情が残るのであった。はて。

*1:なんで表記統一されないかというと『JM』のドルフ・ラングレンは「『JM』のドルフ・ラングレン」としか言いようが無いと思うからです。役名で言うより「『JM』のドルフ・ラングレン」って言ったほうが発狂して牧師の真似をしてるターミネーター表現できると思うの

*2:『Avalonステージ内の撃破目標フラグとなる強力な標的である装甲攻撃ヘリMi-24ハインドの別名。大鴉(ブラン)。合ったら大体死ぬ無理目のボス映画版小説版共に”灰色貴婦人アッシュドラグノフ狙撃銃を使って単独でこれを撃墜する印象的シーンがある

*3:『エンディミオン』のラダマンス・ネメスを念頭に置いていたが冷静に考えたらあれは超AIの申し子でポストヒューマンじゃない気もする。非人間的で超越的なヤバい勢くらいの意

2016-04-27 亡霊星域

[]アン・レッキー著 赤尾秀子訳 『亡霊星域



「それが限界点になるんじゃないか?あくまで可能性としてはね。だったら艦船皇帝を愛するように最初から設計すればいいんだ」

中略

「三千年以上生きていれば彼女も変化する。死なないかぎり、誰だってそうだと思う。人はどれくらい変わって、どれくらい同じままでいつづけるのか?

自分が何千年かの間にどれくらい変わるかなど、その結果何が壊れてしまうかなど、予測しようにもできないのでは?なにか違うものを利用したほうがはるかに楽だ。

例えば、義務。たとえば、信念」


超弩級面白さと目新しさで色んなSF賞を根こそぎにした『反逆航路』の続刊にして三部作の第二部。


星間先制国家ラドチの皇帝アナンダ・ミアナーイ。

数千に及ぶ自らのクローンと並列化された意識を持つ超越者。

攻殻機動隊』の草薙素子が順調にクラスチェンジしていくと多分こんな感じのクリーチャーになる。

いつの頃からアナンダ・ミアナーイは2つに分裂し、争い始めた。


前巻で皇帝を付け狙い続けた主人公ブレクさんは、様々な事情から2つに別れた皇帝の片割れと協力関係になり、艦隊司令としてとある星系に派遣されるのであった。


皇族苗字を名乗り、更迭された前艦長の代わりにその椅子に座って現れた若きエリート


甘やかされた貴族ボンボンが偉そうに来やがってよぉ……と舐めた態度で対応する現地の偉い人は

相手が年齢2000歳オーバーで人智を超えた演算能力と戦闘能力を持ち、銀河帝国の勃興をその目で観てきた生き字引であり

愛と別離を知って人間以上に人間らしく、既知宇宙のあらゆるシールドをぶち抜く人類圏にただ一丁のエイリアン銃を携えたハイパーAI主人公であることを知らないのであった……


銀河帝国ラドチとその文化本体を失った戦艦である主人公と、その体である”属躰”の設定から割と噛みごたえがある感じだった前巻とはちょっと毛色が変わって凄く読みやすい。


登場人物は大抵みんな失ったものに苦しんでいたり、愚かで他人を虐げたりしているんだけど、物語的に限りなく無敵に近いブレクさんが凄い勢いでもつれた事情をぶった切って進んでいくので大変に痛快でございます


この面白さはビジョルド小説に感じていたものと同じなので当然ビジョルドファンであるわたくしはアン・レッキーファンにもなるのであった。わかりやすい!