妄言銃

2017-03-11 おそれミミズク

[]オキシタケヒコ著 おそれミミズク


関西の何処か。

過疎化が進む小さな田舎町。

無茶苦茶怖がりな青年ミズキは、毎週座敷牢に囚われた少女ツナの元へと怪異譚を語りに通う。

彼をミミズクと呼ぶ座敷牢少女ツナは一体どんな素性を持っているのか

何故、囚えられているのか

何故怪談を好むのか

全てが謎に包まれたまま、この習慣は10年に渡って続いていた。


心身を擦り減らすこの奇妙な語り部を、ミズキは何故続けているのか。

慕情かはたまた友情か。

あるいは社会に馴染めぬ孤独青年依存に過ぎないのか。


拝み屋を探す奇妙な男が街に現れたのをきっかけに、全ての縁が収束していく。





文章も内容も丁寧で誠実なお話という印象だわ!

もちろん怖い。ホラーよ。

ミズキが集めた様々な怪異譚として披露される恐怖と

終盤の全てが明らかになった後に明かされる恐怖の毛色が違う(と思ったのよね)のが面白かったわ。


主人公が状況に翻弄される怖がりなので、京極夏彦百鬼夜行シリーズみたいな匂いちょっとする。

真実の断片が色んな所に散りばめられていて中盤以降一気にそれが収束していくのも推理小説っぽい読み口ね。

でもそこからもう一歩踏み込んでSFまで転がり込んでいくのが凄く楽しかったのだ。

謎が解かれた後の穏やかな読み口

「つまりこういう事だったんだよ。脅かしてすまなかったね」的な雰囲気からさらに一転して

「ほうら!これが君に話していなかったもう一つの真実さ!バア!」ってなるのもよかった。

陰鬱ホラーとして始まるんだけど、どろどろしたものがなくて無茶苦茶爽やかに終わるのもよい。

グッドブック。お薦めよ。

2017-03-01 マイルズの旅路

[]ロイス・マクマスター・ビジョルド著 小木曽綾子訳 マイルズの旅路

皇帝聴聞卿として訪れた人体冷凍保存技術が主要産業の星でいきなり拉致され、冒頭から薬物の幻覚に苦しみつつ広大な冷凍保存施設彷徨マイルズさん。

周囲には未来での復活を信じて冷たい眠りについている人々の列が数キロに渡って続いている……

いきなりキャッチーなホットスタートにぐっと来るわね!

悪いメガコーポ、陰謀邪魔者を消すために利用される広大な冷凍施設……そして眠り続ける人々の権利を利用した惑星の無血占領計画


超かっこいい背景設定で物語淡々と進み……そしてヴォルコシガン卿は静かに主役の座を降りる。


読者はみんな薄々覚悟していた展開がついにインカミングして、物語は大人ワールドへ踏み込んでいく。


マイルズさんは死なないけど、冒険小説主人公としての時代が終わりを告げたのだと感じたわ。

もはや彼は無能な跡継ぎではなく、帝国で最も有能な男であり、祖父に疎まれる孤独少年ではなく愛する妻と4人の子供を持つ父親であり、その肩に責任が伸し掛かるのよ。


次回はマイルズさんの母君コーデリア(作者の分身とも言われ、作中のヒエラルキーで最強を誇った無敵存在)が主人公お話が来るらしいけど

おそらく息子のシリーズが続いていた間持っていたコーデリアさんの無敵っぽさは失われるし、物凄い高圧のドラマが展開されるんじゃないかしら。

楽しみだけど、ドキドキするわね。

2017-02-26 裏世界ピクニック

[]宮澤伊織著 裏世界ピクニック


捻くれてて居場所がない大学生の紙越空魚(そらを)が廃墟探検最中に見つけた<裏世界>で行方不明の友人を探す美女、鳥子と出会う。

素っ頓狂な鳥子のペースに巻き込まれるまま、半ばカネ目当てで裏世界に潜り始める空魚だったが……


くねくね」とか「八尺様」とか「きさらぎ駅」とか「猿夢」とか「時空のおっさん」とかが出てくるのだ。

そして<裏世界>はそんな危険存在が徘徊し、人を襲い、『STALKER』みたいな捻れた時空による不可視の罠”グリッチ”a.k.a”アノマリー”が点在し、迂闊に触れたものを酷いことにする(ミンチとか)

だが、この世界でしか拾えないブツは好事家に高く売れるし、迷い込んだ軍隊が落っことしていったのか、銃なんかも割と落ちてる。


この領域踏み込み、無事に戻ってくることが出来れば儲かるのだ。なんてイカス舞台!!


死と危険と恐怖に満ちた不穏なワールド楽天主義ぼんやり顔とやたらに透き通った憧れと苛立ちと処理できない諸々の感情で駆け抜ける、グッドアドベンチャー

この世界観ゲームしたいわね。

シリーズで読みたいわ!

BoeqBoeq 2017/02/27 22:31 神々の歩方の作者が何か出してないかなーと1年毎に探してたらすんごいのを出してたというね。
キンドル来るのが楽しみ!

2017-02-21 GET JIRO!

[]アンソニー・ボーデイン、ジョエルローズ著 アレ・ガルザ、ラングドン・フォス画、ホセ・ヴィラールビア彩色、椎名ゆかり訳『ゲットジロー!』

ジローを殺れ(とれ)!

美食の追求以外の全ての文化が死に絶えた近未来アメリカ


ロスアンゼルス(あるいは、それっぽいどこか)の街は敵対する2大ファミリー支配されていた。


無国籍に美味を追求するグローバル・アフィリエイトの企業家ボブ。

地産地消の自然追求派ホーリーフーズの菜食主義者ローズ

美食と流通支配する彼等に逆らえるものこの街には存在しない。


だが流れ者の寿司職人ジローが現れた時、危うい均衡は崩れさり、ストリートに血の雨が降る……!!


主人公ジローは美食を追求する事など出来ぬジャンクフード漬けの貧乏人達が住むスラム街(ホットドッグとかハンバーガーとかタコスの店ばっか)にふらりと現れると寿司屋を開いた謎のスシ・シェフ。


その腕前は筋金入り、あらゆる事にこだわり抜いたやつの店では天然の本マグロまで出す!

だが同時に気難しく、店でマナー違反を犯した客は瞬く間に包丁で首を跳ねられてしまうのだ。


寿司も美味いが、強さも凄い!角刈り入れ墨の謎の男!!


こだわり抜いてる割には人を斬り殺した包丁で普通に魚を捌いてたりするが細かいことは気にするな!!


見るから勘違いジャパンおもしろジャパンアメコミ臭を漂わせる『GET JIRO!』

だがこのコミックの恐ろしいところは原作者アンソニー・ボーデインというところだ。


アンソニー・ボーデイン!!

キッチン・コンフィデンシャル(新装版)

キッチン・コンフィデンシャル(新装版)


この本を書いた!レストラン業界の裏側と料理人という人種アウトローっぷりがたっぷり味わえるナイスブック!超面白かった。

(若き日の尖りまくったアンソニー仕事の後にTシャツジーパンパンクコンサートに行き、革ジャンとチェーンでキメたグルーピーから「そんなダサいカッコで来るんじゃねえよ」と絡まれて

「てめえらパンクの癖に制服があるのかよ!マジだっせーな!」って罵倒して袋にされるエピソードとか最高だった……この本に載ってたよね?)

そしてディスカバリーチャンネルの人気番組アンソニー世界を喰らう』で世界中を飛び回って珍しいもの、愉快なもの、そして何より美味しいものをかっ食らってみせた!

本人も凄腕の有名料理人だ!


当然ながら料理関係描写はやたら丁寧で、別に寿司職人でもなんでもない僕にはツッコミを入れることはできなかった。

(鰻だか穴子だかを捌いて、煮たり蒲焼きにしたりする手順抜きに握ってた事に今気づいたけど、別の理由を探して褒めるのが面倒くさいので気にしないことにします。演出の都合かもしれないし、多分素人にはわかんない理由がある。うん。)

なにしろジローの店で醤油皿にワサビを溶いたり、ご飯部分を醤油にひたしたり、カリフォルニアロールを頼んだりすれば命がない。


箸を使っただけでジローは舌打ちをする。厳しい。厳しすぎて多分日本人でも7割位の客は店内で死ぬ


そう、勘違いジャパン描写面白いのではない。


ちゃんと知ってるやつがやりたい放題した、過激で過剰で皮肉の効きまくったエクストリーム描写面白いのだ。

(ジローのスシ師匠は同名実在の寿司職人小野二郎氏にそっくりだ)


フランス料理、イタリア料理、菜食主義の足の裏をチクチク突きまくる皮肉な台詞。


悪者はジローにシラスウナギ(絶滅危惧種だ!)を振る舞い、ジローの店では”今じゃ太平洋に10匹いるかどうか”な本マグロスシを出す。


1月にトマトのカプレーゼを出した”のを理由配下のシェフを処刑する自然派菜食主義者はこっそり隠れてフォアグラ食うし


大衆デコレートしたジャンクを食わせて設けた金で伝統のレシピを追求する(『ラーメン発見伝』の芹沢さんみたいな)シェフだって腹が減ればそこらの屋台でタコス食って美味いっていうのだ。


思想信条金看板を鼻で笑ってみせる。


この料理への情熱と妙に醒めた視線が同居する感じはいかにも『キッチン・コンフィデンシャル』書いた作者の作品であり、明らかに頭がおかしいのになんとなく知的で小癪な感じがする。


アメコミ好き、料理好き、ゴラクビジネスジャンプで昔やってたような珍妙殺し屋主人公漫画好きの人々よ。


このグラフィックノベルは君のための本だ。

言うなればグルメ用心棒! 

スシ・ラストマン・スタンディング! 

あるいは発狂したトリコ!!


さあ、今すぐ本屋さんで「ゲットジロー!」

2017-02-17 仁義なきキリスト教史

[]架神恭介著 仁義なきキリスト教

仁義なきキリスト教史 (ちくま文庫)

仁義なきキリスト教史 (ちくま文庫)

キリスト教の歴史を広島やくざで語るスーパー罰当たりブック。

こんなサタスペみたいな本がちくま文庫から出ているのは大変感動的であり、いそいそと買ってきて読んだのであった。

信者を「やくざ」 

教会を「組」

信仰を「任侠道

と言い換え、身も蓋もないヤクザの抗争として世界宗教の歴史を振り返ることでなんか色々見えてくる……というギミックの本だと思うのですが

僕はそのギミックの方に夢中になってしまったのだ。


あいつら、言うてみりゃ人の罪で飯食うとるんで」

「糞の中の糞、糞のイデアじゃと思うとった」

やくざであるにも関わらず騎士と同様の鎖かたびらに身を包み、自らの馬を駆って前線に躍り出て戦うのが専ら(中略)ほとんど騎士のようなやくざがこの時代にはいたのである

ネフィリムじゃ!奴らの中にネフィリムがおったんじゃ!」

ネフィリムとは異常巨体で知られる武闘派やくざ集団のことである

等のすさまじい寝言の嵐。


文庫版おまけ『出エジプト 若頭モーセの苦悩』の振り切れた大惨事っぷりは相当堪らないわよ。

ほんとサタスペみたいな本だったわ*1

*1:なんでもサタスペに結合する風土病