風巻く翼に

鞍馬に行って参りました。
牛若丸が天狗と剣術修行をした、あの鞍馬山です。このところゾウだのキリンだのを接写したり、シカと友好関係を結んでみたり、なかなか活動的な週末を過ごしておりますが、今回は天狗を探しに京は洛北まで参りました。
このあたりは平安の昔から都のあてなる人々が避暑に訪れたり霊的なんちゃらをいただきにはべりけるなどした、まぁ歴史あるパワースポットです。夫との不和に悩んだ和泉式部も「ダーリンの浮気症をなんとかして欲しけり!」とかいって貴船神社にお参りしてます。


鞍馬へのアクセスは、大阪からなら京阪に乗っておけいはん気分(ローカルネタ)で終点出町柳まで出ます。その他遠方からなら、新幹線で京都駅まで来たらあとはどうにかして出町柳まで出てください。そこから、叡山電鉄に乗り換えて山の中を登ること30分で終点鞍馬駅に着きます。途中、大学がいくつかあるせいか、小さい電車に個性的な若者たちが乗り降りします。京都は大学の街なのです。車窓からも、学生向けのアパートやら昔ながらの下宿屋などが見られて、なんとなくノスタルジックな気分になります。
油断をしていると、いつの間にか四方を山に囲まれるような奥地に来ていて驚きます。鞍馬駅に着くと、早速天狗がお出迎えしてくれたりで、いやがおうにも気分が盛り上がります。駅前や門前には昔ながらのみやげもの屋さんが並んでいて、食事もできます。私はとろろそばを食べましたが、関西では珍しくちゃんと美味しいおそばでした。ここに来るまでで若干疲れていたのですが、そばつゆの塩分とわさびのおかげで身体が目覚めた感じです。夏場は汗をかいて塩分を失うので、きちんと塩気を取っておかないと。
鞍馬寺の山門で「愛山費」として200円支払います。そこで地図をくれるので、これは大事に持っておきましょう。鞍馬〜貴船へのハイキングはおよそ二時間半の道のり。この地図を頼りに歩きます。なお、この敷地内では途中紙パックの飲み物のみが売っている自販機がひとつある他はペットボトルなど売っていないので、あらかじめ駅前などで購入しておきましょう。また、ゴミを捨てる場所もありませんので、ハイキングの常識ではありますがゴミは自分で持ち帰りましょう。
山門をくぐって石段を登ると、すぐにケーブルカー乗り場があります。これは、山上の本堂まで二分ほどで一気に行きます。体力に自信がない方、ピンヒールの靴等できちゃった方、あまり時間がないという方などは、こちらを利用された方がよいでしょう。100円です。また、このケーブルカーは鞍馬山鋼索鉄道といって日本で唯一宗教法人が運営する鉄道らしいので、そっち方面に興味のある方も是非乗ってみると良いでしょう。
が、私は歩きに来たのでその横の参道をぐいぐい歩きます。

登るとすぐ、由岐神社があります。これは、鞍馬の火祭が行われる神社で、御輿がこの拝殿を通り抜けます。結構急な石段なので想像するとどきどきしますが、ちゃんとスピードが出すぎないように引っ張る人たちがいるそうです。主に若い女の人たちがするそうです。
この神社では天狗みくじなるものがあり、面白いので買ってみました。

こんな鈴型のキーホルダーになっています。どこがおみくじかと言いますと、

このように、後頭部に刺さっています。開いてみると、なんと大吉!

滅多におみくじなんて引かないのに!
「災害自ら去り福徳集まり誠に平地を行くが如く追手の風に船が進むが如く目上の人の助をうけて喜事があります信神怠らず心正しくしなさい」
「信神」てどの神を指すのかしら。私カトリックなんでヤーウェでも良いのかしら(カトリックのくせにおみくじとか引くな)。とにかく、これがマイファースト天狗となりました。


さて、さすが古くから霊地として守られてきただけあって、樹齢の高そうな巨木があちこちに見られます。「樹木の高齢化社会やー」とか彦麻呂なら言ってくれるかもしれません。また、季節の草花や昆虫なども楽しめます。



この山は自然観察園となっているそうで、おそらく山門で支払った「愛山費」がこの山の自然保護に充てられているのでしょう。多くの山岳寺院で、このくらいのことをしても良いのではないかと思います。
初夏の行楽日和の土曜とあって、軽登山装備のハイカーからデートで来ました的なカップルからいろいろですが、いつも驚くのは若いオシャレ女子のド根性。華奢なサンダルで、ガーリーなノースリーブワンピの白い腕を晒したまま輝く笑顔を彼氏に向けたままでこの山道を登り切るなんて、おばちゃんを通り越しておっちゃんになった私にはもう無理です。つーか無理じゃないときが人生で一度もありませんでした。生まれる時代を間違えたのか、出てくる産道を間違えたのか今となってはわかりません。


そうこうしているうちに、小一時間ほどで本堂です。
ところで、ネット等でこの鞍馬寺についてちょっと調べていただければおわかりになるかと思いますが、元々は比叡山の目の前であることから天台宗だったのですが、近現代以降のこの寺は鞍馬弘教総本山と改め、金星からやってきた(!)尊天・魔王尊(サナート・クマラ)という、少なくとも伝統仏教の教理には見られない本尊を祀っています。境内のあちこちにたつ看板にも宇宙エネルギーとかなんとか、若干の胡散臭さを否めません。しかし、尊天とか魔王尊とか厳めしい名前の割には本堂で祀られている本尊・尊天様のお姿は天狗そのもの。高尾山とかにいたら、間違いなく天狗呼ばわりされているところです。
そして、本堂と参拝客たちの間には奇妙な空間が。

普通だったら本堂前から賽銭を投げて鰐口やら鈴やらをガラガラいわせて拝むところを、

この円陣というか五芒星の真ん中の三角の上に立って祈るのです。…って、
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
いやもうあれですかね、五芒星の中央の三角形に集約された宇宙のエナジーを一身にいただいちゃうカンジですかね。
しかし、「人のセックスを笑うな。そして、人の信仰を馬鹿にするな。」この言葉を深く心に刻んで、私はこの場を後にしました。形はどうあれ、何かを敬う気持ちは人として自然な感情ですし、それは大切なものです。ただ、身を顧みることなく何も犠牲にすることなく、「そこに行けば何か特別なモノが貰える」みたいな、インスタントな現世利益主義に違和感を感じているだけです。偏屈なのは自覚してます。


さて、ここからはさらに奥山に向かい、貴船方面に降りていかなければなりません。途中、宝物殿(200円で自然史的な展示から平安後期の毘沙門天像など結構楽しめる)やお堂があったりして、ハイキングの道中としてはなかなか盛りだくさんです。

鞍馬山は庭石で最高級とされる鞍馬石の産地でもあります。従って、岩がごろごろしているのですが、おかげで木々が深く根を張れず、こうして地表に広がっているそうです。その先には僧正天狗の社なんかもあり、ミステリアスな雰囲気を盛り上げます。

その傍らには、こんな注意書きが。

「良識ある行為こそが正しい信仰の第一歩です。迷信にとらわれたり、非常識な行をしたりして身を亡くさぬよう、ご注意ください。」
…だそうだ。みんな、注意しよう!(つーか、一体何があったの…)
まぁたしかに、そんなヤバ気なアンテナの伸びた人たちを集めそうな場所ではあります。あちこちで、「あ、ほんまや、見えるー」とか(私の)目に見えないモノを見たり、「ほら、いま聞こえてん」とか(私の)耳には聞こえないモノを聞いたりしている人とかがいて、全く気が休まらない!誰だ癒しのスポットとか言った奴は!癒やされたがりな人たちが集まるおかげで全然オレが癒やされねー!!
「コレ、めっちゃきれいやのに写真には写らへんのやろうなー」とうっとりと魔王堂の向こう側を見ている女性とか、もう泣きたいです。

ちなみに、私の写真にもソレは写りませんでしたが、そもそも私にはソレが見えませんでした。べつに悔しくなんかありません。コレといって主義主張のないノンポリの私ですが、強いて言うなら目に見えないモノは基本信じない拝金主義者です。


さて、奥の院魔王堂を過ぎれば後は貴船への道を下るだけです。いささかうんざりした思いを抱えながら、山道を下ります。鞍馬側に比べ、貴船側は川の湿気のためか、苔むした木々が多いように思いました。

そして、所々に不動明王の石仏が。

だから何で石を積むの…。
徐々に川のせせらぎや車の往来する音が聞こえるようになり、鞍馬寺周辺より賑やかになってきます。下りはあっという間で、貴船側の川床料理屋が並ぶ貴船神社前に出てきます。

ここは古より水の神様として有名です。また、縁結びとしても有名で、先に言った和泉式部なんかもそういうわけでお参りしていたそうです。しかし、なんで水神で縁結びなのかはよくわかりません。水心あれば魚心ありでしょうか。境内には「水占」なるモノがあり、水の上におみくじを浮かべるとお告げが浮き出るという代物もあります。


また、絵馬発祥の神社であるそうで、元々日照りには黒馬、長雨には白馬又は赤馬を捧げていたものを板絵に変えて納めるようになったのが始まりだそうです。


さらに川上に向かうと、奥宮があります。

途中、磐長姫命(いわながひめのみこと)を祀った社があり、その入り口には「相生の杉」という一つの根から二つの神酒が育った杉の巨木があったり、奥宮の境内の傍らにも種類の違う二つの木が寄り添うように身を絡めて育った「連理の枝」などがあり、さすが千年以上も昔から続く由緒ある縁結びの神社は周辺の自然環境まで巻き込んでラブラブしたムードを醸していました。


パワースポットを訪れた際の例に漏れず今回もあちこちでいろんな人にあてられた感が否めませんが、要は自然というか人工物でないところに何か得体の知れない人の力が及ばない何かを感じる場所という意味でのパワースポットであるのなら、日本中がパワースポットだらけなわけで、そうはいっても日本は自然が豊かでそれを敬う感性を日本人は失っていないと言うことの証左であるかと思います。
ともあれ、歴史上の人物の足跡があちこちにある場所というのは、興味深いものです。特に京都は長らく歴史の中心であったことから、学校で勉強した人たちの痕跡が肌で感じることができて、ワキワキします。

また、貴船神社周辺は川床が並び、夏には川魚料理や涼しげな京懐石が、秋冬は紅葉を愛でながらボタン鍋などが供されます。私も数年前に両親と訪れましたが、鮎料理や絹糸のようなそうめんが見た目にも涼しく、京の納涼を楽しみました。次は、秋冬のこたつにはいっての鍋をつつきに来たいものです。


休憩などを含めておよそ三時間のコースでしたが、起伏に富んだ内容と行程で飽きませんし、京都の市街地ではなかなか味わえない野趣を体感できます。
京都のうだるような暑さに参ったら洛北へ!